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そして入学へ
39 私の魂の救い主(スペード家アリアネット)
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私はアリアネット。栄えあるスペード家の長女にしてスペードクイーンの地位を与えられた者。我がスペード家は開国のおり、初代国王の剣として戦った。その功績で公爵位を賜り、今もなお、国の剣として日々鍛錬を欠かさぬ家門である。
「アリアネットは女だから」
気がついた時から私について回る言葉。女だから、女だから……それは常に私を苦しめ、深い混乱を与えた。女だからどうなんだ、女だから騎士にはなれぬのか!女だから、スペード家の長女だから、型にはまった苦しいドレスを着て剣を持たず、笑い機嫌を取れと言うのか!私は、私は……!
「あら、好きな服を着ればいいのですわ」
6歳の茶会の衝撃は今も忘れない。私と同じ公爵位のクラブ家クイーン・マリエルは不思議そうな顔で私にはっきり言ったのだ。
「完璧な淑女の振る舞いを身に付ければどんな格好をしても誰も文句なんて言いませんわ。簡単ですわね」
簡単、マリエルは簡単だというのだ。私がずっと抱いていたこの鬱屈した気持ちの解決法を簡単だと言い切るのだ。
「簡単……か」
「ええ、完璧なスペードクイーンに誰が後ろ指を差せましょうか?」
そしてマリエルはその行動力で次々と私を取り囲んでいた常識の壁を壊していった。
「セラフィーヌ様。見てくださいまし、アリアに似合うと思って作らせてしまいました!」
「ま、まあ!それはドレスではなくて男性物のコートではありませんか!」
「ええ!新しい演劇の男性役のコの衣装と似た感じなんですけれど、素敵でしょう?」
「えっ?!次の舞台の??」
「はいっ!!」
貴方は女の子なのだから、ドレスを着なさい。ズボンなんてもっての外、剣ももうやめて!と何度も何度も繰り返すお母様をすっかり変えてしまったのだ。
「でも男性物とは訳が違いますわよ?セラフィーヌ様なら一目でお分かりかと思いますが、この胸元のたっぷり使ったレースは隣国ジャードのカラファン織の流れをくむ繊細なもの……美しいでしょう?更に裏のこのちらっと見える部分見てください、渾身の刺しゅうを施してまいりました!優雅に動けばちらりと見える……どうですかっ!」
「す、素晴らしいわ……素晴らしいわマリー!ああ!やはり美しい服は我が家のアリアに良く似合うわ……」
「背が高く運動がお得意ですらりとしたアリアだからこんなに素敵に着こなせるのです……私ではとても無理だわ。ね、アリア。袖を通すだけでいいの、着てみてくれない?」
「え?あ、ああ……」
袖を通すとすこし華美なコートなのに非常に動きやすくそして暖かい。
「動きを制限されると舞台でも困りますからね。その辺は完璧ですよ!あー似合うわああ!ウチの演者より似合う~素敵~素敵だわ~!素早く●Rec!!」
「で、でもマリエルちゃん?うちのアリアは女の子なのよ……やっぱりドレスの方が……」
「ドレスもお似合いなんですけれど……この服を着こなせるのはアリアしかいなくて……男性ではやはりどこか無粋ですし……セラフィーヌ様なら分かっていただけると思ったのですが」
「え?ええ!勿論分かっていますよ!そうね、アリア位マナーも完璧でダンスも男女パートとも完璧にこなしていればいつドレスを着ても問題ないですものね」
「その通りですわ!」
いつしかお母様は私に女性らしくしろと言わなくなり、更に顔を顰めて苦言を呈すお父様にまで
「アリア……いつまで男の恰好を……!」
「あら、あなた。アリアの完璧さを服だけで判断するなんて。何を着ても美しい、それが私達のスペードクイーンよ」
そう言ってくださるまでになっていたのです。
「私はアリアのドレス以外の姿も好ましいと感じます。非常に我がスペード家に相応しい、美しい剣士の姿だ」
「アリアお姉様は何を着てもお似合いですものね」
兄のデュカスも弟のウィリアムも私がどんな格好をしていても、何も言わない。むしろ応援し褒めてくれるほどだ。これも会うたびにマリエルが喜んでくれるのも大きいだろう。
「ああ、本当に今日のアリアも素敵よ。どのご令嬢も言ってるわ、下手な男性にエスコートされるよりアリアにエスコートされてみたいって。王太子殿下の次に人気なのはアリアって本当かもしれないわね?ふふっ!」
「そういう事なら少し妹に嫉妬してしまいそうだよ?マリー。でもそんなに競争率の高い妹や殿下はやめて私の手を取って欲しいな」
「いいえ!お兄様より私と参りましょう!マリエル様!」
「スペード家……テラ騎士スギマジイケメン……ふぅ」
あっ!またマリエルが変な呪文を唱えながら倒れかける!私は咄嗟に手を伸ばしてマリエルの細い体を支える。同性の私でもマリエルは華奢な体つきをしていると思う……全く、ちゃんとご飯を食べているんだろうか。人の心配ばかりで、自分を蔑ろにする癖は小さい頃から全く変わっていない。
「マリーは……相変わらず、目が離せない」
「えっ!?い、嫌ですわ、アリア。私、何もしてませんわよ!」
ああ、私の魂の救い主よ!私はいついかなる時でも君を守ると誓うよ!
「アリアネットは女だから」
気がついた時から私について回る言葉。女だから、女だから……それは常に私を苦しめ、深い混乱を与えた。女だからどうなんだ、女だから騎士にはなれぬのか!女だから、スペード家の長女だから、型にはまった苦しいドレスを着て剣を持たず、笑い機嫌を取れと言うのか!私は、私は……!
「あら、好きな服を着ればいいのですわ」
6歳の茶会の衝撃は今も忘れない。私と同じ公爵位のクラブ家クイーン・マリエルは不思議そうな顔で私にはっきり言ったのだ。
「完璧な淑女の振る舞いを身に付ければどんな格好をしても誰も文句なんて言いませんわ。簡単ですわね」
簡単、マリエルは簡単だというのだ。私がずっと抱いていたこの鬱屈した気持ちの解決法を簡単だと言い切るのだ。
「簡単……か」
「ええ、完璧なスペードクイーンに誰が後ろ指を差せましょうか?」
そしてマリエルはその行動力で次々と私を取り囲んでいた常識の壁を壊していった。
「セラフィーヌ様。見てくださいまし、アリアに似合うと思って作らせてしまいました!」
「ま、まあ!それはドレスではなくて男性物のコートではありませんか!」
「ええ!新しい演劇の男性役のコの衣装と似た感じなんですけれど、素敵でしょう?」
「えっ?!次の舞台の??」
「はいっ!!」
貴方は女の子なのだから、ドレスを着なさい。ズボンなんてもっての外、剣ももうやめて!と何度も何度も繰り返すお母様をすっかり変えてしまったのだ。
「でも男性物とは訳が違いますわよ?セラフィーヌ様なら一目でお分かりかと思いますが、この胸元のたっぷり使ったレースは隣国ジャードのカラファン織の流れをくむ繊細なもの……美しいでしょう?更に裏のこのちらっと見える部分見てください、渾身の刺しゅうを施してまいりました!優雅に動けばちらりと見える……どうですかっ!」
「す、素晴らしいわ……素晴らしいわマリー!ああ!やはり美しい服は我が家のアリアに良く似合うわ……」
「背が高く運動がお得意ですらりとしたアリアだからこんなに素敵に着こなせるのです……私ではとても無理だわ。ね、アリア。袖を通すだけでいいの、着てみてくれない?」
「え?あ、ああ……」
袖を通すとすこし華美なコートなのに非常に動きやすくそして暖かい。
「動きを制限されると舞台でも困りますからね。その辺は完璧ですよ!あー似合うわああ!ウチの演者より似合う~素敵~素敵だわ~!素早く●Rec!!」
「で、でもマリエルちゃん?うちのアリアは女の子なのよ……やっぱりドレスの方が……」
「ドレスもお似合いなんですけれど……この服を着こなせるのはアリアしかいなくて……男性ではやはりどこか無粋ですし……セラフィーヌ様なら分かっていただけると思ったのですが」
「え?ええ!勿論分かっていますよ!そうね、アリア位マナーも完璧でダンスも男女パートとも完璧にこなしていればいつドレスを着ても問題ないですものね」
「その通りですわ!」
いつしかお母様は私に女性らしくしろと言わなくなり、更に顔を顰めて苦言を呈すお父様にまで
「アリア……いつまで男の恰好を……!」
「あら、あなた。アリアの完璧さを服だけで判断するなんて。何を着ても美しい、それが私達のスペードクイーンよ」
そう言ってくださるまでになっていたのです。
「私はアリアのドレス以外の姿も好ましいと感じます。非常に我がスペード家に相応しい、美しい剣士の姿だ」
「アリアお姉様は何を着てもお似合いですものね」
兄のデュカスも弟のウィリアムも私がどんな格好をしていても、何も言わない。むしろ応援し褒めてくれるほどだ。これも会うたびにマリエルが喜んでくれるのも大きいだろう。
「ああ、本当に今日のアリアも素敵よ。どのご令嬢も言ってるわ、下手な男性にエスコートされるよりアリアにエスコートされてみたいって。王太子殿下の次に人気なのはアリアって本当かもしれないわね?ふふっ!」
「そういう事なら少し妹に嫉妬してしまいそうだよ?マリー。でもそんなに競争率の高い妹や殿下はやめて私の手を取って欲しいな」
「いいえ!お兄様より私と参りましょう!マリエル様!」
「スペード家……テラ騎士スギマジイケメン……ふぅ」
あっ!またマリエルが変な呪文を唱えながら倒れかける!私は咄嗟に手を伸ばしてマリエルの細い体を支える。同性の私でもマリエルは華奢な体つきをしていると思う……全く、ちゃんとご飯を食べているんだろうか。人の心配ばかりで、自分を蔑ろにする癖は小さい頃から全く変わっていない。
「マリーは……相変わらず、目が離せない」
「えっ!?い、嫌ですわ、アリア。私、何もしてませんわよ!」
ああ、私の魂の救い主よ!私はいついかなる時でも君を守ると誓うよ!
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