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27 階段登って
しおりを挟む「レン、煙が出ています!」
「え……あっ、ホットケーキ! あちっ!」
俺は朝食のホットケーキを炭化させていた……。別に火のそばから離れていた訳じゃなくて、ちゃんとみてたのに考え事をしていたせいだ。ついでにちょっとフライパンに触ってしまった。
「レン! 早く冷やして」
「あわわ……大丈夫です、これくらい」
鍛冶をしているとき、これくらいの火傷なんてしょっちゅうだから大丈夫なのに、殿下は急いで駆け寄って来て水を持って来てくれる。
「夢中の時は仕方がないとしても、手当できる時はしっかりしなさい」
「はぁい……」
怒られてしまった……なのに心配してくれることがちょっと嬉しく感じるなんてなんかおかしいな。
冷たい水に手をつけていると、殿下がホットケーキの続きを焼いてくれた。黄色くて少しだけ茶色のすごく美味しそうな色に焼けたとても大きなホットケーキだ。
「で、殿下ってお料理もできたんですね!」
凄い、何でもできるんだなぁ。
「レンの真似をしただけですよ。さあ、口を開けて?」
目を一口大に切られたホットケーキが目の前に差し出される。え、もしかしてこれは、あーんってやつ?
「やっ! 自分で食べられます」
「私が食べさせたいんだ。ね?」
「うひゃい……」
ニコニコ顔の殿下だけど、この顔はうん、っていうまで絶対許してくれないやつだ……俺知ってる。意を決して大きく口を開けたら、シロップたっぷりのホットケーキケーキが入ってくる。
「美味しいですか?」
「ひゃい……」
「それは良かった。愛情たっぷり入れておきましたから」
「ひゃい!」
いつものホットケーキより甘く感じたのは気のせいかな……。甘すぎたからだと思う。
「そうだ……リンに相談してみよう」
何だかモヤモヤした気持ちが落ち着かない。これをどうしたらいいか……リンならなにか良い答えを教えてくれそうな気がして、一人で魔王城まで歩いて行った。
魔王城までの道のりは平和そのもので、少し前までは凶暴化した魔物で埋め尽くされていたなんて考えられない。小さなネズミやウサギなんかが新しく生えて来た青草を食べに現れたりするくらいになっている。どんよりとした雲もなく、ぽかぽかとした陽気が心地良い。今や燦々と太陽を浴びている魔王城はただ建材が黒いだけの普通のお城だ……素材にしても呪われてないから必要ないくらい。
「えーと……」
広い魔王城の中で、リンが寝泊まりしているのは日当たりのいい三階の南向きの部屋だと聞いている。掃除された階段を登り、三階へ足を踏み入れると内部も最初に来た時のおどろおどろしい雰囲気はまるでなく、普通のお城のような感じがした。薄汚れていた廊下や壁はきれいに磨かれていたし、破れていた絨毯や壁掛けは直っている。きっとあの猫メイドが頑張っているんだろうな。
部屋と扉はいくつかあるけど、特に綺麗に掃除されている扉を見つけた。多分そこがリンが使ってる部屋なんだろうな。いるかどうか分からないけれど、ノックしてみれば分かるはずだ。
俺は扉に近づいて叩く寸前に中から聞こえてくる声に固まってしまった。
「あっ! あっ! ル、ルーセウスッ、も、もう、無理ぃっイ、イくぅっ!」
「ふ、良いぞ、リン……中に出すぞ」
「ちょうだい……っ、いっぱい、あ、い、いくぅーーっ」
「くっ」
激しい息遣い、肉と肉がぶつかる乾いた音……そして甲高い嬌声。流石の俺も中で何をやっているかくらいは察しがついた。
お、弟が大人の階段を登ってしまったーー!
二、三歩後ろへ蹌踉めくと、背後に気配を感じた。
「ニャ」
「はっ、猫の人!」
「ニャーシュと申しますニャ、レン様。とうとう三日ほど前に名実共にリン様はオクサマになられましたニャ。使用人一同お祝いですニャ」
「オ、オクサマ……っ」
なんと……三日前とは。もう今日も日は高くてお昼になりそうなのに……もしやずっと?!
「魔王様は絶倫ですニャ」
「そ、そうなんだ……お邪魔そうだし、今日は帰るね……」
「はいニャ! あと四日もすれば大丈夫ですニャ」
「分かった、ありがとう」
そ、そうなんだ……リンは一週間ああなんだ……。流石の俺も家に帰るしかなかった。こ、これはおめでとう、なんだよな……?
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