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19 私の知らないお話
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「え?お母様とリエリルお母様ですか?毎日仲良くさせていただいております」
本邸に毎日勉強にくるヴィンセントにそれとなく探りを入れるとサラリと答えた。本当にあの2人は仲良くなったらしい。
それにしても何なのだ?ヴィンセントの髪はサラサラとしてしかも良い香りがする。
服も手触りがよく、これも爽やかな香りがする。
「ヴィンセント、何か匂いが……」
「ああ!これはマリエル……いえ!何でもありません!えーと、最近リモーネをかじるのが好きになったのでその匂いでではないでしょうか?」
ヴィンセントは何かを隠している。多分、リエリルかチェレネに何か言われているのだろう……そのうちどちらかに聞いてみるか……。
「ヴィンセント、昼食はこちらで取って行くのだろう?」
「いいえ、リエリル様の所でいただこうかと……」
「何故だ?」
離れより本邸の方が料理人は豊富だし、食材も豪華で美味しい物が多いはずなのだが?
「リエリル様の所はマリエルの……グルグルタン酸の味噌のスープのトゥオンジールが食べたいので……あっ!いえ何でもございません」
「グルグル?」
「えーと、あの!失礼します!」
ヴィンセントは本を纏めて走って行ってしまった。方角は北の離れではなく南の離れだ。
「何か秘密があるな?」
私は日を改めてチェレネを呼びつけた。
「お呼びでございますか、旦那様」
もっとオドオドして、いつも俯いていた印象しかなかったチェレネは堂々とお辞儀をした。
程度の低い子爵の娘の振る舞いではない。これは、リエリルがチェレネの作法を教育したのだろうか?しっかりと前を向き、私を見つめてくる。そして髪は美しく輝いている。
「リエリルと仲良くなったとか」
「ええ、リエリル様にはいつも良くしていただいております」
にこりと笑った。なんだろうか、これは。
「ヴィンセントもそうだが、良い香りがする。何か使っているのか?」
「いいえ、何も」
チェレネは微笑んでいる。
「リエリルの離れで何か特別な物を食べているとか?」
「いいえ、何も」
チェレネの微笑み。これは何かを隠している。当主であり、夫の私に隠し事か?
「チェレネ、私に嘘をつくのか?」
「いいえ。旦那様に言う事はありませんわ」
なんだ、このチェレネの強さは……私しか頼る物が無かったはずのチェレネは変わった。誰が変えたのか……。
「リエリルか」
「いいえ、リエリル様は何の関係もありませんわ」
チェレネは私よりリエリルに信頼と重きを置く事に決めてしまったようだ。
「そう、か」
チェレネを下がらせ窓から外を見る。しばらく見ていると、チェレネが出てきて……やはり北の自分の離れには戻らず、南のリエリルの離れに向かった。
やはり、何かあるのだな。しかも外に、私にすら知らせたくない何かが。
「一体、南の離れで何が起こっているのか」
私は検討もつかず、楽しげにスキップでも踏みそうなチェレネの後ろ姿を見送るしか無かった。
本邸に毎日勉強にくるヴィンセントにそれとなく探りを入れるとサラリと答えた。本当にあの2人は仲良くなったらしい。
それにしても何なのだ?ヴィンセントの髪はサラサラとしてしかも良い香りがする。
服も手触りがよく、これも爽やかな香りがする。
「ヴィンセント、何か匂いが……」
「ああ!これはマリエル……いえ!何でもありません!えーと、最近リモーネをかじるのが好きになったのでその匂いでではないでしょうか?」
ヴィンセントは何かを隠している。多分、リエリルかチェレネに何か言われているのだろう……そのうちどちらかに聞いてみるか……。
「ヴィンセント、昼食はこちらで取って行くのだろう?」
「いいえ、リエリル様の所でいただこうかと……」
「何故だ?」
離れより本邸の方が料理人は豊富だし、食材も豪華で美味しい物が多いはずなのだが?
「リエリル様の所はマリエルの……グルグルタン酸の味噌のスープのトゥオンジールが食べたいので……あっ!いえ何でもございません」
「グルグル?」
「えーと、あの!失礼します!」
ヴィンセントは本を纏めて走って行ってしまった。方角は北の離れではなく南の離れだ。
「何か秘密があるな?」
私は日を改めてチェレネを呼びつけた。
「お呼びでございますか、旦那様」
もっとオドオドして、いつも俯いていた印象しかなかったチェレネは堂々とお辞儀をした。
程度の低い子爵の娘の振る舞いではない。これは、リエリルがチェレネの作法を教育したのだろうか?しっかりと前を向き、私を見つめてくる。そして髪は美しく輝いている。
「リエリルと仲良くなったとか」
「ええ、リエリル様にはいつも良くしていただいております」
にこりと笑った。なんだろうか、これは。
「ヴィンセントもそうだが、良い香りがする。何か使っているのか?」
「いいえ、何も」
チェレネは微笑んでいる。
「リエリルの離れで何か特別な物を食べているとか?」
「いいえ、何も」
チェレネの微笑み。これは何かを隠している。当主であり、夫の私に隠し事か?
「チェレネ、私に嘘をつくのか?」
「いいえ。旦那様に言う事はありませんわ」
なんだ、このチェレネの強さは……私しか頼る物が無かったはずのチェレネは変わった。誰が変えたのか……。
「リエリルか」
「いいえ、リエリル様は何の関係もありませんわ」
チェレネは私よりリエリルに信頼と重きを置く事に決めてしまったようだ。
「そう、か」
チェレネを下がらせ窓から外を見る。しばらく見ていると、チェレネが出てきて……やはり北の自分の離れには戻らず、南のリエリルの離れに向かった。
やはり、何かあるのだな。しかも外に、私にすら知らせたくない何かが。
「一体、南の離れで何が起こっているのか」
私は検討もつかず、楽しげにスキップでも踏みそうなチェレネの後ろ姿を見送るしか無かった。
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