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2 今はやりの婚約破棄なのでしょ

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「アナスタシアぁ……」

「分かっております、お父様」

 例え、第三王子の思いつきだろうがなんだろうが、貧乏最下級貴族の我が家に断る権利など一欠片もない。

「どうしてこんな事に……」

 混乱と涙する父親と家族を見て、私もため息をつくだけだ。どうせ、隣国で流行っているであろう「婚約破棄」だ。
 隣国で流行っている、と言うのは隣国の王太子だかなんだかが、自分の婚約者を引きづりおろし、しがない子爵令嬢を新たな婚約者にすげ替える、という事件が起こったのだ。
 しかしやはり子爵令嬢ではマナーも心許なく、何より王太子妃としての勉強が絶対に間に合わないのだ。だからその婚約も解消され、家柄が合う令嬢が抜擢された。
 そして二人は仲良く暮らした、という話だ。前世でいう所の婚約破棄物ね。

 ぶっちゃければ、子爵令嬢はただの言い訳で、隣国王太子は体良く気に食わない婚約者を捨て、新しい高位貴族の娘と婚約する……。そういう筋書きが出来上がっているのだ。
 子爵令嬢にすれば良い迷惑。だけれども国の偉い人から指名されたんじゃ断る事も出来ない。

 そういう事だ。

 だから、私もそう言う事なのだ。

 ……別に良いけど。どうせ結婚なんてしなくても良いと思ってたし。婚約して解消とは言え捨てられた令嬢にまともな嫁ぎ先なんてなくても、りんご園に人生を捧げるのも悪くないかもしれない。
 貴族でなければ、お嫁に貰って貰えるかもしれないしね。

 精一杯学園で勉強して、果樹栽培の本を読み漁り、美味しいりんごを作るんだ。王都でしか開かれない品種改良展に行って、新しい農薬を知ったり肥料を見るの。
 貴族の人脈なんていらないわ!勉強に忙しいもの。

「さあ、王宮へ行って勉強の時間だぞ」

 王子妃教育なんてやりたくないんです!

「……はい……」

 私に拒否権はない。


「アナスタシア!」

「リンデール様」

 私は不恰好ながら、挨拶をする。

「今日も、頑張りましょうね!」

「はい……」

 涙ぐみながら手を取り合うのは、リンデール・カラド子爵令嬢。こちらは第二王子から、そう言う目に遭わされた下位貴族令嬢である。私と同じパターンなのよ。
 ちなみに彼女は南の辺境のいちご農家の子爵令嬢だ。この辺も私と境遇が似ていて、親友と言っても過言ではない。彼女との農業談義は非常に楽しいのに……今から学ぶ事は、王宮マナーと貴族名鑑の暗記と歴史だわ。

 なので二人で無駄で無駄に厳しい教育を急ピッチで受けさせられている。どうせ王子様方がきちんと身分の釣り合いがとれた令嬢を見つけたらポイされる運命なのに。
 しかし、私達は頑張らねばならない。王家の不興を買うわけには行かないし、教育係は手抜きしようものならすぐバレる強者揃いだ。

 二人で真面目にひーひー言いながら勉強に歴史にマナーにと詰め込まれている。

「この辺りの事は13歳で覚えるところですよ!」

 す、す、すいません!13歳の頃はもうりんごの木に登って剪定の手伝いをしていました!とは言えず、ぐったりする迄扱かれる。

 そして終わるといつも通り、ルイフト様の生母であらせられる第三側妃がやって来て

「ふん!田舎臭い!こんなものがルイフトの婚約者など!本当にあの子はなんて事をしてくれたんでしょう!」

 と、私に文句を言うのである。あんたの息子でしょう!息子に言いなさいよ!パルスェット様との婚約を破棄した為、ヘザー家の後ろ盾を失くしてしまった。それでもまだルイフト様を次の国王にしたい側妃様は日々画策をしているらしい。
 私には関係のない事だわ。
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