24 / 36
24 少し騙された感じもするけれど?
しおりを挟む「リンのこと心配だけど……俺、殿下と一緒にいたい……」
「ずっと一緒にいてくれますか?」
「うん……俺、ずっと一緒にいる……」
「食事も作ってくれますか? これから朝食を毎日」
「うん、毎日作るね……」
「それは嬉しいです。末永くよろしくお願いしますね」
「はい……」
……これで良かったんだよな……? なんだか頭はぽわんとするけど、ぎゅっと抱きしめてくれる殿下はいつも優しいもん。鎧を脱いでもかなりしっかりした体を抱きしめ返す。いつもぎゅうぎゅうしてくるから、なんかそれが当たり前になっちゃってる気がするんだ。
ふと、上の方で笑った気配がしたので顔を上げてみるととても満足そうに青い目を細めて、殿下が微笑んでいた。
「所で私は今しばらくこの魔王城へ留まります。まだ民衆の魔王への恐怖は拭い切れていません。何かあった時にすぐ対処できる者がそばにいる事は人心の安寧につながりますからね」
「え、じゃあ……今と変わらないの……?」
「ええ、2.3年はここに留まろうかと思います。騎士達も交代で来てくれたりしますし、物資も色々運んでくれる予定ですよ。新居とか建てましょうね」
「え、あ、はい」
あれ? 俺の決意的なものは何だったんだろう……。なんかさっき帰っちゃうみたいなこといってなかった? だから俺、置いていかれるの嫌だと思ってーー。
「ずっと一緒ですよ」
「ひゃっ?!」
急にほっぺにチューとかされたからびっくりして飛び上がってしまった。あ、そっか好きだったらチューくらいするのか! ほっぺにチューなんて初めてだったから凄くびっくりしたんだ!
「魔王城で同棲など致しませんよ。この城がよく見える近くの丘に家を建てます」
「そうだな、それが良かろう。だが夕飯はそちらの家に食べに行かせていただきたい」
「記念日以外なら喜んで」
あっという間に話は進み、あっという間に広い食堂がついた大きめの家が建てられた。しかも小さな工房までついてて、なんの不満もない家だった……あ、あれ?
「我々も何交代かでご一緒しますね」
「あ、はい」
俺と殿下の家のそばに騎士さん達の家が建てられて小さな村になっていて、かなり頻繁に行商人が行き来するようになった。地理的にこの場所を通ると便利らしい。今までは魔王城という恐ろしい物のせいでめちゃくちゃ遠回りしていたが、勇者である殿下が常駐しているのであれば安全だと商人達がこぞって道を整備し、通行を開始したのだ。
毎日何組もの商隊が行き来して結構賑やかだ……。
「ニャニャ! ワタクシ、魔王城でメイドをしております、猫の半魔人でございます。こちらの集落には行商人が立ち寄ると聞き及んでおります。そこで物は相談なのですが、ワタクシ共にもお買い物をさせていただきとう存じます、ニャ」
「なるほど、きちんと話も通じるようだし、暴力がなくきちんと支払いをしてくれるのならば構わないと思う」
「ありがとうございますニャ。今まではオクサマから石鹸などいただいておりましたが、オクサマの手を煩わせるなど、メイドの沽券に関わりますニャ」
「……オクサマって誰?」
「ニャニャ?! オクサマはリン様ですニャ! アランフィールド様のオクサマのレン様の弟君でいらっしゃいましょう?!」
「あれっ?! リンってルーセウスと結婚してたの?」
「まだですけど、もうするも同然、したようなもの、むしろしました! 的な奴ですニャ」
「へ、へぇ……」
「そういう訳で御許可いただきありがとうございますニャ。本日はこれで失礼させていただきますニャ。後日改めてお買い物に来させていただきますニャ」
「あ、ご丁寧にどうも」
「ニャニャ!」
猫っぽさがかなり前面に押し出された猫の半魔人は短めのスカートを翻して魔王城へ戻って行った。いたんだ……メイドさん。
「城ですからね。掃除するだけでも人手が必要でしょう。凶暴化した魔獣がひしめいていた時は掃除なんてできなかったでしょうが、ああして魔王が正気を取り戻した今ならば城を清潔に保とうと思っても不思議ではないはずです」
「そういえばそうですね」
魔王城には魔王ルーセウスとリン以外も住んでいて、買い物へ来ることも騎士さん達に通達しておく。
「はあ、猫ですか! 私、猫好きなんですよねー、見てみたいです」
「行商人が来たら向こうからやって来ますよ。不用意に撫でて引っ掻かれたりしても自己責任ですからね」
「分かっております!」
黒い魔力が無ければ魔物と呼ばれていた人や動物もそんなに怖い存在ではないと少しづつ分かって来た……良かった。
367
お気に入りに追加
500
あなたにおすすめの小説
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。
八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。
パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。
攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。
ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。
一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。
これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。
※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。
※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。
※表紙はAIイラストを使用。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

兄がやらかしてくれました 何をやってくれてんの!?
志位斗 茂家波
ファンタジー
モッチ王国の第2王子であった僕は、将来の国王は兄になると思って、王弟となるための勉学に励んでいた。
そんなある日、兄の卒業式があり、祝うために家族の枠で出席したのだが‥‥‥婚約破棄?
え、なにをやってんの兄よ!?
…‥‥月に1度ぐらいでやりたくなる婚約破棄物。
今回は悪役令嬢でも、ヒロインでもない視点です。
※ご指摘により、少々追加ですが、名前の呼び方などの決まりはゆるめです。そのあたりは稚拙な部分もあるので、どうかご理解いただけるようにお願いしマス。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる