【完結】不憫令息を幸せにする。責任を取ったつもりがこういうのはちょっと違うと思います!

鏑木 うりこ

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5 帰れ帰れ!

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「何よ!この家の使用人ったら最低っ!クビにしてやるわ!ねえお兄様」

「全くだぜ!カミル。お父様に言いつけてやるんだからな!」

 ミストレア子爵家の長男ゴニーは顔を真っ赤にして叫んだ。

「わ、私どもは何も……」

 と、ゲームでは執事さんがおろおろするが

「だからどうしたと言うのです?我々の仕事への決定権はミストレア子爵にはございません。決めるのは旦那様でございます」

 冷たい目でゴニーとカミルは無視された。

「え……」

「そ、そんな事は……だって王都に行けばお父様が公爵だって……」

「そんな訳あるはずもない。いくら田舎の子爵家だとはいえ、これ程までに礼儀も知識もないとは……ユール様を見習っては?」

「くそっ!!」

 ゴニーが僕を睨んで来るけれど、僕は怖くない。ゴニーは頭が悪いしカミルも。すぐに尻尾を出すんだ。
 実際、フェルム家について3日で礼儀知らずと屋敷の人間全員にバレた。田舎の出で更に子爵といえど酷すぎる。特にお茶の時間が酷くて、2人ともお茶請けのクッキーを齧りながら辺りを走り回り、壁の絵にお茶をぶっ掛け、その溢れたお茶でゴニーは滑って転び、飾ってあった壺を割る。カミルも一緒に転んでテーブルに突っ込んできて巨匠セルマイのティーセットを完膚無きまでに叩き壊した。
 僕とアンセルは並んで座っていたけど、目の前で起きた破壊劇から自分のお茶を守る事しか出来なかった。

「イライザさん。流石に弁償請求はさせて頂きますわね?」

「こ、子供のした事ですから……」

 顔を真っ青にして、責任逃れをしようとしたイライザ・ミストレア子爵夫人だけど流石にこれは無理だよ……。

「お金の事を言うのは心苦しいのですが、カイルの絵は1000万ゴールド、飾り壺は700万ゴールド。ティーセットは100万ゴールドの品ですわよ。流石に無かったことには出来ませんわ」

「ひっ?!」

「それより何よりこのティーセットは私が嫁入りの時に持ってきたお気に入りでしたのに……残ったのがアンセルとユールが手にしていたカップ2つだけとは……」

 心底残念そうに目を伏せるマルグリット様。可愛いでしょう?ここにひよこが2匹いてアンセルとユールみたいね、って笑って教えてくれたのに。カップを僕にまで見せて来ていたから相当気に入っていたんだなぁ。
 そういえばこれ、ゲーム内でミストレア夫人が質屋に持ち込む姿が描かれたイラストに出て来てたかも?足元を見られて2万くらいで買い叩かれてたけど。

 ミストレア子爵家は1日目から借金を1800万ゴールドも背負う事になったけど、妥当だと思う。

 4日目にはゴニーとカミルは母屋への出入り禁止が言い渡された。ゴニーは勝手にアンセルの部屋に入って物色し、アクセサリー類を手に持っていた所を見つかった。
 カミルは勝手にマルグリット様の部屋で衣装ダンスを漁り、ドレスを胸に当ててくるくる回っていた所を見つかった。

「グレッグ……君の子供達への躾はどうなっているんだね?ゴニーは許可なくアンセルの部屋に入り、まるで強盗のようだし、カミルも妻の部屋へ我が物顔で忍び入り、衣装ダンスをひっくり返したかのようだったと報告を受けているぞ」

「そ、それは、あのその……妻の、教育が……」

 人のせいにしても酷すぎる。

「すまないが君を私の補佐とするのは難しいようだね」

「なっ?!」

 領地経営の補佐に来てもらったが、初日からの行動の酷さにフェルム家の全員がノーを突きつけ、たった一週間でグレッグ達は屋敷を追い出される。

「こ、困る!私達はどこへ行けば良いんだ?!」

「今までの家に帰りたまえ」

「そんなの弟に売ってきた!」

 しかし同情出来る事は一つもなかった。

「最初の1ヶ月は君の能力を見る期間だと契約してあった。もし、能力が足りないようであれば雇えないと。それなのに帰る家がないと訴えられてもこちらとしても困惑しかない」

「し、仕事は出来ていたでしょう?!」

 ベッドの上でフェルム公爵は溜息をつく。

「どれも不合格だよ、ミストレア子爵。まず文字が汚くて読めない物が多いし、綴り間違いや計算ミスばかり。アンセルやユールの方が美しい字を書く」

 ぱさりとグレッグが書いた書類を広げるが酷い物だ。うん、僕の方が字が上手だなあ?

「ぐ……」

「君を紹介してくれたメシリー伯爵にも一言言わねばならんな」

 グレッグ達親子はフェルム家を出て行った。これでアンセルの幼少期の憂いはだいぶ減ったはず。

「でも気を抜けないぞ!」

「どうしたの?ユール??」

 不思議そうに首を傾げるアンセルを守ってやらなきゃな!

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