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8 平民出であり、書類上の妹

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 リルファはそう恵まれた生まれではなかったが、そう酷くもない平民だった。母親のドロシーは酒場の給仕だったが、たまたま来た貴族と関係を持ち、その男から金を貰って生活をしていた。勿論その男がリルファの父親だという。たまにやってくる貴族は確かに自分に似ていると思った。

「もう少しで無理やり結婚させられた女は死ぬ。そうしたらドロシー、君を迎え入れたい」

「本当ですか!タティオ様」

「ああ、リルファは私の正式な娘としよう」

 そんな夢物語のような話、リルファはそう思ったが、12歳の時に本当に貴族として迎え入れられた。

「すぐ死ぬと思ったが、思ったより持たせやがった……」

 本当は4年前には……みたいなことを言っていたけれども、とにかくリルファは貴族の仲間入りを果たした。お屋敷には私と同じ年の女の子が一人いて名前はアンゼリカと言うのだと教えられる。

「仲良くする必要はない」

 そう言われたし、向こうもこちらの事を冷たい目で見ていた。向こうは完全な貴族のお嬢様、こっちは平民上がりだ……羨ましい、リルファは強くそう思った。

「羨ましいわ……」

 だから素直にそう言った。リルファの言葉を聞いた父というタティオ公爵はすぐさま手を打つ。自分に従順なリルファと、冷たい目で見下して来るアンゼリカ。どちらが可愛いかなど聞くまでもない。

 アンゼリカとリルファの歳は一緒。と、いうことはアンゼリカの母が妊娠中に、タティオは浮気をしたのだ。そんな父親を何故尊敬できよう?
 貴族としての義務も、領地の経営もすべて放置している男を何故慕わねばならない?
 全てを知っているアンゼリカはタティオを軽蔑すべき人間だと認識していた。しかし、家の体面上「お父様」とは呼んでいる。
 その事に鈍いタティオもなんとなく気づいていてアンゼリカを事あるごとに貶め、代わりにリルファを溺愛する。


 
 いつもの事にアンゼリカはため息もでない。その時の為に淡々と、そして着実に力を蓄えている最中なのだから。

「お嬢様……」

「良いのよ。皆、打ち合わせ通りに。あいつらの世話は適度に手を抜いて良いわ」

「お嬢様がそう言われるのでしたら……」

「私が婚約破棄されると同時に、全員ラグージ家に行きます。これは決定事項ですからね。時期が近くなったら、すぐに移動できるように片付けは頼むわね」

 そんなやり取りがあった事はリルファは知らないし、自分たちが湯水のように使っているお金の出所を考えた事もなかったのである。

 平民の生活しか知らないリルファは貴族には無限にお金があると思っているようだった。

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