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8 話題の天使
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話題の天使が学園に入ってきた。アンセル・フェルム公爵令息。煙るような美しい金髪と、煌めく碧眼の少年。
何故かもっと嫋やか、いや弱々しいイメージがあったが、現れたアンセルは温室の花のようでは無かった。
「おはようございます」
鮮やかな姿だった。普通の、いや普通ではない完璧な公爵令息に成長したアンセルは全て生徒の人目を引いた。
「アンセル様素敵ねー」
「本当に!でも意外と……」
「ああ、分かるわ……」
アンセルと言う大輪の花を飾るように背後に控えるユールも女子達の視線を集めていた。
成績は中の中。全ての実力が中位に位置する子爵令息。嘘くさい程の中間位置を保っているし、絶対にアンセルに勝とうとしない姿は賞賛と侮蔑を受けている。
しかし、アンセルと言う人外の美貌の前に霞むとは言え、同じ空間に存在出来ている事に気が付く聡い女生徒は多かった。
「あのアンセル様の傍にいることが出来るって事は……」
たまたまユールが一人で立っている所を見た女生徒はやっぱりと確信する。あの子爵令息はとても素敵な顔立ちをしていると。視界にあまりにも美しい物がいると周りが霞むから霞んで見えるが、ユール単体を見れば、彼はとても美しい人間であると。
「ん?どうかしました?」
「あ、なんでもないです」
視線に気が付き人当たりの良さそうな笑みを浮かべ、気さくに話しかけてくる。気後れするほどではなく、兎角「ちょうどいい」。下位貴族の女子達に絶大な人気を誇っている事をユール本人は全く気が付いていない。
「ユール、どこ行ってたの?」
「ん?教授に言われて準備室の片づけを手伝っていたよ」
ユールが一人で居た時間はとても短く、花弁がこぼれ落ちるような笑顔でアンセルがやってきて隣に立った。こうなると話しかけることが出来る女生徒はいない。
「私も呼んでくれれば良かったのに。二人でやったら早かっただろう?」
「はは、そんな雑用をアンセルに手伝わせる訳にはいかないよ」
「私がユールと一緒にやりたかったんだって」
「アンセルは優しいなあ~、好きになっちゃいそう」
「ふふ、もう好きなくせに」
「そう言えばそうか?」
彼ら流の冗談のやり取りなのだろうけれど、その距離の近さに眩暈を覚える令嬢も多かった。
「う、麗しい……」
その隣を狙う者達からすれば
「腹立たしい」
もっと余裕のある者からすれば
「二人一緒に手に入れるのも一興か?」
あまり誉められたものではない、私欲に塗れた思惑が蠢く。
アンセルを真っ当に守る事しか頭にないユールは自分自身も狙われている自覚は皆無だった。
「大丈夫だよ、私がずーっと守ってあげるからね」
「アンセル?何か言った?」
聞こえないように呟いた言葉は、正しく伝わらず、今までのユールの努力のお陰か真っ当な公爵令息に育ったアンセルは高位貴族らしい言動を身につけて賢く育っていた。
「ううん、何も。ねえユール、次の剣術の授業どっちが勝つか賭けをしよう?負けた方が勝った方の言う事を聞く事!」
「うーん、良いよ。負けないけどね?」
「絶対だからね!」
「勿論」
アンセルは知っている。ユールはアンセルより強いが絶対にアンセルに勝たない事を。いつも絶妙な所でアンセルに勝たせるよう動く事を。
最初は気が付かなかったが、ユールと一緒にいたくて剣を習い、アンセル自身の実力が上がってくるとその手加減に気づいてしまった。
しかしアンセルはそれをやめさせようとしなかった。公爵家のアンセルと子爵家のユール。ユールがアンセルより優っていてはどんな軋轢が生じるかは火を見るより明らかだった。だから、ユールの行動は正しい。
でも腹が立たないかと言われたらそんな事はない。ならば、それを利用する事にしたのだ。
「どうしようかなー?ほっぺにちゅーして貰おうかな?あ、ハンカチでも手作りして貰おうかなぁ?」
「やめてよ、裁縫は好きじゃないんだ」
「売れるくらい上手なのに??」
ユールが「手に職を」と言って色々な事をしている事も知っていた。だからそれを利用させて貰うつもりだ。
「ははっ!じゃあアンセルが高値で買ってくれる?」
勿論だよ、と口には出さずににっこり微笑む。高値なんていうけれど、ユールは常識的な値段しか提示してこないのは知っているし、それに大好きな人の手作り品を買えるならそんなに嬉しい事はない。
何故かもっと嫋やか、いや弱々しいイメージがあったが、現れたアンセルは温室の花のようでは無かった。
「おはようございます」
鮮やかな姿だった。普通の、いや普通ではない完璧な公爵令息に成長したアンセルは全て生徒の人目を引いた。
「アンセル様素敵ねー」
「本当に!でも意外と……」
「ああ、分かるわ……」
アンセルと言う大輪の花を飾るように背後に控えるユールも女子達の視線を集めていた。
成績は中の中。全ての実力が中位に位置する子爵令息。嘘くさい程の中間位置を保っているし、絶対にアンセルに勝とうとしない姿は賞賛と侮蔑を受けている。
しかし、アンセルと言う人外の美貌の前に霞むとは言え、同じ空間に存在出来ている事に気が付く聡い女生徒は多かった。
「あのアンセル様の傍にいることが出来るって事は……」
たまたまユールが一人で立っている所を見た女生徒はやっぱりと確信する。あの子爵令息はとても素敵な顔立ちをしていると。視界にあまりにも美しい物がいると周りが霞むから霞んで見えるが、ユール単体を見れば、彼はとても美しい人間であると。
「ん?どうかしました?」
「あ、なんでもないです」
視線に気が付き人当たりの良さそうな笑みを浮かべ、気さくに話しかけてくる。気後れするほどではなく、兎角「ちょうどいい」。下位貴族の女子達に絶大な人気を誇っている事をユール本人は全く気が付いていない。
「ユール、どこ行ってたの?」
「ん?教授に言われて準備室の片づけを手伝っていたよ」
ユールが一人で居た時間はとても短く、花弁がこぼれ落ちるような笑顔でアンセルがやってきて隣に立った。こうなると話しかけることが出来る女生徒はいない。
「私も呼んでくれれば良かったのに。二人でやったら早かっただろう?」
「はは、そんな雑用をアンセルに手伝わせる訳にはいかないよ」
「私がユールと一緒にやりたかったんだって」
「アンセルは優しいなあ~、好きになっちゃいそう」
「ふふ、もう好きなくせに」
「そう言えばそうか?」
彼ら流の冗談のやり取りなのだろうけれど、その距離の近さに眩暈を覚える令嬢も多かった。
「う、麗しい……」
その隣を狙う者達からすれば
「腹立たしい」
もっと余裕のある者からすれば
「二人一緒に手に入れるのも一興か?」
あまり誉められたものではない、私欲に塗れた思惑が蠢く。
アンセルを真っ当に守る事しか頭にないユールは自分自身も狙われている自覚は皆無だった。
「大丈夫だよ、私がずーっと守ってあげるからね」
「アンセル?何か言った?」
聞こえないように呟いた言葉は、正しく伝わらず、今までのユールの努力のお陰か真っ当な公爵令息に育ったアンセルは高位貴族らしい言動を身につけて賢く育っていた。
「ううん、何も。ねえユール、次の剣術の授業どっちが勝つか賭けをしよう?負けた方が勝った方の言う事を聞く事!」
「うーん、良いよ。負けないけどね?」
「絶対だからね!」
「勿論」
アンセルは知っている。ユールはアンセルより強いが絶対にアンセルに勝たない事を。いつも絶妙な所でアンセルに勝たせるよう動く事を。
最初は気が付かなかったが、ユールと一緒にいたくて剣を習い、アンセル自身の実力が上がってくるとその手加減に気づいてしまった。
しかしアンセルはそれをやめさせようとしなかった。公爵家のアンセルと子爵家のユール。ユールがアンセルより優っていてはどんな軋轢が生じるかは火を見るより明らかだった。だから、ユールの行動は正しい。
でも腹が立たないかと言われたらそんな事はない。ならば、それを利用する事にしたのだ。
「どうしようかなー?ほっぺにちゅーして貰おうかな?あ、ハンカチでも手作りして貰おうかなぁ?」
「やめてよ、裁縫は好きじゃないんだ」
「売れるくらい上手なのに??」
ユールが「手に職を」と言って色々な事をしている事も知っていた。だからそれを利用させて貰うつもりだ。
「ははっ!じゃあアンセルが高値で買ってくれる?」
勿論だよ、と口には出さずににっこり微笑む。高値なんていうけれど、ユールは常識的な値段しか提示してこないのは知っているし、それに大好きな人の手作り品を買えるならそんなに嬉しい事はない。
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