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7 年の瀬
2 忙しい時期なのに
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「失礼します」
「いらっしゃいませ」
言葉の差異がそのまま内容になったような訪問者でした。
「ここは食堂であるのに、店内に動物がいると報告を受けました」
「え……?」
思わず、私は小上がり……たぬきち先生の指定席を見ますが、たぬきち先生は棚の上に鎮座しています、何の問題もありません。
「居ませんが……」
「いいえ、確かに狸を飼っていると苦情のメールが届いています!」
「どこに届いたんですか?」
「市役所です!」
つまりは市役所から来たというその女性は30代後半でしょうか?きっちりと紺のスーツを着て、髪をまとめ上げて眼鏡をしたとても「お役所仕事が似合いそうな」方でした。しかし、物言いが高圧的で、流石の私も少し嫌な気持ちになってしまいます。完全に私が悪人、自分は善人で正しい事をしていると思い込んでいるようにみえるのです。
「するとあなたは市役所の方なのですか?保健所ではなく?」
「ええ!そうです!」
言い切る女性にギロリと睨まれる。でも店内に動物……狸が居た形跡なんて一つもない。それはそうです、ぽんきち先生は見た目は狸ですが、由緒正しい信楽焼き。抜け毛一本落ちません。
「風鈴食堂は食堂ですから、野生動物が入り込んでいたと保健所の方から視察や指導が入るなら納得は出来ます。しかしこれでここにそのメールの様な事がない事はお判りになりましたよね?」
「よく見させていただきます!!」
なんでしょうか、この方は。客席では飽き足らず、厨房までズカズカと乗り込んでくるつもりです。流石にそれはお断りさせていただきます。
「すみませんが、この先は調理をしているんです。手洗い消毒もなしに入られるのはそれこそ衛生上の観点からよろしくありません」
「その先に隠してるのね!さっさと尻尾を出しなさい!!」
「え……」
意味が分かりません。ど、どうしましょう……。
小春ッ!俺達が追い払おうか?
なんだその人間!偉そうに!
塩撒け、塩ッ!
調理器具の付喪神様達がワイワイと騒ぎ立てますが、皆さんが手を出したらこの人間の女性はちょっと大変な人生を送らなければならなくなってしまいます。
「どいてっ!!」
「わっ」
女性だと思って少し油断していました。凄い力で袖を引っ張られバランスを崩して床に倒れてしまったんです。
「い、痛……」
小春!
うちの小春ちゃんになんてこと!
あ、ああーー!私はお尻を打っただけです、大丈夫ですー大丈夫ですー!
「小春君!!うちの山下が来てないか!?」
「秋元さん??」
暖簾を跳ね上げて、引き戸を乱暴に開けて常連さんの一人の秋元隆さんが血相を変えて風鈴食堂に入ってきました。
「小春君!山下春江が来てるんだね?山下!山下春江!!いい加減にしてくれ!!!」
秋元隆さんはここの市長さんです。その方が大声を張り上げて怒っています……い、一体何が……?
「いらっしゃいませ」
言葉の差異がそのまま内容になったような訪問者でした。
「ここは食堂であるのに、店内に動物がいると報告を受けました」
「え……?」
思わず、私は小上がり……たぬきち先生の指定席を見ますが、たぬきち先生は棚の上に鎮座しています、何の問題もありません。
「居ませんが……」
「いいえ、確かに狸を飼っていると苦情のメールが届いています!」
「どこに届いたんですか?」
「市役所です!」
つまりは市役所から来たというその女性は30代後半でしょうか?きっちりと紺のスーツを着て、髪をまとめ上げて眼鏡をしたとても「お役所仕事が似合いそうな」方でした。しかし、物言いが高圧的で、流石の私も少し嫌な気持ちになってしまいます。完全に私が悪人、自分は善人で正しい事をしていると思い込んでいるようにみえるのです。
「するとあなたは市役所の方なのですか?保健所ではなく?」
「ええ!そうです!」
言い切る女性にギロリと睨まれる。でも店内に動物……狸が居た形跡なんて一つもない。それはそうです、ぽんきち先生は見た目は狸ですが、由緒正しい信楽焼き。抜け毛一本落ちません。
「風鈴食堂は食堂ですから、野生動物が入り込んでいたと保健所の方から視察や指導が入るなら納得は出来ます。しかしこれでここにそのメールの様な事がない事はお判りになりましたよね?」
「よく見させていただきます!!」
なんでしょうか、この方は。客席では飽き足らず、厨房までズカズカと乗り込んでくるつもりです。流石にそれはお断りさせていただきます。
「すみませんが、この先は調理をしているんです。手洗い消毒もなしに入られるのはそれこそ衛生上の観点からよろしくありません」
「その先に隠してるのね!さっさと尻尾を出しなさい!!」
「え……」
意味が分かりません。ど、どうしましょう……。
小春ッ!俺達が追い払おうか?
なんだその人間!偉そうに!
塩撒け、塩ッ!
調理器具の付喪神様達がワイワイと騒ぎ立てますが、皆さんが手を出したらこの人間の女性はちょっと大変な人生を送らなければならなくなってしまいます。
「どいてっ!!」
「わっ」
女性だと思って少し油断していました。凄い力で袖を引っ張られバランスを崩して床に倒れてしまったんです。
「い、痛……」
小春!
うちの小春ちゃんになんてこと!
あ、ああーー!私はお尻を打っただけです、大丈夫ですー大丈夫ですー!
「小春君!!うちの山下が来てないか!?」
「秋元さん??」
暖簾を跳ね上げて、引き戸を乱暴に開けて常連さんの一人の秋元隆さんが血相を変えて風鈴食堂に入ってきました。
「小春君!山下春江が来てるんだね?山下!山下春江!!いい加減にしてくれ!!!」
秋元隆さんはここの市長さんです。その方が大声を張り上げて怒っています……い、一体何が……?
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