その壊れた恋愛小説の裏で竜は推し活に巻き込まれ愛を乞う

鏑木 うりこ

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73 寝てて良いんだって(アリアン

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「アリアン、お前と一緒にいられてとても楽しく幸せな人生だった」
「俺もだよ、ルシダール。お前の魂が永遠に安らがんことを」

 ルシは黒竜の力を得た時と変わらない若い姿のまま、寿命が切れた。閉じられて行く紫の目を俺は笑った顔のまま、見送れただろうか?

「ルシ様ぁ……」

 リンカが手を尽くして尽くして、ルシは140歳まで生きた……はは、流石リンカだぜ。

「父上……」

 俺はあの後、卵を3個増やして合計四人の子を設けた。全員黒と銀が混じったような髪の毛で、ルシそっくりで賢い。俺達の子はやっぱり成長も遅くて80歳になるくらいでやっと成人って感じの大きさになった。ルシの死期は皆、何となく感じていたから大きな混乱はなく、長男のリエンダールが葬儀の指揮を取る。

「あ……」

 ふわりと銀色の何かが俺に纏わりつき、くるくると回った後、胸の中に入って消えた。ああ、黒竜の力が俺に戻って来たんだ……懐かしいような、くすぐったいような……なんでもできそうな万能感は今はないけれど。
 俺は知っちゃったんだ、いくら強い竜の力でもどうにもならないことがこの世にはあるってことをさ。誰かと笑い合うのはがいてくれなきゃできないってことを。

「あ」

 後ろを振り返ると小さかったリンカの背が伸びて大人の大きさになっていた。そうだな、もう力の制御は要らないもんな。子供リンカを見慣れてしまったので、大人サイズのリンカは新鮮に感じるなぁ。リンカもそう思っているようで、デカくなった自分の体をじっと見ていた。

 そしてずっと痛んでいた脇腹の痛みが消えた。服を捲り上げて見てみれば、失ったはずの鱗が生えていた。戻って来た鱗は俺の黒じゃなくて綺麗な綺麗な銀色をしていた……はは、なんてことだ、染まっちゃったのかな?

「アリアン、山に行こう」
「そうだな」

 俺の背中に手を添えて泣きそうなリンカがそっと囁く。羽は出さずに人型のまま、俺とリンカは飛行術でゆっくり浮かび上がり、ずっと近寄りもしなかった黒竜の山へ向かった。

 ルシは人間だ。ならば人間の中で葬うのがいい。リエンダールは上手くやってくれる……振り返る必要も、ない。
 そして山にあるあまり大きくない家の玄関でリンカと背中合わせに座り、何日も何日もぼーっとしていた。何も考えたくない、何も思いだしたくない。

 悲しくても辛くても大泣きしちゃダメなんだよなぁ。地上に大雨が降るんだよ。もう少しで小麦の刈り取りなんだ、雨が降ったら腐っちゃうってルシが良く言って……。
 駄目だろ、俺。分かってたし、約束したのになぁ、ちゃんと生きていくってさあ。

「アリアン、先に寝ていいよ」

 不意に不思議なことをリンカが呟いた。寝る? 寝るって何だっけ? リンカ、竜は寝なくても平気なんだぞ。それに俺は誰かの体温がない冷たいベッドで寝たくないなぁ。
 なのに、口は思ってもないことを言うんだ。

「ああ、そうだなぁ。じゃあお先」
「うん。朝が来たら起こすね」

 朝か……朝になんてならなきゃいいのに。知ってるか、リンカ。俺らの太陽は二度と昇ってこないんだぞ?

「じゃあな、リンカ」
「お休み、アリアン。いい夢を」

 俺は目を閉じて眠りにつく。はは、玄関で寝ちゃうなんて……デフィタ家の怖いメイドに叱られそうだ。メイドに見つかる前に助けてくれよな……。
 何だろう、足元から音がする。まぁ良いや、リンカが良い夢をっていってたもん。俺はきっと凄くいい夢を見れるんだろうな。現実じゃなくて夢の中ならいなくなったりしないよな?

 俺はふわふわと夢の中を漂う。どれくらい漂っていて、どこから夢でどこまで夢じゃないか、生きてるのか死んでるのかもよく分からない、そんなのを暫く繰り返していた気がする。

「うーん、今日もイケメンだね、アリアン。でも今日もイマイチイケメンだね」

 夢の中でリンカがでっけぇ水晶の前にいてそれに話しかけてる。なんかすげーでけぇ透明な宝石の中に黒い人型が入ってる? あれ、俺じゃん。俺、水晶の中にいるの?

「そんなイマイチのアリアンを凄いイケメンにするために今日も頑張りますか!」

 うーん、とリンカは伸びをして、屋敷の地下室へ降りていく。そんな地下室なんてあったのか? まあリンカのことだから作ったのかな?俺はふわふわとその後をついて行った。あれ、俺ってば実体がねぇな? しかもリンカも俺に気がついてねぇ、珍しいこともあるもんだ。
 何となく白衣まで着込んだリンカの後をずーっとついていくとピカピカ光ったり、低く唸ったりする薄暗い所についた。リンカの記憶でみたことのある機械とかに似ている。でも魔力で動いてるみたいだ。

「えーと、魂追っかけシステムはぁ……まあ順調かなぁ? 気象コントロールもオッケーだし、竜脈の乱れもなし、っと。そろそろご褒美タイムだと思うんだよねー」

 リンカは誰かに話しかけてるみたいだ。一体誰? 俺じゃないぞ。

「はぁ、怖いなぁ~君達は。君達の推しにかける情熱はいつ消えるの?」
「消える訳ないけど? 神様のくせに何寝ぼけてるの。それより次はどうする? 赤の国、あまり発展してないよ。介入する?」
「そだねぇ~青から少し魂を回収して赤へ入れて」
「おっけぇ……青の国の人達、ごめんねぇ。次はもっといい人生にするからねぇ」
「やっさしー!」
「なによぉっ!本当はあなたの仕事でしょーっサボって竜にやらせないで!」
「手伝いたいっていったのリンカじゃん」
「ご褒美欲しいです、わんわん」

 リンカの犬の真似は中々似てい、上手いなぁ。

「ご褒美ぃ? 元々さあ、リンカが衛星を私の家の床に打ち込んだのが悪いんでしょう?」
「だって惑星の軌道衛星上に打ち上げたら神様の家の床にブッ刺さるなんて知らなかったんだもん」
「たまたま、というかなんか飛んでくるから見に行ったのも悪かったんだけどね」
「自業自得じゃん!」

 リンカはかちゃかちゃと手元で何かを弄りながら手元に置いてあるぬいぐるみに話しかけていた。ちょっと歪な男の子のぬいぐるみで短い手足がもにゅもにゅと動いてる、生きてんのか?アレ。

「だって地上からあんな高さまで飛んでくる物なんて万物創生以来なかったんだもん。気になるじゃない」
「仕方ないでしょう! 世界を観測したいんだから。アレでも裏側まで見れないしぃ、もう一機打ち上げたいけど、邪魔されてるし!」
「いやん、エッチぃ」
「はぁ……あんたじゃ萌えが足りない。やっぱりルシ様じゃないとなぁ」

 リンカは自分の隣に置いてあったもっと可愛くてもっと大きなぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。ああ、綺麗な銀髪に紫の目のずんぐりむっくりなふかふかは確かにルシそっくりな色だなぁ。俺もちょっと抱きついてみようかな? リンカは俺ならいいって言ってくれるだろうし。
 ぎゅむっと抱きつこうとしたけど、俺、実体がなかったんだ……でもこれ、よく出来てるなあ。

「さてと、ルシ様はアリアンを抱っこさせておいて……そろそろ裏側まで覗かせてくんない? 魂追っかけシステムの形跡だと、この惑星の裏側に隠したんでしょ?」

 リンカは金髪のぬいぐるみに怒りながら話しかけ、ルシのぬいぐるみの横には俺に似たふかふかがいてぎゅつと抱き合っていた。リンカ、何してんだろう。あ、でもリンカが昔いってた。

「推しぬいは基本ですしおすし」
「ぬい?」
「そのうちアリアンも作ってあげるからねー!」
「なんか分からんが作ってくれるならありがとうだな!」

 ぬいってふかふかのぬいぐるみのことかー。リンカの愛と綿が詰まってるぬいは満足そうに抱き合っていた、うん、もっとくっつけ。
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