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59 誠子、襲撃される

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「あ、あんた……あんたみたいなブスに九郎君は似合わないッ!絶対に渡さないんだから!!」

「え、九郎君って誰……あ、クロか」

「ブスのクセに!」

 ブスブス言わなくてもいいじゃないか……。

「だから、話を聞いて欲しい……」

「黙れッ!ブスのくせに!」

 
 私は黙るしかなかった。若い子は怖い!


 何故、私がこの凄くフリフリのついた20台そこそこくらいの女性にファミレスで差し向いに座り、ブスブス言われ続けなくてはいけないのか、よくわからない。仕事が終わり、近くの駅に着いたとき

「アサヒナセイコさんですよね」

 ちょっと暗くて怖い感じのこの子に声を掛けられた。勿論初対面だ。

「猫村九郎さんのことで少しお話したいことがあります。そこのファミレスまで付き合ってもらえませんか?」

 目がちょっと怖かったけれども、ファミレスというし。何か真剣そうだったのでついてきたらコレだった。


 『大福!変な女子に絡まれた!クロの知り合いっぽい!助けて!』

 大福に即LINEを入れられたのは良かった。

 『誠子!?通話にして話を聞かせてくれ、場所は駅のそばのファミレスだな?』

 大福の指示に従う。そしたらコレだ。ブスブス言い続けられている。そして

「九郎君は私にとっても優しくしてくれた!九郎君の為に色々買ったし貢いだわ!だから……だから九郎君は私の、私のなの!あなたみたいな女がそばにいていい人じゃないのよ!消えて頂戴!」

「私に関係ない……」

「うるさいッ!」

 ヒステリックな声が店内に響いて、お客さんやら店員がビクッと振り返った。勿論私も肩を縮めた。うおーいたすけてくれー!

「お、お客様、店内で大声は……」

「うるさいわねッあっちいってよ!店員のクセに!客に従ってればいいのよ!」

 怖い……ついでに常識がないな、この子は。店員さんが私に憐みの目を向けてくる。いざとなったら警察を呼ばないと……。でもクロの関係者ならクロに話をした方がいいのか?

 スマホが低く震えて大福からメッセージが届く。目の前の子に見つからないようにそっと覗き込む。

『クロには連絡したが、職場先から帰るから少し時間がかかると。すまないと謝っていた。私とザジィでそっちに向うから少しだけ耐えてくれ』

 うおーーー心強いぜ!持つべきものは隣人とハムスターの旦那様だな!ザジィ&大福がファミレスにつくまで私は理不尽な文句を受け続けていた。話の内容は特になくて、ただ私とクロが仲が良いのが頭にきた。そんな感じだけだった。

「九郎君と結婚するのは私なんだからーー!」

 あ、そうなんだ。頑張ってね……そんなことを心を無にして聞いていると、やっと助けがやって来た。

「おい、お前なんなの?人の迷惑って言葉知ってる?」

「え」

 テーブルに手をついて冷たく言うザジィ君は、まともな服を着ている。おお、最近のすきっとした若者みたい!汚いヨレヨレの部屋着のTシャツでもないし、適当なスウェットズボンでもないぞ!あとお気に入りの綿入りドテラは脱いできたんだな!

 名前も知らないフリフリドレス?のお嬢さん(?)は声を失った。お忘れかもしれないが、ザジィ君は南国ジャニ系美少年顔なのだ。怖い顔をしても可愛いのだ。

 誠子!誠子!大丈夫か!?

 ザジィ君の上着からぴょこんと大福が飛び出してきて、私のポケットに入って小声で大福が話しかけてきた。

 大福~助かったよ~なんかこの子が、クロの事で話があるからファミレス行こうって言うもんで来てみたらコレだよ。なんだろうね?

 多分……クロの夜の仕事の客じゃないか?ってザジィ君と話していた。買ったとか貢いだとか言っていなかったか?

 いってたー!超言ってたー!

 それだな。


「あ、あの!わ、私……信条美唯といいます……あの、あの!お名前は……?」

 ザジィ君は私の横にどっかり座り

「なんで俺があんたに名前教えなきゃいけないの?」

 おー怒ってる怒ってる!ザジィ君が怒るとなかなか怖いな!しーん、と水を打ったような静けさが店内を支配する。え、あ、皆さん、お気遣いなくお食事などを楽しんでいただければ……!そう思うけれど、気になるんだよね。多分私もこんな現場に居合わせたら気になって耳をそばだてちゃうと思う。当事者にはなりたくなかったがな。

「あの、あなたは、その、ブ」

 ブスと言いかけてザジィ君ににらまれ止まった。

「アサヒナセイコさんとはどんなご関係なんですか……?」

 上目遣いに聞いてくる。今更可愛いふりをしても無駄だと思うよ、フリフリお嬢さん。ん?よく見るとお嬢さんでもなさそうな……あれ?私より年上じゃないか?この人……。
 ギリッとにらむザジィ君だが、多分この顔は困った顔だ。だって私とザジィ君の関係は同じアパートの隣の隣に住んでいる人、それだけだからな!

 弟で。

 小さな大福の声がザジィ君にも届いた。

「誠子は俺のねーちゃんだよ、なんか文句あんのか?」

「似てないわ!」

「母親が違うんだ、似てねえよ。悪いか」

 おっとお!?ここにきて私に弟が出来ました!?そしてとーちゃん、浮気てたんだな、良くないぞ、とーちゃん。勿論これはザジィ君の今適当に作った嘘設定だけれども、もし私のとーちゃんが聞いたら

 誠子~誤解だ~私はそんなこと~ああ~だが、この子は~俺の息子だ~!

 生前のとーちゃんならその嘘にのってきて、冗談を言うであろう場面が容易に想像できて、吹き出しそうになるのを必死でこらえた。

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