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しおりを挟む聖女の扱いについて有用性を見出せず、少し考え込んでいると、突然アリアンが身を起こした。
「リンカ! リンカ、早くっ」
ちかくにリンカはいない。王宮まで書類を届けに行っているからだ。
「アリアン、リンカは……」
「ルシッ! 伏せろ!」
アリアンが私の上から覆い被さり、床に倒れ込む。何だ?! 一体何が?
ゴォッと凄まじい風圧がドアから窓の方へ荒れ狂う。廊下とこの寝室を仕切るドアが木の葉のように回転し、窓を突き破って外へ飛び出した。伏せたアリアンの黒い髪の先端を削りながら何かが現れる。
「リンカァッ! 早くッ」
アリアンの叫び声。しかし答えたのはリンカではなく、こんな表情もできたのかと驚くほど自信に満ち溢れた青影だった。
「あっれぇ~? 兄貴ぃ、人間の卵作っちゃってんすかぁ? ねぇねぇ、そのせい? 兄貴ぃクソ弱くなっちゃってませんんんん? 笑うー!」
「クソが……」
床に埋まり、情けない顔しか見たことが無かった青い髪に金の瞳の男……青の大陸の守護竜・青竜が厭らしい顔でニヤついて立っていた。
「なんつーか、先日はドーモオセワニナリマシタぁ? ってかぁ?」
青竜の顔には悪意しかない……出会った頃のアリアンとそっくりな人間をおもちゃにしか思わない残忍な笑みが溢れている。
「ルシ、逃げろッ」
「人間が俺から逃げられる訳ねーんすよぉ? 兄貴ィ?」
「クソッ離せっ」
ドアの所にいたはずの青竜は一瞬で私とアリアンの横に来ていた。右手でアリアンの左手を掴み吊り上げる。
「イイんスよぉ? 兄貴ィ。兄貴の土手っ腹に風穴空けてやっても? その程度じゃ兄貴はくたばらないでしょーが、腹の卵は木っ端微塵のさよならバイバイだ」
「や、やめろーっ」
開いた右手で慌てて腹を押さえるアリアンを勝ち誇った顔で見下ろす。
「あーあ! あの兄貴がこぉーんなよわっちぃなんて、俺ガッカリッスわぁ! この人間のせいッスかねぇ?」
ギロリと青竜の金色の目が私を捉える。虹彩が縦に裂けた竜の目はかなりアリアンで見慣れたとはいえ、人間の潜在的恐怖を煽る。私には黒竜の守りがあり、アリアンにもあるはずなのだが、直に手を下してくる青竜の力は強すぎた。そうか、だからアリアンは最初からリンカを呼んだのか。
「黙れ、青っ! ルシに怪我させたらただじゃおかねぇぞ!」
「どーしちゃってくれちゃうんスかねぇ、可愛い兄貴ィ? ってか人間に入れ込んじまってメスの顔してるッスよぉ……悪くねぇッス」
「?」
ベロリと舌舐めずりをする青竜の意図はアリアンには伝わっていないようだ。まさかこいつはアリアンをおもちゃにする気か……?!
「じゃあ、行きましょっかぁ。兄貴ィ可愛がってあげますよ」
「行かねぇっ! 俺はここにいる! ルシのとこにいるんだ!」
「黙れッ」
「ッ?!」
青竜の一睨みで私のすぐ横の床に大穴が開いた。
「黙って俺のいうことを聞け、アリアン! じゃねーと、その人間、ぶっ殺すぞ」
「ルシに手ェ出すんじゃねぇ!」
アリアンは片手で吊られたまま、連れ去られた。眉を垂れ下がらせて、それでも心配気に私を最後までアリアンは見つめていた。
私は何もできなかった。
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