上 下
10 / 49

10

しおりを挟む
 スチュアートとルイフトの母親達は怒っていた。せっかくまとめ上げた高位貴族との婚約をそれぞれの息子が勝手に破棄してしまったのだから。

「わたくしが四方手を尽くしてまとめ上げた婚約であったのに!」

 ぎりっと爪を噛む。息子には一言も告げずに結んだ婚約だったが、双方とも悪い後ろ盾ではなかった。
 正妃マリーベルは隙のない女であった。少し落ちぶれたとは言え公爵家の長女であり、陛下とは小さい頃から婚約者として過ごし、王太子妃、王妃教育もしっかり終了している。
 結婚してから早い時期に王子を産み、王女も1人いる。この国の正妃として文句の付け所もない女性だった。

 しかし、第一王子のフィリッツはパッとしない王子だ、と側妃二人は思っている。
 何せ、勉強はスチュアートの方が上だった。剣はルイフトの方が上だったから。
 それぞれの母親はフィリッツより自分達の息子の方が優れていると思い込んでいる。実際はフィリッツとスチュアートの知識はそれほど変わらないし、フィリッツとルイフトの剣の腕もそれほど変わらない。
 つまりフィリッツは知識も剣も優れた物を持っている。二人の弟は

「やっぱりフィリッツ兄上は凄い!」

 と尊敬し、それぞれの母親がフィリッツを悪様に言っても右から左に流していた。

「側妃様達にも嫌われたくないから、言い返さないで欲しいんだ」

 兄からそう言われているので、スチュアートもルイフトも従った。

「波風を立てない方がいい事もある、そう言う事だ」

 にこりと微笑むフィリッツに二人は色々な事を学んでいった。

「「やっぱり兄上は凄いなぁ」」

「二人が慕ってくれるからね」

 三人の仲は良く、フィリッツも婚約者とは仲も良好だった。

「ああ、母上達をなんとかしなくては」

「あたまが痛い……しかも勝手に決めて来た婚約者がまた酷い」

 スチュアートとルイフトは母親のせいでいつも苦労していた。

「空気も読めないし、マナーも悪い。本当に恥ずかしい」

「成人したら、母上を連れて王宮を出た方が良いだろうな。ああ、でもあの母上と一緒に暮らすのかと思うと暗い気持ちにしかならんな……」

 まだしばらく二人は母親に付き合って行かなければならなかった。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結済】冷血公爵様の家で働くことになりまして~婚約破棄された侯爵令嬢ですが公爵様の侍女として働いています。なぜか溺愛され離してくれません~

北城らんまる
恋愛
**HOTランキング11位入り! ありがとうございます!** 「薄気味悪い魔女め。おまえの悪行をここにて読み上げ、断罪する」  侯爵令嬢であるレティシア・ランドハルスは、ある日、婚約者の男から魔女と断罪され、婚約破棄を言い渡される。父に勘当されたレティシアだったが、それは娘の幸せを考えて、あえてしたことだった。父の手紙に書かれていた住所に向かうと、そこはなんと冷血と知られるルヴォンヒルテ次期公爵のジルクスが一人で住んでいる別荘だった。 「あなたの侍女になります」 「本気か?」    匿ってもらうだけの女になりたくない。  レティシアはルヴォンヒルテ次期公爵の見習い侍女として、第二の人生を歩み始めた。  一方その頃、レティシアを魔女と断罪した元婚約者には、不穏な影が忍び寄っていた。  レティシアが作っていたお守りが、実は元婚約者の身を魔物から守っていたのだ。そんなことも知らない元婚約者には、どんどん不幸なことが起こり始め……。 ※ざまぁ要素あり(主人公が何かをするわけではありません) ※設定はゆるふわ。 ※3万文字で終わります ※全話投稿済です

え?私、悪役令嬢だったんですか?まったく知りませんでした。

ゆずこしょう
恋愛
貴族院を歩いていると最近、遠くからひそひそ話す声が聞こえる。 ーーー「あの方が、まさか教科書を隠すなんて...」 ーーー「あの方が、ドロシー様のドレスを切り裂いたそうよ。」 ーーー「あの方が、足を引っかけたんですって。」 聞こえてくる声は今日もあの方のお話。 「あの方は今日も暇なのねぇ」そう思いながら今日も勉学、執務をこなすパトリシア・ジェード(16) 自分が噂のネタになっているなんてことは全く気付かず今日もいつも通りの生活をおくる。

婚約破棄された令嬢は変人公爵に嫁がされる ~新婚生活を嘲笑いにきた? 夫がかわゆすぎて今それどころじゃないんですが!!

杓子ねこ
恋愛
侯爵令嬢テオドシーネは、王太子の婚約者として花嫁修業に励んできた。 しかしその努力が裏目に出てしまい、王太子ピエトロに浮気され、浮気相手への嫌がらせを理由に婚約破棄された挙句、変人と名高いクイア公爵のもとへ嫁がされることに。 対面した当主シエルフィリードは馬のかぶりものをして、噂どおりの奇人……と思ったら、馬の下から出てきたのは超絶美少年? でもあなたかなり年上のはずですよね? 年下にしか見えませんが? どうして涙ぐんでるんですか? え、王太子殿下が新婚生活を嘲笑いにきた? 公爵様がかわゆすぎていまそれどころじゃないんですが!! 恋を知らなかった生真面目令嬢がきゅんきゅんしながら引きこもり公爵を育成するお話です。 本編11話+番外編。 ※「小説家になろう」でも掲載しています。

【完結】悪役令嬢に転生したのでこっちから婚約破棄してみました。

ぴえろん
恋愛
私の名前は氷見雪奈。26歳彼氏無し、OLとして平凡な人生を送るアラサーだった。残業で疲れてソファで寝てしまい、慌てて起きたら大好きだった小説「花に愛された少女」に出てくる悪役令嬢の「アリス」に転生していました。・・・・ちょっと待って。アリスって確か、王子の婚約者だけど、王子から寵愛を受けている女の子に嫉妬して毒殺しようとして、その罪で処刑される結末だよね・・・!?いや冗談じゃないから!他人の罪で処刑されるなんて死んでも嫌だから!そうなる前に、王子なんてこっちから婚約破棄してやる!!

転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀? 転生おばさんは忙しい そして、新しい恋の予感…… てへ 豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!

【完結】断罪されなかった悪役令嬢ですが、その後が大変です

紅月
恋愛
お祖母様が最強だったから我が家の感覚、ちょっとおかしいですが、私はごく普通の悪役令嬢です。 でも、婚約破棄を叫ぼうとしている元婚約者や攻略対象者がおかしい?と思っていたら……。 一体どうしたんでしょう? 18禁乙女ゲームのモブに転生したらの世界観で始めてみます。

【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。

yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~) パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。 この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。 しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。 もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。 「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。 「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」 そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。 竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。 後半、シリアス風味のハピエン。 3章からルート分岐します。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。 https://waifulabs.com/

戦う女子は、挫けない、へこたれない、逃げ出さない!

あとさん♪
恋愛
公爵令嬢のエリザベス・エクセターは相思相愛だったはずの婚約者である王子殿下に裏切られた。 浮気相手の男爵令嬢は彼の周りの側近候補たちをも籠絡させ、意のままに扱っている。 このまま目をつぶって学園を卒業し、彼と結婚するの? 私はまだ彼に愛されているの? こんなに冷たくされているのに、それでも彼に対する恋心を捨てきれない私が悪いの? そんな葛藤の日々に現れた聖女様。 「彼らは魔女に魅了されています」 一体、どういう事?! 東奔西走の日々の末に見つけた光明! そして『婚約破棄』宣言! 私たちの選択は、如何に····· *王道、を目指してみました。目指しては、みました。 *頑張る女の子を書きたかったのです。 *お嬢様言葉は難しいのです。 *完結・予約投稿済。ちょいちょい誤字修正等が入ります。 ※小説家になろうにも投稿してます。

処理中です...