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32 魔虫の研究者

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 アカデミーに問い合わせるとギディアン・クライスはすぐに面会できるという。

「お、応接室へ」
「いや、ギディアン・クライスは教授だったな? 教授は研究室を与えられているはずだろう。彼の仕事ぶりも見たい、研究室へ」
「あ、あの、しかし! 公爵閣下が足をお運びになるような場所では」
「構わん」

 アカデミーの職員は慌てている。なるほど、ギディアンは閑職に追われているのか。すぐに結果の出ない魔虫の研究ならばさもあらん。
 渋る職員に案内させるとアカデミーの外れも外れ、荒屋のような場所に隔離されていた。これでは研究も何もあったものではないだろう。できる成果もこれでは日の目を見るのに時がかかりそうだ。

「あ、あの! クライス教授。お客様です」
「えっ? どなただろう。こんな汚い場所にタイラー先生以外来るなんて……うわっ!」
「どうした、クライス……誰が……うわっ」

 初対面で驚いたとはいえ、そこまで声を上げることでもないだろう。クライス教授の研究室には彼以外にもう一人男性がいて、二人とも私の顔と名前は把握していたようだ。
 
「あ、あの……私がギディアン・クライスです。こちらが友人のタイラー。彼は魔法学の教授です」
「はじめまして、デフィタ公爵。公爵閣下が何故こんな場所へ」
「大陸オオトビバッタを駆除する方法を見つけて欲しい。期間は三年、費用はデフィタ家がすべて賄う」
「まさか、起こるのですか! 大飛行が」
「五年以内に高確率で起こると、信頼できる筋から情報が入った。是非、君に頼みたい」

 ギディアン以外何も分かっていない顔だったが、ギディアンは真剣そのもので、私より危機感を持った顔つきをしていた。これは期待できる……リンカが名指しで指名するのも頷ける。

「なんてことだ……首都が壊滅しますよ」
「させないために君の力が必要だ」
「全力を尽くさせて貰いますが……ああ! バッタのサンプルが欲しい! 何とかして取り寄せて……すみません、その資金も提供して貰えるのでしょうか?」
「勿論だ。君の衣食住も我が家でみよう。それと近日中にバッタは手に入る予定だ、少し待ってくれ」
「わっ! 本当ですか! 聞いたかい!? タイラー! 私の研究が認められたよ」
「ああ、良かったな! ギディアン」
「うんっ」

 涙ぐむギディアンと頭を撫でてやっているタイラー。仲が良いらしいな。

「結果を期待している。君ならばできると知己の賢者が断言した。すぐに成果が出ないことも重々承知だ、しかしやり遂げてくれ」
「公爵閣下のご期待に応えられるよう、全力を尽くします!」
「ああ……ついでにもう少し、来やすい場所に研究室があると助かるな。我が家からの寄付は少し足りなかったかもしれないな」
「はは……」

 ギディアンは分かりやすい愛想笑いをし、アカデミーの職員の顔色は青を通り越して白どころか死人みたいな土気色になっていた。
 我がデフィタ家はこのアカデミーに少なくない寄付をしているはずだ、多分金額上位十名くらいに入るくらいは。そのデフィタ家が見込んだ教授がこの扱いは流石に肝が冷えるだろう。

「君」
「はひゃあっ‼︎」

 アカデミーの職員はもう人語も忘れたようだ。

「次にクライス教授に会いに来る時も案内を頼む。間違いなく研究室の場所が変わっているはずだろうからな」
「そそそそそそれはもちろんでございますぅううう!」
「あはは……」

 これだけ念押しすればもっとまともな研究室が与えられ、研究も進むことだろう。こういう教授に金銭的支援をするのはある意味賭けだが、その賭けの勝率を100%にしてくれるリンカにはまた助けられいる。本当にリンカには何をして報いればいいのだろう、皆目見当もつかん。

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