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30 私達は家族じゃない

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「契約は大切なことです。慎重に慎重をきしてしっかり内容を決める。8歳の子供でもわかる事です」

 アンゼリカが投資を始めたのは8歳の頃だ。子供でしかも女子のアンゼリカは舐められまくった。不利な条件ばかり持って来られ、文字が読めないと思われとんでもない内容の契約書を提示された事もある。
 そのふざけた契約書をしっかり読み、穴がないか、自分に不利ならしっかり直し、相手に不利ならどんどん利用する。なんなら紙の裏や、隅の隅までほじくり返し、それくらい慎重に契約を行ってきたのに。

「契約書が、ないとは」

 意味が分からない事だった。勿論契約書の大切さはセルドアもダリアもマークも痛い程知っている。全員確認を怠って痛い目にあった事がある。
 今でも慎重に慎重を重ね、書類に目を通しているのに。

「こ、国王が!そんな事お認めになる訳がない!」

「しっかり手続きは終わっております。国王様のサインも。ザザーランの悪評に国王も頭を悩ませておいででしたので、新しい当主に期待をよせて下さっております」

 アンゼリカが全てを取り仕切っていたザザーラン家。そのアンゼリカは王太子の婚約者だったのだ。アンゼリカがいなくなったら、ザザーラン家はどうなるのだ?と社交界では有名な話だった。現当主のタティオは全く社交界に顔を出さない、その後妻であるドロシーもだ。

「う、嘘だ……」「嘘よ……」「そんなぁ……」

 あと少し我慢すれば、この綺麗な家に戻れると信じていた3人は膝から崩れ落ちた。

「どうして?私達の為に家をきれいにしたんでしょう?また私とお父様とお母様でこの屋敷に住む為に……」

 リルファの独り言のような呟きにアンゼリカは冷たく答える。

「何故?何故、私があなた達の為にお金を払って家を直してやる必要があるの?しかも貴女の言う家族に私は入っていなかったわね。入りたいとも思わないけれど、何故他人の為にお金を払うのかしら?
 その考えに行き着く方が不思議でならないわ」

「だって、私達はか、家族……」

「じゃないわよね。私はアンゼリカ・ラグージ。私をザザーラン家から追い出したのは貴方達。今更何をおっしゃるのやら」

「だ、だって……!羨ましかったんですもの……っ!お姉様は何でも持っていた!一つくらい私にくれても良いじゃない……そうだ、私も……私もラグージ家に入れてよ。私もリルファ・ラグージになる……ね、それが良いわ。そうしましょ、ね?」

「リルファ?!何を言って……!」

 タティオは愛娘が自分を捨てるようなことを言い出した事に驚きを隠せなかった。

「でもそうでしょ?お母様、私がラグージ家に入ればこんな生活もうしなくて良いのよ!」

「リルファ?!」

 タティオは声を上げるが、リルファとドロシーの目は本気だ。

「そ、そうね。リルファがラグージ家の養女になれば……こんな生活しなくて良いわ……そうよ、それが良いわ!」

「そうよ!決まり、ねえお姉様これからも一緒に暮らしましょう、ラグージ家で。ああ、そうと決まれば早くラグージ家に案内して下さらない?早くご挨拶したいわ!」

 そんな三人の様子をアンゼリアの傍に立つ三人は驚愕に震えた。

「アンゼリカ。流石の私も心底君に同情するよ。なんなんだ?こいつらは、意味が分からないのを通り越したぞ。これは何の珍獣だ?人間の言葉を喋っていないぞ」

 セルドアは驚いて顔を青くしたし

「アンゼリカ……物凄く苦労したのね……大丈夫、私達はずっとあなたの味方ですからね」

 ダリアは瞳に涙を浮かべるし

「下がって、ダリア、アンゼリカ。あれは何の生き物か分からない。我々の理解の範疇をゆうに超えている」

 マークは背に女性二人を隠してくれた。

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