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そして入学へ

68 私の婚約者は何かと凄い

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 そうと決まればとユウキさんはマナーや礼儀作法は最小限にして、剣術の腕を磨いたり、魔法を使ったり……冒険者となるために必要な事を学び始めた。

「ならば……久しぶりに渾身の槌を振るう時が来たわね……!?」

 刀匠マリー、やらせていただきますわ。

「久しぶりだけど大丈夫かな……あ、皆の分も新しいの作ろうっと~♪」

 良い剣は何本あってもいいってアリアも言ってたしね。

「……私って防具も作れるのかしら?服は……?縫い物……やれば出来るはず!まずは糸からね……!」

 糸、糸、絹糸……も、もしかして……か、蚕……。

「イモ……ムシェ……!」

 だ、大丈夫、大丈夫よ!毛虫じゃないからね、い、芋虫なら……まだ、な、なんとか。

「ふう、材料から探さないといけないなんて……学園の長期休暇を利用するしかないわね」

 確かケイトリンのダイヤ領の方にソレ系の虫がいたような……?最高の武器防具を作ってやるわ!フーハハハ!そしてあわよくばそれをたんまり売って推しに課金よ、課金~~~~!

「財布が鳴りますわァ!」

 ケイトリンに次の長期休暇の予定を聞いておかなくちゃだわ!




「は、はは……私の聖女はやってくれる」

「まだ殿下のではございませんよ、我が妹を軽く見ないでいただきたい」

 妹の事になるといつもの物腰の柔らかさが無くなるヴィンセントがピシャリと言い切った。

「全くだ。それにしてもあのイノシシ女を手懐けちまったぞ、マリーは」

「ホントだよ、信じられない……最初に謝りに来たときは護衛の皆もクラスの皆も身構えたっけ」

 デュカスとテオドールは少し前の事を思い出してユウキの手のひら返しを思い出す。それまで見かけるたびにものすごい勢いで突進してきた聖女見習いユウキはある日突然、暴走がピタリとやんだ。ユウキの傍にマリエルが立つようになってからだ。

「今までご迷惑をかけて、ごめんなさい。テオドール……いえ、ハートキング。えっと、まだお話の勉強中で無礼な所もあるけれど、頑張ります。もう突進とかしないので……護衛のハート10ジェイク様にもハート9フロスト様にもご迷惑をおかけしました、そしてありがとうございました」

 ゆっくり歩いてきて、立ち止まりペコリと頭を下げた。それではごきげんよう、と不格好に礼をして急ぎ足でマリエルの元に戻って行く。

「こ、こうですかっ!」

「そうよ、頑張ったわね。これからいっぱい謝らなくちゃいけないけれど、頑張りましょうね」

「はいっ!マリエル様っ」

 晴れ晴れとした笑顔で歩き出すユウキは今までの陰鬱とした顔はなくなっていて驚いたものだ。


「マリエルは何の魔法を使ったんだろうねぇ」

「ただお話しただけと言ってました。我がクラブ家にユウキを連れて来た時は厳戒態勢が必要かと思ったのですが、もう大人しくなっておりましたね」

 ダイヤキング・ケーニッヒの呟きをヴィンセントは拾って答えた。クラブの屋敷にあの頭のおかしい女を連れてくると言った時はいかにマリエルでも許すわけにはいかないと思ったものだ。


「ユウキさん。テーブルマナーも大事だけれど、最初は気にしなくて良いわ。ご飯を食べましょう。うちのご飯は美味しいのよ」

「え……マ、マヨネーズがある!お、お出汁の効いたお味噌汁!?ああああ、美味しい~美味しいよおおお!」

「ウチの料理長凄いでしょ?」

「うん!凄い!ああ、これが感謝なんだわ!マリエル様、私分かってきた!」

「良かったわ。いっぱい食べてお勉強頑張りましょう」

「はいっ!!」

 
 それからのユウキの変わりようは、学園にいる全ての人間が目を剥くほど変わったのだ。

「ごめんなさい、バウンズ伯爵令嬢。いっぱい注意してくれたのに、私とても非常識だった。マリエル様に言われてやっと気が付いたの。もう大声出さないから安心して。いつか許してくれたら嬉しい……」

「……ユウキさん……。分かったわ、許します」

「ありがとうございます!」

 後ろににこにこと控えているマリエルの存在も大きかっただろう。それでも許さないと突っぱねた人も多かったようだが、ユウキは怒る事も声を大きくすることもなく

「ごめんなさい、今はそれしか言えなくてごめんなさい……」

 とてもしおらしかったという。そしてマリエルと共に学園内の清掃や(マリエルはそんなこともしていたらしい)教授の手伝い、貴族達が嫌がる仕事も率先してこなしていく。徐々に聖女見習いとしての力も増して行き、怪我をした生徒の回復をしたり花壇の水やりや庭木の手入れまでしているようだった。

「私が回復魔法の修業をしている時にね、とうとう魔法をかける相手がいなくなって、木とか草に掛けちゃったのよ」

「あー、良いですね。私もやってみよう……じゃなくて、やってみます」

 マリエルがユウキにしばらくつきっきりだったので、クイーン達は不満だったようだが、ユウキが落ち着いてBクラスで友達もでき始めると元の仲良しクイーン達になったようだ。

「ユウキさんはやっぱり聖女なのよ。今まできちんと教えてもらってなかっただけ。例のあの子爵がどうもおかしかったみたいなんです」

「何も知らないユウキにあることない事吹き込んでたのか?」

「その可能性が高いわ」

「ニギル子爵だったわね。ダイヤ家の方にも所縁のはずだからキッチリ清算しとくわ。全く手間をかけさせてくれるわね」

「お願いするわね、ケイトリン」



「ケーニッヒ、ニギル子爵は?」

「ああ、調べたらどうしようもない奴だったからね。一族郎党ダークダイヤ鉱山にポイしたよ。ニギル領は今代行領主をやって立て直してる。余罪も多いからまあ地上にゃ出てこれないよ」

「あのおっさんが買収した地方神殿はハート家所縁の土地にあったからこっちも罰を与えておいたよ。「彼女の生活の全てを奪ったんだから、きっちり償って貰いたい」がマリーの願いだったから」

 ルドルフに事の顛末を報告するケーニッヒとテオドール。多分書類で子細は渡るだろうけど、情報は早い方が良い。

「思えばユウキも知らない場所に一人召喚され、しかもニギル子爵というあまり良いとは言えぬ人物しか頼る事が出来ず、心細くて虚勢を張っていたのかもしれないね」

 いくら子爵が勝手に召喚したといっても、王家で保護するべきではなかったのか?そんなルドルフの憂いをすっかり晴らしてくれた婚約者に深く感心するしかなかった。

「マリエルは……昔っからマリエルだね」

 何事にも一生懸命で自分の事は常に後回し。あり得ない事も不可能な事も全て可能にしてしまう発想力と努力。そして

「何か欲しいものはないですかっ!いくらでも貢ぎますけど!」

 年下の女性ならば買ってもらう方だろうに、マリエルは真剣な表情で毎回聞いてくる。

「ええ、自慢の妹ですから」

 マリエルの事を想いながら語るヴィンセントの表情はとても柔らかい。その柔らかさを作り出しているのもやっぱりマリエルだった。



 
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