やらかし兄は勇者の腕の中で幸せに。それくらいがちょうど良いのです

鏑木 うりこ

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24 少し騙された感じもするけれど?

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「リンのこと心配だけど……俺、殿下と一緒にいたい……」
「ずっと一緒にいてくれますか?」
「うん……俺、ずっと一緒にいる……」
「食事も作ってくれますか? これから朝食を毎日」
「うん、毎日作るね……」
「それは嬉しいです。末永くよろしくお願いしますね」
「はい……」

 ……これで良かったんだよな……? なんだか頭はぽわんとするけど、ぎゅっと抱きしめてくれる殿下はいつも優しいもん。鎧を脱いでもかなりしっかりした体を抱きしめ返す。いつもぎゅうぎゅうしてくるから、なんかそれが当たり前になっちゃってる気がするんだ。
 ふと、上の方で笑った気配がしたので顔を上げてみるととても満足そうに青い目を細めて、殿下が微笑んでいた。

「所で私は今しばらくこの魔王城へ留まります。まだ民衆の魔王への恐怖は拭い切れていません。何かあった時にすぐ対処できる者がそばにいる事は人心の安寧につながりますからね」
「え、じゃあ……今と変わらないの……?」
「ええ、2.3年はここに留まろうかと思います。騎士達も交代で来てくれたりしますし、物資も色々運んでくれる予定ですよ。新居とか建てましょうね」
「え、あ、はい」

 あれ? 俺の決意的なものは何だったんだろう……。なんかさっき帰っちゃうみたいなこといってなかった? だから俺、置いていかれるの嫌だと思ってーー。

「ずっと一緒ですよ」
「ひゃっ?!」

 急にほっぺにチューとかされたからびっくりして飛び上がってしまった。あ、そっか好きだったらチューくらいするのか! ほっぺにチューなんて初めてだったから凄くびっくりしたんだ!



「魔王城で同棲など致しませんよ。この城がよく見える近くの丘に家を建てます」
「そうだな、それが良かろう。だが夕飯はそちらの家に食べに行かせていただきたい」
「記念日以外なら喜んで」

 あっという間に話は進み、あっという間に広い食堂がついた大きめの家が建てられた。しかも小さな工房までついてて、なんの不満もない家だった……あ、あれ?

「我々も何交代かでご一緒しますね」
「あ、はい」

 俺と殿下の家のそばに騎士さん達の家が建てられて小さな村になっていて、かなり頻繁に行商人が行き来するようになった。地理的にこの場所を通ると便利らしい。今までは魔王城という恐ろしい物のせいでめちゃくちゃ遠回りしていたが、勇者である殿下が常駐しているのであれば安全だと商人達がこぞって道を整備し、通行を開始したのだ。
 毎日何組もの商隊が行き来して結構賑やかだ……。

「ニャニャ! ワタクシ、魔王城でメイドをしております、猫の半魔人でございます。こちらの集落には行商人が立ち寄ると聞き及んでおります。そこで物は相談なのですが、ワタクシ共にもお買い物をさせていただきとう存じます、ニャ」
「なるほど、きちんと話も通じるようだし、暴力がなくきちんと支払いをしてくれるのならば構わないと思う」
「ありがとうございますニャ。今まではオクサマから石鹸などいただいておりましたが、オクサマの手を煩わせるなど、メイドの沽券に関わりますニャ」
「……オクサマって誰?」
「ニャニャ?! オクサマはリン様ですニャ! アランフィールド様のオクサマのレン様の弟君でいらっしゃいましょう?!」
「あれっ?! リンってルーセウスと結婚してたの?」
「まだですけど、もうするも同然、したようなもの、むしろしました! 的な奴ですニャ」
「へ、へぇ……」
「そういう訳で御許可いただきありがとうございますニャ。本日はこれで失礼させていただきますニャ。後日改めてお買い物に来させていただきますニャ」
「あ、ご丁寧にどうも」
「ニャニャ!」

 猫っぽさがかなり前面に押し出された猫の半魔人は短めのスカートを翻して魔王城へ戻って行った。いたんだ……メイドさん。

「城ですからね。掃除するだけでも人手が必要でしょう。凶暴化した魔獣がひしめいていた時は掃除なんてできなかったでしょうが、ああして魔王が正気を取り戻した今ならば城を清潔に保とうと思っても不思議ではないはずです」
「そういえばそうですね」

 魔王城には魔王ルーセウスとリン以外も住んでいて、買い物へ来ることも騎士さん達に通達しておく。

「はあ、猫ですか! 私、猫好きなんですよねー、見てみたいです」
「行商人が来たら向こうからやって来ますよ。不用意に撫でて引っ掻かれたりしても自己責任ですからね」
「分かっております!」

 黒い魔力が無ければ魔物と呼ばれていた人や動物もそんなに怖い存在ではないと少しづつ分かって来た……良かった。

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