上 下
11 / 83

11 ワクワクしている

しおりを挟む

「リンカめ、ちくしょう! ううう、くそーくそー!」

 リンカに不平を言い続けるアリアンだが、そんなに悔しそうな顔をしていない。力こそすべてという竜族の流儀に則ると、強いリンカは憎むべき存在ではないのかもしれない。
 そして悠久ともいえる時を生きるアリアンの暇と空虚を埋める存在であったのかもしれない。

「しっかし、あの聖女気持ち悪りぃな。リンカの話じゃ俺まで傾倒すんだって。なんかさ、暇してる所に甘い言葉をかけられてころっと堕ちるんだとよ!信じらんねー」
「お前が?」
「うん。俺があの女に力を貸すもんで、あの女はやりたい放題すんだってよ。んで、王太子から商人の兄ちゃんとか男どもに囲まれた女王様だって。ハーレム?いや、逆ハー?とかいってたかなぁ?ルシもその一員になるらしいぞ」

 私は首を傾げるしかない。

「つまり、複数人の男性と異性交流を聖女エリーゼは行うというのか?」
「うん、男を侍らせて喜ぶらしい」
「悪趣味な」
「それに嬉々しとて参加するんだってよ、信じらんねーよな。でもそれが魅了って奴なんだとよ」

 アリアンの話は到底信じられないが、精査する必要はある。王太子……王太子カインは使王太子だ。実際国王含め王族はどれも使。そのせいで国は腐敗が進み、贈賄が横行している状態で、清浄化に進み始めたばかり。
 それなら切り捨てた方がいいだろう。

「始末した方がいいかもしれねぇな?」
「ああ」

 私達は国を立て直す、その邪魔になるのなら聖女とて容赦はしない。

「その方がリンカも力を出し惜しみしねぇし」
「それは大きなことだな」

 しかし何故聖女が必要なんだ?我が家へ着くまでの帰路で今まで考えていなかった聖女の存在について私は思い返していた。

「うへー! 馬車って揺れるなぁ、逆におもしれー。森も上から見んのと違うなぁ!」

 アリアンは車窓の景色に夢中になり始めたから思考を纏めるのにちょうど良かった。

 聖女……国が危機に見舞われた際に召喚の儀式により呼び出される稀有な存在。この世界では神があり、その下に竜がいる。 竜は神の意志の元、大地を平定して己が守護化において人々を導く……。
 その守護竜が目の前にいて、私のいうことは基本何でも聞いてくれる状態。そして国の危機は貴族の腐敗が原因だと分かっている。

 聖女は不要では?

「アリアン、聖女は必要だと思うか?」

 一応、神の意志の元にいる竜に尋ねてみるが、返答は一貫している。

「いらねー。いねぇ方がさっぱりする」
「そうか」

 聖女は人が招いた者。するとリンカは誰の招きによるものかと考えた時に出る回答の一つになるのは……神自身が守護竜のために直々に招いたのではないか?ということだ。
 反発しながらもリンカ自身もアリアンのことを嫌ってはいないし、アリアンもリンカを尊重している。
 ならばやはり聖女の存在は必要ない。

「ルシ! 街だ」
「ああ。デフィタ家は貴族街の中心にある白い建物だ。悪くない佇まいだぞ」
「おー! 楽しみだ、ルシんち、ルシんち!」

 わくわく、という言葉がぴったりきそうなアリアン。この行動もリンカの深層意識によって引き起こされているんだろうが、本人は気づいていないようだし、気づかせない方が幸せだろう。

「まずは客間を用意しよう。それから部屋は……」
「お前の部屋の隣!」
「……構わない」
「わーい!」

 隣にアリアンがいるのは多少の嫌悪感を覚えないわけではない。しかし、敵の多い身、アリアンがいればどんな刺客からも守られるだろう。

「天蓋付きのベッドな!」
「分かっている」

 建具屋で立派な奴を注文してやろう。それくらい安いものだ。

 



しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

今日も武器屋は閑古鳥

桜羽根ねね
BL
凡庸な町人、アルジュは武器屋の店主である。 代わり映えのない毎日を送っていた、そんなある日、艶やかな紅い髪に金色の瞳を持つ貴族が現れて──。 謎の美形貴族×平凡町人がメインで、脇カプも多数あります。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)

藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!? 手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!

王道学園のモブ

四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。 私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。 そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

ザ・兄貴っ!

BL
俺の兄貴は自分のことを平凡だと思ってやがる。…が、俺は言い切れる!兄貴は… 平凡という皮を被った非凡であることを!! 実際、ぎゃぎゃあ五月蝿く喚く転校生に付き纏われてる兄貴は端から見れば、脇役になるのだろう…… が、実は違う。 顔も性格も容姿も運動能力も平凡並だと思い込んでいる兄貴… けど、その正体は――‥。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

処理中です...