その壊れた恋愛小説の裏で竜は推し活に巻き込まれ愛を乞う

鏑木 うりこ

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23 この大陸の守護竜様でもなければえっへん!

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「デフィタ公爵、聖女エリーゼより至急面会をしたいとの申し出が届いております」
「聖女から? どういった内容なのか」
「ええと……でも、あの! 至急とのことでしたので! お願いです、是非‼︎」

 文官の一人が必死で訴えてくる。

「アリアン」
「ああ、間違いねぇ。〈呪い破壊〉」

 その文官をアリアンが一睨みすると、勢いよく何かが弾ける音がした。

「ひっ?!」
「おめー直接あの女に会っただろう? ま、しゃーねーよ。人間じゃ弾けねぇレベルの強さの魅了だもんな」

 音に驚いて耳を塞いだ文官はしばらくすると立ち上がり不思議な顔をしている。

「君、聖女がなんと?」
「え、あ、デフィタ公爵に面会したいと仰るので、約束を取り付けるようにとご説明していたら……何故、私が直接公爵の所に来たのでしょう……? あれ、おかしな……」
「会いたければ面会の予約を取るようにと伝えろ。聖女だからといって優遇する必要はない。私は忙しいのは君も知っているだろう」
「は、はいっ! 失礼致しました」

 文官は慌てて執務室を出て行く。その後ろ姿にため息をつくしかない。

「大人しくしていれば良いものを」
「狙われ始めたんじゃねぇ? ルシは顔がかっこいいんだからよ!」
「迷惑なことだ。まだまだ国が安定しておらんのに余計な仕事を増やして欲しくないものだ」
「そーだなあー。コレから飢饉とか水害とか旱魃とか起こっちゃうしなぁ。流行病はなんだっけ? インフルエンザだっけなぁ」
「アリアン? どういうことだ」
「ん? ほら、この世界ってさリンカが好きな小説らしいだろ? そんでその小説の中で色んな事件が起こるんだ。最初は川が決壊して大水だぞ」
「なっ!アリアン! 詳しく教えるんだ」
「えーとねぇ……」

 アリアンの説明は非常にわかりにくかったが、アスガン宰相と地図を見ながら話し合い、地質に詳しい学者を緊急で招く。

「ここですな、間違いない」
「成程……」

 国の東側の大河の蛇行点が弱いと判明した。確かにそこが決壊すれば王都の東半分は水没するかもしれない。

「どうすれば良いだろう」
「川幅を広げ、流れを穏やかにして蛇行を緩やかにして護岸を」
「厳しいな、予算的に」
「はい……」

 そんな大工事を行う金が足りない。

「んー、俺が掘ってやろっか?」
「は?」
「この辺にある竜脈を弄って、こっちからこうやってこの辺はブレスで吹っ飛ばす。岸を丈夫にするのは無理だから、そこは人間の手でやってくれ」

 阿呆なはずのアリアンが地図上で指を滑らせている。私とアスガン宰相は思わず地質学者に素早く視線をぶつける。

「成程、それが本当に実現可能ならば水害は防げますぞ。しかし、そんな人間離れしたことなど、この大陸の守護竜様でもなければできぬ御技ですぞ」
「えっへん!」
「……アリアン、頼めるか……?」

 嫌な予感しかしないが、この国の為なら我が身など……。

「今日から風呂一緒に入ろ!」
「ぐぬ」
「そんで添い寝して!」
「ぐ」

 その時、私は下唇を思いっきり噛んでいたらしい。血の味がした。

「デ、デフィタ、公爵……」

 アスガン宰相は多分、無理をすることはないといってくださろうとしていたんだとは思う。しかし、アスガン宰相もそんなことはしなくて良いとはいえぬ身。勿論、逆の立場なら、私も断れとはいえないだろう。

「わ、わかっ……った」
「わぁーーい!」
〈きゃーーー♡♡♡〉

 我が身など、我が身などぉ……っ!
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