その壊れた恋愛小説の裏で竜は推し活に巻き込まれ愛を乞う

鏑木 うりこ

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77 迎えに来た

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 そんな顔だけ神様を救ったのは銀竜のおっさんだった。

「あ、あの、リンカ様……っ我らの王を……ルシルフェルム様をお救いください……!」
「ル、ルシ……様!? ど、どこでございますかああああっ!」

 金髪の顔だけぬいぐるみをぽーんっと投げ捨てて、リンカは跪いているおっさんの前に更に跪いた。え……ほ、本当にルシ……ルシなのか……?

「乳母よ、急ぎルシルフェルム様をこれへ!」
「は、はいっ……!」

 行列の奥の方からちょっと小太りなおばちゃんが走り出てくる……手には高そうな白い布に巻かれた……あれだ、リンカがチビだった頃と同じくらいのモノが抱っこされてる……子供の大きさに間違いねえ。

「ほ、本当に、本当にルシ様……なの!?」

 なにかに憑りつかれたように、ふらふらと近づいていくリンカ。俺もたまらずリンカの後を追う。本当にルシなのか!?

 おばちゃんからそっと、その小さな子供のようなもの……うん、間違いなく子供だ。それを受け取って、リンカはぼろぼろと泣き始めた。

「うわああああああん、神様ぁ~~~~」
「私はココだよぉ~リンカチャアン」

 なんか向こうの方の草むらの影から声は聞こえたけど、俺とリンカは物凄くきれいに無視をした。

 あ……目が紫色だ。リンカを見つめ返すチビの目の色は懐かしいあの色だった。

「……リンカ、悪いのだが……アリアンに逢いたい」
「うわああああっ! ただいますぐにぃいいいいい! アリアン早く体に戻れーーーっ」

 あっ! はいっ!!

 俺が入っている水晶にリンカはまっすぐに走り出す。おばちゃんやおっさんがびっくりしてるけど、リンカは止まらない。そんでそれを追いかけて俺は俺の体に向かって飛んで……実体がない分、俺の方が先に水晶にたどり着いた。俺は何も考えずそのまま寝てる俺に向かってぶつかっていき、きちんと吸い込まれた。

「アリアン、迎えに来た。遅くなってすまない」

 リンカに抱っこされたまま、小さな葉っぱみたいな手でぺたりと透明な水晶に触れる。ただ、触っただけなのに、水晶に大きく亀裂が入った。バキン、バキバキ……!たくさんの透明な欠片が辺り一面に降りそそぐ。勿論リンカが張った防御壁で欠片は二人に当たらない。

「アリアン~朝よぉ」

 ぐじゃぐじゃの顔でリンカが俺を見上げているのが薄ぼんやりと見える。ああ、寝過ぎた後ってなんだか色々ぼんやりしてよく見えないんだよな、そんな感じだ。

「見てよ、アリアン。リンカが夢にまで見て妄想したショタルシ様よぉ~~尊すぎて前が見えないわぁ~」
「相変わらず不思議なことを」

 リンカに持ち上げられたチビは到底チビとは思えないルシの口調で喋っている。でも、声は子供の声で、やけに偉そうなのが少し笑えた。

「は、は、はははっ」
「アリアン、早く私の穴を塞いでくれ。このままではあと少しでまた死んでしまう。またお前達を待たせるのは本意ではない」

 そりゃ大変だ、早くルシの所に行かなきゃ。そう思ったけど、体が上手く動かない……寝っぱなしだったからか! 周りの水晶は今もバキバキと音を立てて崩れて辺りにキラキラと破片を撒き散らしている。

「う……」

 行かなきゃ、ルシんとこに……なんとか体を動かして水晶から出て……ああ、ちょうど良いな、こっから落ちたら二人の所に行けそうだ。ちょっと高いがコブくらいで済むだろう。

「アリアン、早く! なんかルシ様、冷たくなって来た!」

 は? なんでだ?? でも体が上手く動かねぇ……ちくしょう! 俺だって早くルシんとこ行きたいのに!

「あーっもうっ! 受け取れぇっアリアンーー!」
「ひっ!」

 銀色のおっさん達が恐怖で顔を引き攣らせてる。リンカの野郎、無茶しやがって!ルシを俺に向かって投げやがった!

「く、くそっ……クソリンカァーーっ!」

 まだ残ってる水晶を力づくてバリバリ割進み、俺は腕を伸ばす。

「こいつは……俺んだぁーーっ!」

 もう絶対なくさないんだ。飛んできたちっちゃい体をぎゅっと抱きしめた。

 
 

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