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46 座敷童子2
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「そしたらよぉ!本化の奴らが手のひら返しやがんだよ!今まで、クズだニートだデブだ!……や、本当だけど。死ねとか一族の恥だとか言い続けて来た奴がよ!俺に本家に来いって言うんだ!分かるか?本家に来て、トマコさんを何百年も閉じ込めていた座敷牢に俺を入れようとしてんの!」
「げえ……マジか」
もう一杯!出されたコップにじーちゃんは大吟醸を注いでしまう。それを水を飲むかの如くくいーーーっと飲み干して、タァン!と小気味良い音を立てる。
「ちっさい頃からトマコさんを見てる俺も親父も、俺が本家に行ったらどうなるかすぐに分かった。あの狭い和室に閉じ込められて、何百年も本家の為にただ生かされる。飯は日に二度、会える人は使用人がただ一人のみ。用事がある時だけ当主がやってくる!耐えられる訳がないが、あの結界からは逃げ出せない」
「今どきそんな時代錯誤があんのか……」
「田舎の旧家は妖怪より妖怪らしい人間の巣窟だよ」
ザジィ君はははっと乾いた笑いをする。田舎こええ。
「親父とお袋は本家が揉めてる間に俺を逃してくれた。座敷童子が逃げた家がどうなるか分かっててもだ。俺は、自分が情けない!無事だと伝えたくても、本家の目が怖くてメールの一つも送れない!外にも出られない!中学の時から引きこもりの俺を育ててくれた親父とお袋に、なんの恩も返せない!俺は、俺は最低の引きこもりなんだ!うわーーーー!」
なんと、ザジィ君にはそんな事情があったのか。私を含め皆言葉を失った。折角逃してくれたご両親の為、時代錯誤な本家から逃れる為。ザジィ君は部屋から出られなかったのか。
ただの引きこもりじゃなかった、ずっと心のどこかで思ってた。引きこもりなんて、って。違ったんだな。私はザジィ君になんて声を掛ければいいかわからなかったか。
「良く……良く、話してくれましたね、偉かったですよ」
机に突っ伏したザジィ君の頭のほんの少し前に大福がちょこんと立っていた。
「俺は偉くないよ」
「偉いですよ、とても良く頑張っている。最高の子供ですよ」
ザジィ君はがばり!と顔を上げ、目の前の大福を見た。
「俺はいい子か?」
「はい、いい子です」
「俺は親父とお袋に迷惑ばかりかけている」
「迷惑だけなんて、そんな事ありませんよ」
「絶対か?」
「絶対です。それにメールくらいしても大丈夫でしょう?田舎の旧家が電子機器に聡いわけがありませんから」
「そうか……それもそうだな!」
「はい」
「そうか、そうかぁ……」
こてん、ザジィ君の頭は完全に炬燵の天板と一体化し、すぴょすぴょと可愛い寝息が聞こえて来た。寝息まで可愛いとは現在進行形の美少年め!けしからん!
「ほっほ!流石は愚痴聞きじゃの」
すっかり空っぽになってしまった大吟醸の瓶を振りながらじーちゃんは笑った。
「私にはそれしか出来ませんから」
答える大福が少し寂しそうなのが、心に引っかかった。
「げえ……マジか」
もう一杯!出されたコップにじーちゃんは大吟醸を注いでしまう。それを水を飲むかの如くくいーーーっと飲み干して、タァン!と小気味良い音を立てる。
「ちっさい頃からトマコさんを見てる俺も親父も、俺が本家に行ったらどうなるかすぐに分かった。あの狭い和室に閉じ込められて、何百年も本家の為にただ生かされる。飯は日に二度、会える人は使用人がただ一人のみ。用事がある時だけ当主がやってくる!耐えられる訳がないが、あの結界からは逃げ出せない」
「今どきそんな時代錯誤があんのか……」
「田舎の旧家は妖怪より妖怪らしい人間の巣窟だよ」
ザジィ君はははっと乾いた笑いをする。田舎こええ。
「親父とお袋は本家が揉めてる間に俺を逃してくれた。座敷童子が逃げた家がどうなるか分かっててもだ。俺は、自分が情けない!無事だと伝えたくても、本家の目が怖くてメールの一つも送れない!外にも出られない!中学の時から引きこもりの俺を育ててくれた親父とお袋に、なんの恩も返せない!俺は、俺は最低の引きこもりなんだ!うわーーーー!」
なんと、ザジィ君にはそんな事情があったのか。私を含め皆言葉を失った。折角逃してくれたご両親の為、時代錯誤な本家から逃れる為。ザジィ君は部屋から出られなかったのか。
ただの引きこもりじゃなかった、ずっと心のどこかで思ってた。引きこもりなんて、って。違ったんだな。私はザジィ君になんて声を掛ければいいかわからなかったか。
「良く……良く、話してくれましたね、偉かったですよ」
机に突っ伏したザジィ君の頭のほんの少し前に大福がちょこんと立っていた。
「俺は偉くないよ」
「偉いですよ、とても良く頑張っている。最高の子供ですよ」
ザジィ君はがばり!と顔を上げ、目の前の大福を見た。
「俺はいい子か?」
「はい、いい子です」
「俺は親父とお袋に迷惑ばかりかけている」
「迷惑だけなんて、そんな事ありませんよ」
「絶対か?」
「絶対です。それにメールくらいしても大丈夫でしょう?田舎の旧家が電子機器に聡いわけがありませんから」
「そうか……それもそうだな!」
「はい」
「そうか、そうかぁ……」
こてん、ザジィ君の頭は完全に炬燵の天板と一体化し、すぴょすぴょと可愛い寝息が聞こえて来た。寝息まで可愛いとは現在進行形の美少年め!けしからん!
「ほっほ!流石は愚痴聞きじゃの」
すっかり空っぽになってしまった大吟醸の瓶を振りながらじーちゃんは笑った。
「私にはそれしか出来ませんから」
答える大福が少し寂しそうなのが、心に引っかかった。
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