その壊れた恋愛小説の裏で竜は推し活に巻き込まれ愛を乞う

15 むかつく……！(エリーゼ

「り、竜だーー！」

　巫女としてルシ様が神殿へ入った次の日に、空に黒竜アリアンが現れた。何もかも異例尽くしだったから、神殿は慌てたし、聖女として私も黒竜神殿へ急いだ。だってアリアンは神殿へ降り立ったんだもん。何とか私を認識させる必要がある！

「わ、ルシ様だ」

　私の最推しは王太子カイン様だけど、ルシ様の美しさは格別だった。何せ銀色の長髪に紫の瞳なのよ！美しいの凝縮じゃん！そしてそんなルシ様のすぐそばに怖い人がいる……アリアンだ。
　真っ黒な髪に、真っ赤な目。角や翼がない人間とほとんど変わらない姿をしている。小説でアリアンは巨大な竜の姿でしか出てきていなかったから、私は少し驚いた。
　細身の体、長い手足……サラサラの髪の毛に鋭い赤い目……なにあれ、カッコいいじゃん。あれなら私の取り巻きにしてあげてもいいんじゃないかな？？隣に立つルシ様と相まってあの二人のそばはなんだか近寄りがたい雰囲気が漂っているのもまた良い。
　あの二人だって私が声をかければ無視できないんだしね！

「あ、あの！　ルシダール様がお戻りになられたと聞いて、私……居ても立っていられなくて！」

　しおらしく、聖女らしく私は声を上げる。こうすれば周りの神官は私に注目して道も開けてくれる。ふふ、少し早いけどルシ様ともお近づきになっちゃお！どうせ私のことを好きになるんだから良いよね？

　バチン！何かが弾けた音がした。な、何？？何なの？軽く衝撃が来て驚くけれど、何のことかわからない。まあ良いや！　それよりルシ様とアリアンよ。
　私が声をかければどんな人も笑って私のいうことを聞いてくれるーー。

　おかしいな？　アリアンはどうして私を睨んでいるの？ルシ様はどうして私を無視するの？
　アリアンの真っ赤な瞳の虹彩が縦に裂けて、爬虫類の目になっている……なにあれ、凄く怖い……っ！しかも牙まで剥いてるなんて……わ、私、アリアンを怒らせるようなことした？？　何もしていないわよ？！
　何度かバチンと弾ける音がするし、アリアンは怒ってるし、ルシ様は私の方すら見てくれない。全く目に入っていないかのように無視をされた。し、信じられない！どうして、どうしてなの？？
　二人は用意された馬車に乗って王都のデフィタ邸へ帰ってゆく……私は呆然と立ち尽くすしかなかった。どうして？なんで？？私が主人公なのよ！私を無視するなんてあり得ない、絶対二人とも落としてやるわ！！

「むかつく……っ」
「せ、聖女、さま？」

　周りに愛想笑いを浮かべて取り繕う。ほら、やっぱり皆、私に優しいじゃない、私はこの世界の主人公なんだもの！