46 / 75
46 座敷童子2
しおりを挟む
「そしたらよぉ!本化の奴らが手のひら返しやがんだよ!今まで、クズだニートだデブだ!……や、本当だけど。死ねとか一族の恥だとか言い続けて来た奴がよ!俺に本家に来いって言うんだ!分かるか?本家に来て、トマコさんを何百年も閉じ込めていた座敷牢に俺を入れようとしてんの!」
「げえ……マジか」
もう一杯!出されたコップにじーちゃんは大吟醸を注いでしまう。それを水を飲むかの如くくいーーーっと飲み干して、タァン!と小気味良い音を立てる。
「ちっさい頃からトマコさんを見てる俺も親父も、俺が本家に行ったらどうなるかすぐに分かった。あの狭い和室に閉じ込められて、何百年も本家の為にただ生かされる。飯は日に二度、会える人は使用人がただ一人のみ。用事がある時だけ当主がやってくる!耐えられる訳がないが、あの結界からは逃げ出せない」
「今どきそんな時代錯誤があんのか……」
「田舎の旧家は妖怪より妖怪らしい人間の巣窟だよ」
ザジィ君はははっと乾いた笑いをする。田舎こええ。
「親父とお袋は本家が揉めてる間に俺を逃してくれた。座敷童子が逃げた家がどうなるか分かっててもだ。俺は、自分が情けない!無事だと伝えたくても、本家の目が怖くてメールの一つも送れない!外にも出られない!中学の時から引きこもりの俺を育ててくれた親父とお袋に、なんの恩も返せない!俺は、俺は最低の引きこもりなんだ!うわーーーー!」
なんと、ザジィ君にはそんな事情があったのか。私を含め皆言葉を失った。折角逃してくれたご両親の為、時代錯誤な本家から逃れる為。ザジィ君は部屋から出られなかったのか。
ただの引きこもりじゃなかった、ずっと心のどこかで思ってた。引きこもりなんて、って。違ったんだな。私はザジィ君になんて声を掛ければいいかわからなかったか。
「良く……良く、話してくれましたね、偉かったですよ」
机に突っ伏したザジィ君の頭のほんの少し前に大福がちょこんと立っていた。
「俺は偉くないよ」
「偉いですよ、とても良く頑張っている。最高の子供ですよ」
ザジィ君はがばり!と顔を上げ、目の前の大福を見た。
「俺はいい子か?」
「はい、いい子です」
「俺は親父とお袋に迷惑ばかりかけている」
「迷惑だけなんて、そんな事ありませんよ」
「絶対か?」
「絶対です。それにメールくらいしても大丈夫でしょう?田舎の旧家が電子機器に聡いわけがありませんから」
「そうか……それもそうだな!」
「はい」
「そうか、そうかぁ……」
こてん、ザジィ君の頭は完全に炬燵の天板と一体化し、すぴょすぴょと可愛い寝息が聞こえて来た。寝息まで可愛いとは現在進行形の美少年め!けしからん!
「ほっほ!流石は愚痴聞きじゃの」
すっかり空っぽになってしまった大吟醸の瓶を振りながらじーちゃんは笑った。
「私にはそれしか出来ませんから」
答える大福が少し寂しそうなのが、心に引っかかった。
「げえ……マジか」
もう一杯!出されたコップにじーちゃんは大吟醸を注いでしまう。それを水を飲むかの如くくいーーーっと飲み干して、タァン!と小気味良い音を立てる。
「ちっさい頃からトマコさんを見てる俺も親父も、俺が本家に行ったらどうなるかすぐに分かった。あの狭い和室に閉じ込められて、何百年も本家の為にただ生かされる。飯は日に二度、会える人は使用人がただ一人のみ。用事がある時だけ当主がやってくる!耐えられる訳がないが、あの結界からは逃げ出せない」
「今どきそんな時代錯誤があんのか……」
「田舎の旧家は妖怪より妖怪らしい人間の巣窟だよ」
ザジィ君はははっと乾いた笑いをする。田舎こええ。
「親父とお袋は本家が揉めてる間に俺を逃してくれた。座敷童子が逃げた家がどうなるか分かっててもだ。俺は、自分が情けない!無事だと伝えたくても、本家の目が怖くてメールの一つも送れない!外にも出られない!中学の時から引きこもりの俺を育ててくれた親父とお袋に、なんの恩も返せない!俺は、俺は最低の引きこもりなんだ!うわーーーー!」
なんと、ザジィ君にはそんな事情があったのか。私を含め皆言葉を失った。折角逃してくれたご両親の為、時代錯誤な本家から逃れる為。ザジィ君は部屋から出られなかったのか。
ただの引きこもりじゃなかった、ずっと心のどこかで思ってた。引きこもりなんて、って。違ったんだな。私はザジィ君になんて声を掛ければいいかわからなかったか。
「良く……良く、話してくれましたね、偉かったですよ」
机に突っ伏したザジィ君の頭のほんの少し前に大福がちょこんと立っていた。
「俺は偉くないよ」
「偉いですよ、とても良く頑張っている。最高の子供ですよ」
ザジィ君はがばり!と顔を上げ、目の前の大福を見た。
「俺はいい子か?」
「はい、いい子です」
「俺は親父とお袋に迷惑ばかりかけている」
「迷惑だけなんて、そんな事ありませんよ」
「絶対か?」
「絶対です。それにメールくらいしても大丈夫でしょう?田舎の旧家が電子機器に聡いわけがありませんから」
「そうか……それもそうだな!」
「はい」
「そうか、そうかぁ……」
こてん、ザジィ君の頭は完全に炬燵の天板と一体化し、すぴょすぴょと可愛い寝息が聞こえて来た。寝息まで可愛いとは現在進行形の美少年め!けしからん!
「ほっほ!流石は愚痴聞きじゃの」
すっかり空っぽになってしまった大吟醸の瓶を振りながらじーちゃんは笑った。
「私にはそれしか出来ませんから」
答える大福が少し寂しそうなのが、心に引っかかった。
1
お気に入りに追加
108
あなたにおすすめの小説
ガダンの寛ぎお食事処
蒼緋 玲
キャラ文芸
**********************************************
とある屋敷の料理人ガダンは、
元魔術師団の魔術師で現在は
使用人として働いている。
日々の生活の中で欠かせない
三大欲求の一つ『食欲』
時には住人の心に寄り添った食事
時には酒と共に彩りある肴を提供
時には美味しさを求めて自ら買い付けへ
時には住人同士のメニュー論争まで
国有数の料理人として名を馳せても過言では
ないくらい(住人談)、元魔術師の料理人が
織り成す美味なる心の籠もったお届けもの。
その先にある安らぎと癒やしのひとときを
ご提供致します。
今日も今日とて
食堂と厨房の間にあるカウンターで
肘をつき住人の食事風景を楽しみながら眺める
ガダンとその住人のちょっとした日常のお話。
**********************************************
【一日5秒を私にください】
からの、ガダンのご飯物語です。
単独で読めますが原作を読んでいただけると、
登場キャラの人となりもわかって
味に深みが出るかもしれません(宣伝)
外部サイトにも投稿しています。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
月宮殿の王弟殿下は怪奇話がお好き
星来香文子
キャラ文芸
【あらすじ】
煌神国(こうじんこく)の貧しい少年・慧臣(えじん)は借金返済のために女と間違えられて売られてしまう。
宦官にされそうになっていたところを、女と見間違うほど美しい少年がいると噂を聞きつけた超絶美形の王弟・令月(れいげつ)に拾われ、慧臣は男として大事な部分を失わずに済む。
令月の従者として働くことになったものの、令月は怪奇話や呪具、謎の物体を集める変人だった。
見えない王弟殿下と見えちゃう従者の中華風×和風×ファンタジー×ライトホラー
式鬼のはくは格下を蹴散らす
森羅秋
キャラ文芸
時は現代日本。生活の中に妖怪やあやかしや妖魔が蔓延り人々を影から脅かしていた。
陰陽師の末裔『鷹尾』は、鬼の末裔『魄』を従え、妖魔を倒す生業をしている。
とある日、鷹尾は分家であり従妹の雪絵から決闘を申し込まれた。
勝者が本家となり式鬼を得るための決闘、すなわち下剋上である。
この度は陰陽師ではなく式鬼の決闘にしようと提案され、鷹尾は承諾した。
分家の下剋上を阻止するため、魄は決闘に挑むことになる。
宮廷の九訳士と後宮の生華
狭間夕
キャラ文芸
宮廷の通訳士である英明(インミン)は、文字を扱う仕事をしていることから「暗号の解読」を頼まれることもある。ある日、後宮入りした若い妃に充てられてた手紙が謎の文字で書かれていたことから、これは恋文ではないかと噂になった。真相は単純で、兄が妹に充てただけの悪意のない内容だったが、これをきっかけに静月(ジンユェ)という若い妃のことを知る。通訳士と、後宮の妃。立場は違えど、後宮に生きる華として、二人は陰謀の渦に巻き込まれることになって――
花よめ物語
小柴
キャラ文芸
名高い騎士とおくびょうな少女の恋物語。アーサー王伝説を下地にしました。少女のもとに、ある騎士の一通の求婚状が届いたことから物語がはじまります──。
✳︎毎週土曜日更新・5話完結✳︎
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる