その壊れた恋愛小説の裏で竜は推し活に巻き込まれ愛を乞う

鏑木 うりこ

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21 チューして!

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「ルシ、頼みがある」
「どうしたアリアン」
「チューしてくれ」

 流石の私も殺意が湧いた。何故お前に?

「わーわーわー! 聞け、聞いてくれ」
「一応聞いてやる」
「お、俺は常日頃からリンカにギャフンといわせたいんだ!」
「……だろうな」

 行動のあちらこちらをリンカに乗っ取られているようなアリアンだ。たまにはリンカを抑えて優位に立ちたいだろう。

「そんで俺は考えた!ルシが俺にチューしてくれれば多分リンカは飛ぶ!」
「……」
「ほっぺでいい! 頼む!」
「……」
「頼むよーぉ」

 嫌だ。そういいたいが、アリアンの機嫌は損ねたくない。

「ココ、ココ!」

 ん、と差し出してきたアリアンの右頬に仕方がなく唇を寄せる。

「んっ!」

 軽く唇をあまり暖かくない頬に触れさせた。

〈きぃやぁぁあああーーーんっ!!ルシさまぁーーっ!!〉

 甲高い女性の叫び声、この場合思念だけが聞こえ静かになった。

「ぎゃーーっはっはっは! リンカが飛んだーー!」
「はは……」

 寝ているはずのリンカは叩き起こされ、そして気絶したそんな感じか。

「やったー! やったー! 俺の勝ちぃ」

 これに勝ち負けがあるのか、と少しため息をついてしまったが、アリアンがご機嫌で喜んでいるから、良しとしよう。

 それから何かあるとアリアンがすぐに言い出す。

「ルシ! ほっぺにチューして!」
「良いのか……?」
「して! してー!」
〈きぃやぁーーーっ!ルシ様にチューしてもらったあああっ!ふぅ〉

 その度にリンカは一瞬現れては気を失い帰って行き、アリアンは高笑いしていた。良いのか……?


「……」
「……」
〈えへっ! ルシ様にちゅーしてもらっちゃったぁ〉

 だろうな、私はそう思う。しかし、アリアンには相当ショックだったらしい。

「チューしたのに、リンカが飛ばねぇ」
〈うふふ! 嬉しいっ〉
「なんでだ‼︎」
「まあ、あれだけやれば慣れるだろう」

 面白がって何度もやるから当たり前だ。

「く、くそ、くそぅーー! リンカめぇ……」

 まったく、ため息しか出ない奴らだ。

「ルシっ!チューしろ! 口に!!」
「嫌だが?」

 それは流石に拒否させてもらおう。

〈く、口?! 口とか言った?!だ、だめよクロちゃん!そ、そんな、そんなきゃーっいやーっ!!〉

リンカよ、そこで良い反応を返してはいけない。

「コレだ!絶対にこれだっ!!ルシ、チューっ!頼む、頼むから!チューして!」
「だから、嫌だといっている」
「頼む!チューしてぇーー!」

 結局、アリアンに押し負けてキスをする羽目になってしまった。当然リンカは嬉しそうな悲鳴をあげて気絶して、アリアンは高笑いをする。

 アリアンに何か面倒くさい仕事でもさせよう。



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