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11 ワクワクしている
しおりを挟む「リンカめ、ちくしょう! ううう、くそーくそー!」
リンカに不平を言い続けるアリアンだが、そんなに悔しそうな顔をしていない。力こそすべてという竜族の流儀に則ると、強いリンカは憎むべき存在ではないのかもしれない。
そして悠久ともいえる時を生きるアリアンの暇と空虚を埋める存在であったのかもしれない。
「しっかし、あの聖女気持ち悪りぃな。リンカの話じゃ俺まで傾倒すんだって。なんかさ、暇してる所に甘い言葉をかけられてころっと堕ちるんだとよ!信じらんねー」
「お前が?」
「うん。俺があの女に力を貸すもんで、あの女はやりたい放題すんだってよ。んで、王太子から商人の兄ちゃんとか男どもに囲まれた女王様だって。ハーレム?いや、逆ハー?とかいってたかなぁ?ルシもその一員になるらしいぞ」
私は首を傾げるしかない。
「つまり、複数人の男性と異性交流を聖女エリーゼは行うというのか?」
「うん、男を侍らせて喜ぶらしい」
「悪趣味な」
「それに嬉々しとて参加するんだってよ、信じらんねーよな。でもそれが魅了って奴なんだとよ」
アリアンの話は到底信じられないが、精査する必要はある。王太子……王太子カインは使えない王太子だ。実際国王含め王族はどれも使えない。そのせいで国は腐敗が進み、贈賄が横行している状態で、清浄化に進み始めたばかり。
それなら切り捨てた方がいいだろう。
「始末した方がいいかもしれねぇな?」
「ああ」
私達は国を立て直す、その邪魔になるのなら聖女とて容赦はしない。
「その方がリンカも力を出し惜しみしねぇし」
「それは大きなことだな」
しかし何故聖女が必要なんだ?我が家へ着くまでの帰路で今まで考えていなかった聖女の存在について私は思い返していた。
「うへー! 馬車って揺れるなぁ、逆におもしれー。森も上から見んのと違うなぁ!」
アリアンは車窓の景色に夢中になり始めたから思考を纏めるのにちょうど良かった。
聖女……国が危機に見舞われた際に召喚の儀式により呼び出される稀有な存在。この世界では神があり、その下に竜がいる。 竜は神の意志の元、大地を平定して己が守護化において人々を導く……。
その守護竜が目の前にいて、私のいうことは基本何でも聞いてくれる状態。そして国の危機は貴族の腐敗が原因だと分かっている。
聖女は不要では?
「アリアン、聖女は必要だと思うか?」
一応、神の意志の元にいる竜に尋ねてみるが、返答は一貫している。
「いらねー。いねぇ方がさっぱりする」
「そうか」
聖女は人が招いた者。するとリンカは誰の招きによるものかと考えた時に出る回答の一つになるのは……神自身が守護竜のために直々に招いたのではないか?ということだ。
反発しながらもリンカ自身もアリアンのことを嫌ってはいないし、アリアンもリンカを尊重している。
ならばやはり聖女の存在は必要ない。
「ルシ! 街だ」
「ああ。デフィタ家は貴族街の中心にある白い建物だ。悪くない佇まいだぞ」
「おー! 楽しみだ、ルシんち、ルシんち!」
わくわく、という言葉がぴったりきそうなアリアン。この行動もリンカの深層意識によって引き起こされているんだろうが、本人は気づいていないようだし、気づかせない方が幸せだろう。
「まずは客間を用意しよう。それから部屋は……」
「お前の部屋の隣!」
「……構わない」
「わーい!」
隣にアリアンがいるのは多少の嫌悪感を覚えないわけではない。しかし、敵の多い身、アリアンがいればどんな刺客からも守られるだろう。
「天蓋付きのベッドな!」
「分かっている」
建具屋で立派な奴を注文してやろう。それくらい安いものだ。
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