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70 私は特別なのだろう

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「アリアン、鱗を失った場所を見せてくれないか?」
「んー……」

 少し考えたようだが、いつもの笑顔を見せてくれた。自分の弱点を晒すのは恐ろしいはずなのにそれほど私のことを信用しているということだろうか。私の心をくすぐる可愛い奴だ。

「良いよ、ルシなら」

 ん、と左腕を上げ左脇腹をくっと目の前に突き出す。そこには痛々しく赤い傷跡がある。

「これ以上治らないのか?」
「うん、ここまでだって」

 薄い皮が張って血は出なくなっているが、少し力を入れて押せばすぐに破れてしまいそうだ。

「……触っていいか?」
「んー……ルシなら、いいよ」

 そっと指先を伸ばし、ゆっくり這わせればびくりと大きく震えた。本能的に傷は隠していたいんだろうな。

「痛むか?」
「……ん、ちょっと痛い、けど平気。覚えておきたいし」

 覚えて……そうか、それなら永遠に忘れないように、深く刻みつけておかなくては。

「……ルシ?」

 少しの痛みと不安感に眉を寄せていたアリアン他所に、鱗を失って酷く弱った場所をベロリと舐め上げた。

「ひやぁっ?! ひっ、や! ああああっやぁーーっ」

 背をいっぱいに反り返らせ声を上げる。驚きと、恐怖と他に色々含んだアリアンの声は私を酷くかきたてる。薄い皮膚を破かぬよう、それでもぬめる舌先でゆっくり舐め上げるたびに全身が跳ね上がる。

「ルシっ……や、やだ、それやだ、やめて、あっやあんっあんっひっ」

 やだやだと首を振りながらも強く拒否してこないのは、声に混じっている喜色のせいか。

「ルシ、ルシ……う、うう……やめて、おれ、一人でいっちゃううぅ……一人やだぁ一緒がいいぃ~……」

 そんな風に涙声でおねだりされたら止めざるを得ない。

「わかった」
「うん……」

 滲んだ涙を親指の腹で拭いてやれば、照れ臭そうに笑う。痛いでも怖いでもなくて、一緒が良いからと泣くアリアンは本当に可愛らしい。ならばと細い腰に手をかけて持ち上げようとすると、今度は遠慮がちに視線を逸らせた。

「な、なあ……ここですんの……?」
「む?」

 そういえばここは風呂だった。急いで風呂上がり用のガウンを身につけて、アリアンをタオルで巻いただけで自室へ連れ帰る。ありがたいことにその廊下で誰とも会わなかった。
 いや、もしかしたら皆、気を利かせて近づかなかったのかもしれない……多分そのような気がする。良くできた使用人への報酬のことは後でいいだろう。今はぴたりと首にしがみついて赤い顔で息の荒いアリアンを可愛がるのが先決だ。

「ん……」

 急いで正解だろう。
 

 


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