上 下
28 / 33

28 真の上質より上辺だけ

しおりを挟む
 まともに働き、給金を得る事を出来ないまま、元ザザーラン邸の補修は終わりかける。以前より品があり美しい屋敷に生まれ変わったと言えるだろう。そこそこに広い庭も、家人の趣味だろうか?薄い色の薔薇が品よくまとめられて植えていて、公爵家の庭に相応しかった。

「なにこの庭、センスがないわ!私ならもっと赤とかオレンジとか高級なバラをたくさん植えるのに!」

 ドロシーは庭に花を植える仕事を受け持っていた。ザザーラン公爵夫人であった時はそんな事気に留めた事もなかった癖に、今更に文句をぼろぼろとこぼす。
 何も考えずに値段が高い花を植えて自己満足に浸りたい。人からどう見られるかなんて気に留めたこともないそんな発言だったが

「そうよね、こんな安っぽい小さな花なんて見栄えがしないわ。引っこ抜いちゃおう!どうせ私達が屋敷に戻ったら植え直すんだから、今やっても良いわよね?」

「あら、リルファったら流石ね。そうしましょう」

 勝手に花を植え替えては、造園士にこっ酷く叱られる。

「お前ら!何やってんだ!!フェアリーローズを引き抜いて趣味の悪い安物を植えるなんて!!お前らが引き抜いておったフェアリーローズがいくらすると思ってるんだ!お前らの一週間分の給金より高いんだぞ!!」

「う、嘘でしょ……」

「分からんのか!この高貴な佇まい、密やかに変わる繊細な色味!美しい香り!ああ!全て特級品!こんな薔薇を扱えるなんて公爵家の庭くらいしかないと言うのに!」

「え……そう言われてみれば匂いは良いわね?仕方がないわ。これにしておいてあげる」

 造園士は「こいつら何言ってんだ?」と軽蔑の眼差しで見たが、ドロシーとリルファは気づかぬままだった。

「この家に戻った時に自慢できるわね」

 自慢できる相手もいないと言うのに。同じような事をタティオも繰り返していた。

「ワシの執務室の扉の取手はやはり金でなければ」

「なに安っぽいメッキの取手をつけようとしてんだよ!品が下がる!親方の設計通りにやれ!」

「しかし、ワシはこっちの方が良い」

「ふざけてんのか!それにしても趣味悪すぎるだろ?本当にそんなのつけるやつは成り上がりの中でも見栄ばっかりはる小僧だけだろ!俺達だってそんなのつけねえよ」

「へ?」

「本物の貴族の公爵様がそんなモン使う訳ねーだろ!少し考えりゃ誰だって分かる!付け直しとけ!」

「……そう言われてみればそうか……?」

 タティオ達が余計な事をするせいで完成は三日ほど遅れたが、以前とは比べ物にならない美しい屋敷にザザーラン邸は生まれ変わった。

 あともう少しで苦役から解放されるはず、と何とか働き続けるリルファの横にある屋敷の玄関に美しい貴族の馬車が止まった。勉強不足のリルファには分からなかったが、それはラグージ家の紋章がついた馬車だった。

 そして、紳士に付き添われ美しい令嬢が降りてくる。

「あ」

 リルファははしたなく大口を開けてその令嬢を見上げると

「屋敷の仕上がりはどうかしら?少し急ぐようにお願いしたのだけれども」

「申し訳ごさいません、アンゼリカ様。三日ほど遅れておりますが、大体完成でございます」

「悪くないわね。ごめんなさいね、こちらも急ぐ用事があって。給金は割増になってると思うけれど、もう少し上乗せするわ」

「あ!ありがとうございます!!」

 現場監督と話しているのは、リルファの元姉のアンゼリカだった。

「ア、アンゼリカ!!」

 リルファの大きな叫び声が辺りに響いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

築地シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

大切なあのひとを失ったこと絶対許しません

にいるず
恋愛
公爵令嬢キャスリン・ダイモックは、王太子の思い人の命を脅かした罪状で、毒杯を飲んで死んだ。 はずだった。 目を開けると、いつものベッド。ここは天国?違う? あれっ、私生きかえったの?しかも若返ってる? でもどうしてこの世界にあの人はいないの?どうしてみんなあの人の事を覚えていないの? 私だけは、自分を犠牲にして助けてくれたあの人の事を忘れない。絶対に許すものか。こんな原因を作った人たちを。

カウンターカーテシー〜ずっと陰で支え続けてきた義妹に婚約者を取られ家も職も失った、戻ってこい?鬼畜な貴様らに慈悲は無い〜

まつおいおり
恋愛
義父母が死んだ、葬式が終わって義妹と一緒に家に帰ると、義妹の態度が豹変、呆気に取られていると婚約者に婚約破棄までされ、挙句の果てに職すら失う………ああ、そうか、ならこっちも貴女のサポートなんかやめてやる、主人公コトハ・サンセットは呟く……今まで義妹が順風満帆に来れたのは主人公のおかげだった、義父母に頼まれ、彼女のサポートをして、学院での授業や実技の評価を底上げしていたが、ここまでの鬼畜な義妹のために動くなんてなんて冗談じゃない……後々そのことに気づく義妹と婚約者だが、時すでに遅い、彼女達を許すことはない………徐々に落ちぶれていく義妹と元婚約者………。

婚約破棄された令嬢は変人公爵に嫁がされる ~新婚生活を嘲笑いにきた? 夫がかわゆすぎて今それどころじゃないんですが!!

杓子ねこ
恋愛
侯爵令嬢テオドシーネは、王太子の婚約者として花嫁修業に励んできた。 しかしその努力が裏目に出てしまい、王太子ピエトロに浮気され、浮気相手への嫌がらせを理由に婚約破棄された挙句、変人と名高いクイア公爵のもとへ嫁がされることに。 対面した当主シエルフィリードは馬のかぶりものをして、噂どおりの奇人……と思ったら、馬の下から出てきたのは超絶美少年? でもあなたかなり年上のはずですよね? 年下にしか見えませんが? どうして涙ぐんでるんですか? え、王太子殿下が新婚生活を嘲笑いにきた? 公爵様がかわゆすぎていまそれどころじゃないんですが!! 恋を知らなかった生真面目令嬢がきゅんきゅんしながら引きこもり公爵を育成するお話です。 本編11話+番外編。 ※「小説家になろう」でも掲載しています。

《完》わたしの刺繍が必要?無能は要らないって追い出したのは貴方達でしょう?

桐生桜月姫
恋愛
『無能はいらない』 魔力を持っていないという理由で婚約破棄されて従姉妹に婚約者を取られたアイーシャは、実は特別な力を持っていた!? 大好きな刺繍でわたしを愛してくれる国と国民を守ります。 無能はいらないのでしょう?わたしを捨てた貴方達を救う義理はわたしにはございません!! ******************* 毎朝7時更新です。

婚約破棄を要求されましたが、俺に婚約者はいませんよ?

紅葉ももな(くれはももな)
恋愛
長い外国留学から帰ってきたラオウは、突然婚約破棄を要求されました。 はい?俺に婚約者はいませんけど?  そんな彼が幸せになるまでのお話。

魔力無しの聖女に何の御用ですか?〜義妹達に国を追い出されて婚約者にも見捨てられる戻ってこい?自由気ままな生活が気に入ったので断固拒否します〜

まつおいおり
恋愛
毎日毎日、国のトラブル解決に追われるミレイ・ノーザン、水の魔法を失敗して道を浸水させてしまったのを何とかして欲しいとか、火の魔道具が暴走して火事を消火してほしいとか、このガルシア国はほぼ全ての事柄に魔法や魔道具を使っている、そっちの方が効率的だからだ、しかしだからこそそういった魔力の揉め事が後を絶たない………彼女は八光聖女の一人、退魔の剣の振るい手、この剣はあらゆる魔力を吸収し、霧散させる、………なので義妹達にあらゆる国の魔力トラブル処理を任せられていた、ある日、彼女は八光聖女をクビにされ、さらに婚約者も取られ、トドメに国外追放………あてもなく彷徨う、ひょんなことからハルバートという男に助けられ、何でも屋『ブレーメンズ』に所属、舞い込む依頼、忙しくもやり甲斐のある日々………一方、義妹達はガルシア国の魔力トラブルを処理が上手く出来ず、今更私を連れ戻そうとするが、はいそうですかと聞くわけがない。

【完結】義妹に夢中になった公爵様から可愛げない女はいらぬと婚約破棄されたので女侯爵として領地経営に励みます。義妹がご迷惑おかけしておりますが

綾森れん
恋愛
 コルネリウス侯爵家の令嬢セシリアは、カルヴァート公爵家主催の華やかな舞踏会の最中、婚約者であるマクシミリアン・カルヴァート公爵から婚約破棄を言い渡される。その理由は、性格のきついセシリアが自分の聡明さを鼻にかけて、おっとりとした義妹のティアナをいじめているというものだった。社交の場で度々顔を合わせるうちにマクシミリアン公爵はティアナの愛らしさに夢中になっていたようだ。  セシリアにはティアナをいじめた覚えなど全くなかったが、亡きお父様が元高級娼婦を妾にして産ませたティアナには、母親の出自ゆえか被害妄想なところがあるので、いじめたと誤解されたのかもしれない。  セシリアはマクシミリアンの妻となって彼を支えるため、カルヴァート公国の政治に携われるようたくさん勉強してきたが、婚約を破棄されてしまったものは仕方がない。気持ちを切り替えてコルネリウス家が治める侯爵領の経営に励むこととする。  一方マクシミリアン公爵に嫁いだ妹のティアナは、持ち前のわがままと派手好きな浪費癖を存分に発揮して公爵を困らせているようだ……  この婚約破棄騒動、実はセシリアの母である侯爵夫人と、密かにセシリアを愛していたヴィンセント・デッセル子息の計画だったいう噂も!?

処理中です...