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護るべきもの

36 の う き ん 

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 ついでに足の鎖も、カチリ、小さな音一つで外れる。鎖の音が鳴らないように慎重に取り扱う。

 私は元々アサシンである。盗賊の技能も修めてあるので、罠抜けは楽な仕事だ。ベッドのシーツを音を立てずに破ってロープ状に。長さは全く足りないだろうが、少しでも地上が近くなればいい。
 
 扉の外からマリーの足音が遠ざかる。
兵士が2名。怠そうに眠そうに立っている。そりゃ昨日までは目も覚ましていなかったし、今日目覚めたばかりで足元もふらふらしている。 
 何も出来るはずがない。当たり前だ。

 こっちだって手をあげるのさえ辛い。だが、明日までなど耐え切れるものか!もうあのクソ王子の顔は見たくない!

 準備は夜半過ぎまでかかったが、丁度時間だろう。さっさと脱出だ。

 椅子を持って扉の側、下の方にしゃがみ込む。伸ばしたシーツを引っ張って、鎖の音を立てる。

がしゃん!

「なんだ?何かあったか?」

ガチャガチャと、とびらの鍵を回す音がして、光が差し込む。
 兵士は間違いなくベッドを最初に確認する。だからしゃがみ込み、死角に入る。
足の親指をたてて、勢い良く喉を蹴り上げれば、ひゅっ!と音がして、声が詰まる。

「おい、どう…し…!」

 倒れ込む1人目の体の下から、素早く出て、もう1人の首を締める。すぐに落ちた。最初の兵士も締め落とす。
 2人の男を扉の中に引き込んで、扉をしめた。

 廊下は静かだ。

 片方から、ズボンをちょうだいする。何せ足が鎖で繋がれていたので下は履いてなかったのだ。スースーする。

「さて…」

 あまり力は入らないが、手をプラプラさせて窓に近づく。


「脳筋の筋力舐めんなよ…!」

 私はぐっと力を入れて、鉄格子を引っ張った。

「ぐ、ぬぬぬぬっ!」

 1週間使われていなかった体は鈍りまくっているが、ここでただおもちゃにされるのは趣味じゃない。

 精神を統一すれば…こんな鉄格子の一つや、ふたぁーつ!

「ふぅんっ!」

 バキ、バキバキバキっ!と音を立てて鉄格子は窓に止まっている留め具の方から壊れた。
 鉄格子自体は壊れないが、壁との留め具はそこまで耐えきれなかったようだ。

やったぜ、みたか、これが脳筋の力!

 置きっぱなしになっていた小さな椅子を壊し、椅子の足を持っていく。うん、人を殴るのにちょうど良さそうだ。

 さて、兵士たちはそのまま放って窓から大して長くないシーツを垂らす。仕事は雑だが、どうせすぐバレるのだから問題ない。
 するりと降りて、足りない分は飛ぶ。かなりの高さがあったが、怪我もなく着地は出来た。
 万全ならこの倍あっても平気なのだが、今はこれが精一杯。ぜいぜいと肩で息をしながら、以前入れられた牢へ進む。

 以前と同じ場所に兵士はいた。しかも牢の奥からどでかいいびきが聞こえてくる。

うん 

 躊躇いなく、ひゅっと飛び出して、力一杯、見張りの兵を殴る。見知った顔じゃなかった。良かった。

「エイミー!エイミー・セルブ‼︎」

 返事はない、爆睡中のようだ。

「エイミー、すごいいい男がいるぞ!」

「どこだ!」

 おはようオウガ。

「私、私」

「お前はアタシの趣味じゃない。すまんな!」

 オウガに振られた。

「出るぞ。大門は真っ直ぐ前。後は好きにしたら良い」

 兵士から奪った鍵束でエイミーの牢の鍵を開ける。

「アタシの部下は?」

「この奥にいるんじゃないのか?いる分は連れていくんだろう?」

 奥に進むとエイミーの部下達が何人かづつ閉じ込められている。順番に解放する。

「アタシの獲物は?」

「流石にみてないな」

「そうか…まあ、なんとかなるか!」

 君なら丸太でも戦えるよ。

「さて、私の出来ることはここまでだ。せいぜい暴れてくれよ」

「なるほど、その隙にお前は闇に紛れて逃げるのか?」

「そうさせてもらう」

「ここの王子に気に入られて、嫁にされそうなんだってな!」

 ここまで聞こえてるのか…頭が痛い。

「君を推薦しておいたよ」

「断るよ!あいつも趣味じゃない!」

 振られましたよ!クソ王子も!

 まあ、任せておけ!オウガは私の肩をポンと叩いた。

「くだらない罠にアタシを嵌めやがって…イライラがたまってんだ!おめーら行くぞ!城を燃やしてやるよ!」

「おう…姉さん、やったろうぜ!」

 ふぅー!すごいー!

 オウガはその辺の柱をバキっと折って、担いで行った。お城壊れちゃうかもな。ざまーみろだ!



 『オウガ』エイミー・セルブの大活躍により、帝都は混乱の渦に巻き込まれ、王城の一部は文字通り、破壊されて傾いた。

 ロウエル、傾けたよ!物理的にだけど!



 そして リィンと言う人物は姿を消した。

 






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