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10 哀れなり黒竜
しおりを挟む「ふごー! 面倒くせぇ!」
「アリアン?」
馬車に乗り込み、王都へ向かう途中、アリアンは聖女のしつこさに苛立っていた。
「無駄だって分かっただろうにあの女しつけーの! あーもーっ仕方ねぇ!」
「何を……?」
ゴソゴソと服を捲り上げて何かをしていたと思うと突然おかしなことをいう。
「ルシ、口開けろ」
「何故」
「いいから。俺はお前の不利になることはしないしできねぇって知ってんだろ?」
「あ、ああ」
言われるままに口を開けると中に何か突っ込まれた。慌てて吐き出そうとするが、それは上顎にくっ付いた感覚があり、そして消えてしまう。
「アリアンッ! なんだ今のは!」
「わぁっ! 怒んなって。こえーな、大丈夫だよ、俺の鱗だ」
「鱗……?」
見れば脇腹の辺りから少し血が流れている。無理矢理何かを剥いだ、そんな感じがする。
「これで人間の使う魔法にかなりの抵抗力が上がるし、竜語魔法の簡単なやつなら使えるようになるからさ。俺が側にいない時は自衛してくれ」
「りゅ、竜語魔法……?」
「ああ。人間が使う魔法なんかとは別形態を取ってるんだけど、何せ精神力の消費がバカ高いから竜でないと使いこなせない奴だよ。ルシが使う時は俺から削れてくから問題ねぇよ」
そんな魔法があるのかとアリアンをじっと見返すと嬉しそうに笑った。
「へへ、簡単なのしか使えねーと思うけど、竜鱗展開すりゃ大抵のものは防げるからな」
「そ、そうか……ありがとう」
「うっっ!!」
感謝の言葉を口にしたのに、アリアンは何故か胸を押さえて丸くなった。どうした?
「くっ……リンカの深層意識がぁ……っ! 感謝されただけでこんなにドキドキすんな、馬鹿野郎……っ」
リンカは眠っている。しかし眠っていても自分の中にあるリンカの深層意識はアリアンに多大な影響を与えてしまうらしい。
「嬉しいのか?」
「う、嬉しくなんかないっ!嬉しくなんかぁーー!」
身悶えるアリアン。
「ありがとう、アリアン」
「うわぁーー! やめろぉー嬉しくなんかなぁあいぃーー! くうううっ!」
笑顔で身悶え続けるアリアンは少しだけ哀れだった。
「撫でてやろうか?」
「やめろぉっ! うわぁーー! お願いしますーっ」
本当にリンカは本当に素晴らしい人物だ。物凄く嫌そうで嬉しそうななんとも表現しづらい表情のアリアンの頭を撫でながらつくづく思った。
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