上 下
3 / 33

3 使用人は味方、父は敵

しおりを挟む
 私が予定外の帰宅をしたので、執事のフィリッツは慌てて走って来ます。

「お嬢様!如何なさいました!?」

「マルセル殿下に婚約破棄されたわ。次の婚約者はリルファにするようよ」

 フィリッツはほんの少しだけ頬を緩ませて、静かに礼をします。

「分かりました。全て手配致します」

「ええ、頼んだわ。それ以上の事はこれからお父様の返答次第ね」

「委細承知にて」

 私は自らの部屋へ戻ります。私の部屋は物が少ない、と言うより何もない、全部妹のリルファが持っていってしまうからです。

「まあ!素敵な髪飾り。いいな……お姉様は……」

 そして何故か泣くのです。するとお義母様がすっ飛んできて

「私の可愛いリルファ!どうしたの?またアンゼリカさんに……」

「違うの、違うのよ、お母様……私は誰からも何もいただけないのに、お姉様はあんなに素敵な髪飾りを……」

「まあ!可哀想なリルファ!」

 するとお父様がすっ飛んで来ます。息の合っている事。お体には沢山の脂肪がついているのに、こう言う時だけは素早いのよね。

「アンゼリカ!またリルファを虐めたな!髪飾りくらい妹に譲れば良いでは無いか!」

「しかし、お父様。これはマルセル殿下からいただいた……」

「ええい!うるさい!よこせ!」

 そうやって何もかも取り上げるのです。ドレスも靴もネックレスも。ハンカチやしおりに至るまで、全て。
 リボンや挙句の果てにはパジャマまで欲しがるから病気だと思います。あの子は私からものを奪う事が生き甲斐であったようでした。

「もっと……もっと何かあるはず!」

「……この部屋を見たら分かるでしょう?何も無いわ」

 ぶつぶつ言いながら、私の部屋を物色するリルファは気持ち悪い。こうなる事が分かっていたから、お母様の遺品は全部お祖父様の館で管理して頂いています。そして親しい者には

「私に高価な贈り物はしないで下さい。全部妹に奪われますので」

 と、伝え、贈り物は現金か証券、株券で頂いていました。妹は金融関係には疎いし、流石に

「お金をちょうだい!」

 なんてゆすりみたいな事は言わなかった。これ幸いに私はお金を増やし、本当に価値のあるものはお祖父様にお願いし、管理して貰っている。だから私の部屋にあるものは本当に最低限のドレスと程度の低い宝飾品類くらいなのである。
 それなのにリルファはその中からですら、

「まあ、その指輪…私にはそんな素敵な物……」

「(傷だらけの色付き水晶……ルーアン公爵令息が妹に盗られるか実験で、買って寄越した500ゴールドの物ですのに)これは私の友人が……」

(1ゴールド1円程度よ!)

「どうしたの?!リルファ、またアンゼリカさん!」

「アンゼリカ!リルファに譲って上げなさい!」

「お父様!お母様!いいの……良いのです、私にはあのような高価な物をプレゼントして下さる人は誰一人として……」

 泣き真似をしながらお義母様の胸に飛び込んでいくリルファ。毎回の事に飽き飽きなのですが

「まあ、可哀想なリルファ!」

「よしよし、リルファにはお父様が指輪でもドレスでも買って上げよう」

 と、3人仲良く出て行ってくれます。しかもあの指輪をしっかり握りしめて。火事場泥棒より手慣れてません?

「……お嬢様」

「大丈夫よ、リサ」

 お母様がご存命の時からいてくれるメイドのリサが心配そうにこちらを見ていました。

「それよりも、お父様がリルファに買い与えた物のリストの更新をお願いね、然るべき時に使います」

「お任せください、お嬢様」

 さて、私も書類を片付けておかなければ。
 煩い奴らがいなくなったので、次の投資先を見極める作業がありますから。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】妹にハメられて、わたくしは幸せになりました〜婚約破棄断罪劇の裏の裏〜

杜野秋人
恋愛
「血を分けた実の妹に陰でこのような仕打ちをするような者など、私の皇妃として、将来の皇后として相応しいとは言えぬ!よって、今この場においてそなたとの婚約を破棄する!」 先ほどまで楽しげに談笑していたはずの婚約者は、わたくしを睨みつけてそう宣言なさいました。 わたくしは妹を虐めてなどいません。けれど彼女の腕には確かに鞭の跡が。 わたくしではないとするならば、信じたくはありませんがお兄様しかおりません。 であれば、わたくしが罪を被らねば。将来公爵家を継ぐお兄様に瑕疵をつけるわけには参りませんもの。 ええ、そう。わたくしが耐えれば済む話なのです。 ですが悔しさのあまり、涙がこぼれます。 なぜわたくしが、このような目に遭わなければならないのか。 婚約者であるルートヴィヒ皇子はわたくしとの婚約を破棄し、代わって妹と婚約すると宣言なさいました。それを陛下もお認めになって。 ああ、わたくしの人生もここまでですわね。 ですがわたくしへの罰として殿下が宣言なさったのは、辺境伯領へ流罪とし、国の守りたる辺境伯アードルフ様に嫁ぐこと。 えっ、待って? 本当によろしいのですか? それってわたくし的には、むしろご褒美なんですが!? この時、冤罪により断罪されたシャルロッテは知らなかった。 この婚約破棄の裏側で多くの“陰謀”が蠢いていたことを。 それは彼女には予想もつかない、壮大なまでのスケールに発展していて⸺!? ◆拙作『物語は始まらずに終わる』に登場したハインリヒ皇子の弟のルートヴィヒ皇子とその婚約者の物語。『物語は〜』から約3年後の話になります。 ちなみにこのふたりの弟が『わたくしの望みはただひとつ!』の皇弟マインラートです。 ◆テンプレに則った「妹に冤罪をかけられて婚約破棄される物語」ですが、ざまあなしのみんなが幸せになるハッピーエンドの物語です。 ◆書けない病で『熊男爵の押しかけ幼妻』の執筆が滞っているので、リハビリがてらプロットだけ作って放置していた話を仕上げてみました。 どんどん話が長くなりまして、全34話の中編になりました(爆)。8/16完結。 ◆この物語は小説家になろうでも公開します。なろう版は全32話で8/15に完結しました。 カクヨムでも公開しました。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。

バナナマヨネーズ
恋愛
四大公爵家の一つ。アックァーノ公爵家に生まれたイシュミールは双子の妹であるイシュタルに慕われていたが、何故か両親と使用人たちに冷遇されていた。 瓜二つである妹のイシュタルは、それに比べて大切にされていた。 そんなある日、イシュミールは第三王子との婚約が決まった。 その時から、イシュミールの人生は最高の瞬間を経て、最悪な結末へと緩やかに向かうことになった。 そして……。 本編全79話 番外編全34話 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

断罪された商才令嬢は隣国を満喫中

水空 葵
ファンタジー
 伯爵令嬢で王国一の商会の長でもあるルシアナ・アストライアはある日のパーティーで王太子の婚約者──聖女候補を虐めたという冤罪で国外追放を言い渡されてしまう。  そんな王太子と聖女候補はルシアナが絶望感する様子を楽しみにしている様子。  けれども、今いるグレール王国には未来が無いと考えていたルシアナは追放を喜んだ。 「国外追放になって悔しいか?」 「いいえ、感謝していますわ。国外追放に処してくださってありがとうございます!」  悔しがる王太子達とは違って、ルシアナは隣国での商人生活に期待を膨らませていて、隣国を拠点に人々の役に立つ魔道具を作って広めることを決意する。  その一方で、彼女が去った後の王国は破滅へと向かっていて……。  断罪された令嬢が皆から愛され、幸せになるお話。 ※他サイトでも連載中です。  毎日18時頃の更新を予定しています。

目を覚ました気弱な彼女は腹黒令嬢になり復讐する

音爽(ネソウ)
恋愛
家族と婚約者に虐げられてきた伯爵令嬢ジーン・ベンスは日々のストレスが重なり、高熱を出して寝込んだ。彼女は悪夢にうなされ続けた、夢の中でまで冷遇される理不尽さに激怒する。そして、目覚めた時彼女は気弱な自分を払拭して復讐に燃えるのだった。

番だからと攫っておいて、番だと認めないと言われても。

七辻ゆゆ
ファンタジー
特に同情できないので、ルナは手段を選ばず帰国をめざすことにした。

【完結】婚約破棄された公爵令嬢、やることもないので趣味に没頭した結果

バレシエ
恋愛
サンカレア公爵令嬢オリビア・サンカレアは、恋愛小説が好きなごく普通の公爵令嬢である。 そんな彼女は学院の卒業パーティーを友人のリリアナと楽しんでいた。 そこに遅れて登場したのが彼女の婚約者で、王国の第一王子レオンハルト・フォン・グランベルである。 彼のそばにはあろうことか、婚約者のオリビアを差し置いて、王子とイチャイチャする少女がいるではないか! 「今日こそはガツンといってやりますわ!」と、心強いお供を引き連れ王子を詰めるオリビア。 やりこまれてしまいそうになりながらも、優秀な援護射撃を受け、王子をたしなめることに成功したかと思ったのもつかの間、王子は起死回生の一手を打つ! 「オリビア、お前との婚約は今日限りだ! 今、この時をもって婚約を破棄させてもらう!」 「なぁッ!! なんですってぇー!!!」 あまりの出来事に昏倒するオリビア! この事件は王国に大きな波紋を起こすことになるが、徐々に日常が回復するにつれて、オリビアは手持ち無沙汰を感じるようになる。 学園も卒業し、王妃教育も無くなってしまって、やることがなくなってしまったのだ。 そこで唯一の趣味である恋愛小説を読んで時間を潰そうとするが、なにか物足りない。 そして、ふと思いついてしまうのである。 「そうだ! わたくしも小説を書いてみようかしら!」 ここに謎の恋愛小説家オリビア~ンが爆誕した。 彼女の作品は王国全土で人気を博し、次第にオリビアを捨てた王子たちを苦しめていくのであった。  

処理中です...