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6 神が無くなる月
2 おや、そういう事もありますか?
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「どうだった?!」
「小牧さんの鯛、ご満足頂けたようですよ」
「よっし!3年はいける!」
「うちの秋刀魚は?!」
「すみまさん、焼いてる暇がなく……」
「くーーーっ!来年こそ!」
「うちの肉は?!」
「ごめんなさい……」
「そうか……残りは小春くん、お店で使うか食べちゃって。美味しいよ」
「あ、はい!ローストビーフにしたんですが、とても美味しかったです。ぽんきち先生がぺろりと」
「そっか、ぽんきち先生に喜んでいただけたんなら嬉しいよ。あ、これ。ベーコンも持って来たんだ。厚切りも美味いよ、食って」
「ありがとうございます」
お肉の生産に携わっている青木さんががっかりしながらも美味しそうなベーコンを置いて行ってくれました。そう、この10月には妖怪の大将であると言われているぬらりひょん様がふらりと風鈴食堂に現れてるのです。そのひょん様に食べてもらおうと皆さん、競って食材をお持ちになるのです。
ひょん様が召し上がられると、その食材を提供したお家は3年間は豊漁豊作、良い事づくめになるらしくお断りしてもお断りしてもどんどん持って来られるのです。
ですからせっかく頂いてもひょん様にお出しできない事も多々あり、がっかりさせてしまう事が多いのです。とても素晴らしい食材ばかりなので、上手に保存して、冷凍庫なども活用させていただいているのですが……。
ひょん様が帰られてしまうと途端に誰も持って来なくなってしまいますが、それは人間の性と言う物でしょうか。
「いつまでも食材を持って来ていただくと申し訳なくて倒れてしまいそうですもんね」
今年はひょん様はお帰りになりましたよ、と伝えた後はいつも通りの日々です。
「美味しいって言ってくださった……他の方にも食べていただきたいなあ」
僕は店の近くにある銀杏拾いに来ていました。独特の匂いが、秋の訪れを後押ししてくれるようです。
「あらあら、小春ちゃん。銀杏かい?」
「ええ、登美子さん。今年の銀杏はくるんと丸くて大きくて美味しいですよ」
「おやおや、本当だねえ。私も少しいただこうかな?」
「ええ」
登美子さんは近くに住むおばあちゃまで今年80歳……おっと、女性の年齢を公表するだなんて失礼なことをしてはいけませんね。僕と登美子さんは世間話をしながら、銀杏を拾い集め土に埋めます。外皮が無くなったら次の工程に進めますね。
「小春ちゃん、少しお野菜持って行かない?今年はねぇ大根が上手に出来たのよう」
「わあ!素敵ですね。ではありがたく」
僕は登美子さんのお家に寄らせてもらって、真っ白い先の少し曲がった大根を2本と綺麗なオレンジの人参を一本、そしてコロリとしたかぼちゃを一ついただいてしまいました。
「登美子さんありがとうございます。後でビーフシチューを持って来ても良いですか?柔らかいとっても美味しいお肉を貰ったんで、作ってみたんです」
「まあまあ!小春ちゃんの洋風料理も美味しいのよねえ。ありがとう楽しみにしてるわ」
僕は一度店に戻り、お野菜を置いて昨日お鍋いっぱいに仕込んで、美味しくなったビーフシチューを小鍋に入れて登美子さんの家に持って行きました。柔らかいお肉と、少し薄めの味付けですが、登美子さんの舌に合うとよいのですが……にこにこと受け取って貰えました。
頂いたお野菜で何を作ろうか考えながら店に戻ると
「小春、良い匂いじゃの」
「あれ?ひょん様?いらっしゃいませ」
初めてひょん様が2回目のご来店をされておりました。
「ワシにもそれをくれるじゃろうな」
「勿論ですとも、温めますので少しお待ちくださいね。あ、先ほど頂いたお大根が美味しそうなんですよ」
ほら、とお見せすると
「うむ、美味いのう」
生で召し上がってしまったようです。つやつやだった大根から生気が抜けてなんだか元気のない大根になってしまいましたが仕方がない事です。これはよけておきましょう。
「炊くと時間がかかりますからね」
「うむ」
いつも突然ふらりと顔を出される方なので、10月は気が抜けませんね。
「はい、ビーフシチューです」
「うむ」
そう言えば頂いたベーコンもありましたし、チーズなんかもたくさんありました。今日は洋風を中心に色々お出ししてみましょう。確かブロッコリーは登美子さんの家の近所のミチルさんのお家から頂いたものでしたね。キノコは昭三さんが裏山で取ったと言ってましたっけ。
「美味い、馳走になった」
「はい、またいつでもお越しくださいませ」
今年はご近所さんに良い事がたくさん起こりそうな気がしますね。
「こ、小春さん!ぬらりひょん様が2回目のご来店をされたとか!?」
「ええ、青木さんの下さった牛肉で作ったビーフシチューとベーコンをお召し上がりでしたよ」
「きたあああああああああああああ!」
「うちは!?うちのチーズは!?」
「はい、ご満足いただけたようです」
「おっしゃあああああああああああああああああ!」
「2回目があるなんて!くそっ!10月中はまた持ってくるからね!小春さんっ!」
「今度こそうちのジャガイモを召し上がっていただくんだ!」
み、皆さん……落ち着いて……。
「いや!10月と言わず、常に小春さんの所に食材を下ろすぞ!そうすれば食べてもらえる確率が跳ねあがるじゃないか!」
「お前頭良いな!俺もそうする!」
いえあの……うちはそんなにお客様がこないので……えええ……。
「そば粉は貰っておけよ、小春」
「ぽんきち先生まで何を言ってるんですかー!ちゃんとお金は払いますー!」
「黙って!小春君!君の所にはウチから絶対にそば粉は卸させてもらうよ!?」
「いいや!今年はウチのそば粉を卸す!絶対だ!」
やめてくださいー店で喧嘩しないでくださいー!また一つ大きな冷凍庫を買わなくてはいけないみたいです……。
「小牧さんの鯛、ご満足頂けたようですよ」
「よっし!3年はいける!」
「うちの秋刀魚は?!」
「すみまさん、焼いてる暇がなく……」
「くーーーっ!来年こそ!」
「うちの肉は?!」
「ごめんなさい……」
「そうか……残りは小春くん、お店で使うか食べちゃって。美味しいよ」
「あ、はい!ローストビーフにしたんですが、とても美味しかったです。ぽんきち先生がぺろりと」
「そっか、ぽんきち先生に喜んでいただけたんなら嬉しいよ。あ、これ。ベーコンも持って来たんだ。厚切りも美味いよ、食って」
「ありがとうございます」
お肉の生産に携わっている青木さんががっかりしながらも美味しそうなベーコンを置いて行ってくれました。そう、この10月には妖怪の大将であると言われているぬらりひょん様がふらりと風鈴食堂に現れてるのです。そのひょん様に食べてもらおうと皆さん、競って食材をお持ちになるのです。
ひょん様が召し上がられると、その食材を提供したお家は3年間は豊漁豊作、良い事づくめになるらしくお断りしてもお断りしてもどんどん持って来られるのです。
ですからせっかく頂いてもひょん様にお出しできない事も多々あり、がっかりさせてしまう事が多いのです。とても素晴らしい食材ばかりなので、上手に保存して、冷凍庫なども活用させていただいているのですが……。
ひょん様が帰られてしまうと途端に誰も持って来なくなってしまいますが、それは人間の性と言う物でしょうか。
「いつまでも食材を持って来ていただくと申し訳なくて倒れてしまいそうですもんね」
今年はひょん様はお帰りになりましたよ、と伝えた後はいつも通りの日々です。
「美味しいって言ってくださった……他の方にも食べていただきたいなあ」
僕は店の近くにある銀杏拾いに来ていました。独特の匂いが、秋の訪れを後押ししてくれるようです。
「あらあら、小春ちゃん。銀杏かい?」
「ええ、登美子さん。今年の銀杏はくるんと丸くて大きくて美味しいですよ」
「おやおや、本当だねえ。私も少しいただこうかな?」
「ええ」
登美子さんは近くに住むおばあちゃまで今年80歳……おっと、女性の年齢を公表するだなんて失礼なことをしてはいけませんね。僕と登美子さんは世間話をしながら、銀杏を拾い集め土に埋めます。外皮が無くなったら次の工程に進めますね。
「小春ちゃん、少しお野菜持って行かない?今年はねぇ大根が上手に出来たのよう」
「わあ!素敵ですね。ではありがたく」
僕は登美子さんのお家に寄らせてもらって、真っ白い先の少し曲がった大根を2本と綺麗なオレンジの人参を一本、そしてコロリとしたかぼちゃを一ついただいてしまいました。
「登美子さんありがとうございます。後でビーフシチューを持って来ても良いですか?柔らかいとっても美味しいお肉を貰ったんで、作ってみたんです」
「まあまあ!小春ちゃんの洋風料理も美味しいのよねえ。ありがとう楽しみにしてるわ」
僕は一度店に戻り、お野菜を置いて昨日お鍋いっぱいに仕込んで、美味しくなったビーフシチューを小鍋に入れて登美子さんの家に持って行きました。柔らかいお肉と、少し薄めの味付けですが、登美子さんの舌に合うとよいのですが……にこにこと受け取って貰えました。
頂いたお野菜で何を作ろうか考えながら店に戻ると
「小春、良い匂いじゃの」
「あれ?ひょん様?いらっしゃいませ」
初めてひょん様が2回目のご来店をされておりました。
「ワシにもそれをくれるじゃろうな」
「勿論ですとも、温めますので少しお待ちくださいね。あ、先ほど頂いたお大根が美味しそうなんですよ」
ほら、とお見せすると
「うむ、美味いのう」
生で召し上がってしまったようです。つやつやだった大根から生気が抜けてなんだか元気のない大根になってしまいましたが仕方がない事です。これはよけておきましょう。
「炊くと時間がかかりますからね」
「うむ」
いつも突然ふらりと顔を出される方なので、10月は気が抜けませんね。
「はい、ビーフシチューです」
「うむ」
そう言えば頂いたベーコンもありましたし、チーズなんかもたくさんありました。今日は洋風を中心に色々お出ししてみましょう。確かブロッコリーは登美子さんの家の近所のミチルさんのお家から頂いたものでしたね。キノコは昭三さんが裏山で取ったと言ってましたっけ。
「美味い、馳走になった」
「はい、またいつでもお越しくださいませ」
今年はご近所さんに良い事がたくさん起こりそうな気がしますね。
「こ、小春さん!ぬらりひょん様が2回目のご来店をされたとか!?」
「ええ、青木さんの下さった牛肉で作ったビーフシチューとベーコンをお召し上がりでしたよ」
「きたあああああああああああああ!」
「うちは!?うちのチーズは!?」
「はい、ご満足いただけたようです」
「おっしゃあああああああああああああああああ!」
「2回目があるなんて!くそっ!10月中はまた持ってくるからね!小春さんっ!」
「今度こそうちのジャガイモを召し上がっていただくんだ!」
み、皆さん……落ち着いて……。
「いや!10月と言わず、常に小春さんの所に食材を下ろすぞ!そうすれば食べてもらえる確率が跳ねあがるじゃないか!」
「お前頭良いな!俺もそうする!」
いえあの……うちはそんなにお客様がこないので……えええ……。
「そば粉は貰っておけよ、小春」
「ぽんきち先生まで何を言ってるんですかー!ちゃんとお金は払いますー!」
「黙って!小春君!君の所にはウチから絶対にそば粉は卸させてもらうよ!?」
「いいや!今年はウチのそば粉を卸す!絶対だ!」
やめてくださいー店で喧嘩しないでくださいー!また一つ大きな冷凍庫を買わなくてはいけないみたいです……。
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