その壊れた恋愛小説の裏で竜は推し活に巻き込まれ愛を乞う

鏑木 うりこ

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76 皆、気をつけろ

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「我ら銀竜一族は金竜一族と共に、世界の半分の管理を任された古い竜族でございます。そんな我らの子に奇病が発生し始めたのは2000年ほど前からになります」

 俺とリンカは大人しく話を聞いている。まだ、俺の頭でもこのおっさんが何言ってるか分かってるぞ、大丈夫だ。

「卵から孵った銀竜の赤ん坊の鱗が一枚だけ欠けておるのです。しかもただ欠けるだけではなく、その欠損より力が流れ出し皆早々に死んでしまうのです……」
「えっ……可哀想……」

 リンカの素の驚きに、銀竜だというおっさんは儚く笑って話を続ける。相当辛い思いをしたんだろうな。

「そうでなくとも古竜は卵が生まれにくい……それなのに子供達が次々と天に召され、銀竜は滅ぶ一歩手前と追い込まれているのです。なんとか原因を探るべく神に祈りました所、壁の向こう黒竜公主が解決の要だと天啓が下りました。我らは総力を持って世界の壁をこじ開ける方法を探し……やっと本日、こちらへ来ることができたのです」
「そうだったんだ……大変だったねえ……」

 リンカから偉そうな口調が消えて、普通になってる。まあリンカっぽいといえばそっちの方がリンカっぽいな。そんでリンカは気が付いていないけど、肩に座っている不細工なぬいぐるみ、あいつニヤニヤしっぱなしだぞ……おい、そいつがなんか仕組んでんじゃねえか? リンカー! 気づけ、リンカー!!

「お願い致します!リンカ様。どうか我らの子をお救い下さい! もう一刻の猶予もないのです。次王になるべき、竜の子があと少しで140歳を迎えてしまいます、奇病に侵された竜の子は140歳になるとすべての力を失って死んでしまうのです、どうかどうか、我らが王をお救い下さい!」

 そうして、その場に膝まづいてしまったおっさん、そして行列を組んできた奴ら全員ひれ伏されてしまう。

「わっ」

 リンカは驚いて声を上げて……それから考えこんだ。

「2000年前……そんで、140歳で死ぬ……ねえ、符号が合い過ぎてんだけど? アンタなんか酷くない?」
「私はなぁんにもしら、ふぐうっ!」

 リンカの光より早そうな右手がぬいぐるみの首を絞めて吊り上げていた。

「ねえ、ちょっと神様ァ? 2000年前、140歳で死んだルシ様とこの銀竜の人達。なぁんか繋げたんじゃない? なんかやらかしたんじゃなあい??」
「な、な、なんのことか……わたしはさっぱりぃ~苦しいヨオ~リンカチャアン」
「ぬいぐるみが苦しい訳ないでしょっ!」
「ばれた」

 ニヤニヤ、ケラケラ笑うぬいぐるみと突然鬼の形相になったリンカをみて、銀竜達は目を真ん丸にしている。そうだぞ、リンカは怒らせるとこええからな、皆気をつけろ。

「答えないと中身の綿を引っ張り出すわよ、なにしたの」
「いやあん~しなしなになっちゃう~勘弁してぇ~……いやなにね、私の監視がないのを良いことに金も銀も世界の保全をサボってさ。私、あったまにきちゃってね。ちょっとお仕置きしようって思ってさあ、ちょうどいいからルシダールの魂も隠しちゃおって……オワーーーーッ!」

 リンカ、力任せにぬいぐるみを引っ張って、頭と胴体を引きちぎった……こええ……発狂したリンカ、マジ怖え……。

「神だろうとなんだろうと、関係ねえ……消し炭残らんくらい燃やし尽くしてやる」
「わーわーわーっ! リンカ、ごめん、ごめんてーー! 許してぇーー!」

 首だけになった金髪が本気で泣き叫んでる。だが、自業自得だろうこれ。でも俺もチビりそうなくらい怖かった……実体がなくて助かったぜ……。

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