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66 人間性が汚い。

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「み、魅了……禁術ではないか、エリーゼ、まさか、そなたそのような悪事に手を染めているのか……?」
「そ、そんなわけないじゃない、わ、私はそんなことしてないわ」

 しかし聖女エリーゼの目は不自然に動き、白くなった顔色、しどろもどろの口調からどう見ても怪しんでくれといわれているようにしか見えない。
 リンカが言っていた、リンカの読んだ小説の中で聖女エリーゼは自分が魅了の魔法を使えることに気が付いてはいなかったようだ、と。しかし、ここにいるエリーゼはリンカと同じく「小説の読者」がエリーゼとしてこの世界にやって来たようだと。つまり、このエリーゼは自分に魅了の力があると知った上で人々を上手に使っていたのだ。

「そういうところも更に気に入らないです!」

 声高にリンカがエリーゼを嫌う意味もよく分かる。人間性が薄汚い。

「しかし! そ、そういわれてみれば皆エリーゼのことを特別扱いして」
「それは……私が聖女だからでしょう?!」
「それにしても皆、盲目的に……」
「そんなことない! そうよね? チャールズ! チャールズ?」

 エリーゼは味方が欲しくて必死なのだろう、騎士団長の名を呼ぶ。しかしそれに我々はため息をつくしかない。

「元騎士団長チャールズならば降格し先月から辺境で働いております。いくら呼ぼうとも王城に現れることはもうあるますまい」
「えっ?! そ、そんなの私、聞いてないわ! 先月ってもう10日以上過ぎてるじゃない、なんでよ」

 エリーゼがチャールズの不在に気が付かないのは我々の責任ではない。

「それになんでチャールズが騎士団長を辞めてるの? チャールズはエンディング後もちゃんと騎士団長としてやっていってるはずでしょ!」
「……勤務態度が良くなかった。全騎士の手本になるべき団長が、夜中に出掛けたり、会議中に居眠りを繰り返したり、訓練中に席を外し戻って来ぬ……そんなことをしておれば騎士達からの信頼を失っても致し方ないことだ」
「えっ……」

 アスガン宰相の糾弾する視線を真正面からぶつけられ、エリーゼはニ、三歩後退る。誰もが気が付いていた、チャールズ団長はエリーゼのわがままに付き合わされ、生活に破綻を切らしていたのだ。
 しかし、誰もエリーゼを止めなかった。いや、止められなかった、彼女のいうことは絶対だから……無理矢理付き合わされ、勤務にも健康的にも限界が来たチャールズは王都から離れざるを得なかった。
 エリーゼが来る前は、実直で責任感のある良い騎士団長であったのに。

「そういえば最近見てないと思ったら……そんなぁ~私の逆ハー要員がー!」

 呟きにしては大きな声が聞こえてくる。私はリンカから聞いて知っている……結婚の約束をする訳でもなく、自分をちやほやしてくれるだけの男性を侍らせて楽しむ趣向を逆ハーレムと呼ぶのだそうだ。なるほど、その要員か……チャールズの今後を考えると王都とエリーゼから離れて正解だっただろう。そう考えるとリンカはチャールズの将来を救ったとも言えるな。流石リンカだ。




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