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護るべきもの

28 愛の救急箱

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 アルト王率いるキューブワースとファディアン連合軍は、最大にみなぎっている。
 ここまで敗走なし、次々と砦や街を落とし、帝都に迫る勢いだ。

 騎士王アルト 紅蓮の獅子皇カティス。青の狂狼コーディ。シターンの『赤竜』が『宵闇の聖女』を伴って参戦したという。

 負けるはずはない。いかに帝国の兵士の数が多かろうと、破竹の勢いは誰にも止められない。

 嫌な流れだ。あまり大きくない下町を持った城が今の仮拠点。
 帝都はまだ見えないが、この街の外には広い草原がある。騎兵たちの戦場になるだろう。

 攻め手も守り手も、馬止めの防護柵を急いで作らせている。

 そして、戦争で功を立てたい冒険者、食い詰め者、裏切り者、有象無象がアルトにすり寄る。
 そろそろただの冒険者は居なくても良いだろう?ただの冒険者以上の何かをやってしまった気はするが。

「嫌な空だな」

 数日前から、曇りが続いている。いつ雨が降ってもおかしくない。雨の戦闘は避けたいが、時間をおけば置くほど守り側に有利になる。

 土地勘も我々にはない。

 天気の回復を待って攻めたかったが、もう待てない。

「アルト陛下、限界でしょう。軍議をひらいてください」

「分かった…リィンはでてくれる?」

「ただの冒険者には荷が重いかと」

 隅っこでコー君と遊んでてくれれば良いんだけどねぇ、と冗談とも本気とも取れない呟きを残して、会議室に向かった。

 多分、軍議は長引かない。良くも悪くもアルトのカリスマは高い。アルトの言葉が会議の決定だ。
 ついでに脳筋だ。何か考えたって、大していい考えは浮かんで来ない。

案の定 明日仕掛ける だった。



「リンパパ!」

 暴走超特急2号小型聖女型が飛んで来た。ティーフェ、自分の嫁を投げ飛ばすのは良くないです。

「頼む。手合わせしてくる」

「やり過ぎないでくださいよ」

 少し笑ってティーフェは足音を響かせて行った。

「えへへー」

「甘えてるんですか?」

「そーなのです!」

 私達は、食堂に寄ってケーキとお茶をもらいこの仮拠点で1番日当たりの良い休憩所にやってきた。
 空は曇っているので日差しはないのだけれど、居心地は悪くない。

「リンパパ、チョコケーキだ。」

「わがままを言って作って貰ったんだ」

 手ずからお茶を入れる。明日の開戦が決まったので、みな忙しく準備をはじめたからだ。
 私達はのんびりしているが、いつまでもこうしてはいられない。

「不安があるんでしょう?リュリュ」

 ぎゅっと眉毛を寄せて、リュリュは顔を上げる。とてもわかりやすいいい子だ。

「ティーフェの事を嫌いになった?」

「違う!大好き!」

 そう、良かった。私はゆっくりお茶を飲む。安物で風味も悪く、茶器も良くない。

「ティーフェの枷になっていると思ってる。ティーフェの負担になると思ってる。リュリュがいるとティーフェが思いっきり戦えない、そう思ってる」

「ぱぱぁ…!」

 深い青い瞳からポロポロと涙を零した。

「最初から言ったよね?そうなるって」

「言われたぁー覚えてるぅーうわああん!」

ポロポロポロポロ、止まらない。

「ティーフェはなんて言ってる?」

「それでいいって、何も問題ないって!リュリュといたいって言ってる」

「ティーフェの事を信じられないの?」

「信じてるけど!ここら辺がもやもやして悲しくなるの!」

 くしゃりと胸の辺りを握って、涙を零す。

「リュリュ、それで良いんです。あなたはティーフェにつけた救急箱なんですよ」

「リュリュは、ティーフェの救急箱なの?」

 そうです。このケーキはあまり美味しくないな。

「ティーフェは強い。でもティーフェは壊れている。普通に暮らせない。ティーフェには痛覚がほぼない」

「痛覚がない?そういえばティーフェ、あんまり痛がったこと、ない」

「ティーフェが生きて来れたのはシターンに聖女が2人も居たからです。そして今、旅ができるのはリュリュ、君がいるからですよ」

「リンパパ…それ、ほんと?」

 ぐずっと鼻をすすってリュリュは聞いてくる。阿呆ティーめ、何故教えていない。大事なことだから早目に言えと念を押したのに!

「痛覚がないと言うことは怪我をして、血を流しても気付かない。放っておけば死んでしまう」

「そういえば、血がぴゅーって出たのをぼーっとみてたことあった」

「今ティーフェが生きているのは全部リュリュのおかげなんですよ」

 涙はもう引っ込んだ。頬に赤みが差してきて、瞳がキラキラし始める。

「リュリュの…おかげで、ティーは生きてる?」

「そう」
 
「ティーはリュリュと離れたら死んじゃう?」

「3日は保たないでしょうね」

「ティーは…救急箱だからリュリュが大事?」

「ティーフェとリュリュは好き合っているように見えましたが、違いました?」

「違わない!リュリュはティーが大好き!頭にペンが刺さってもぼーっとしてる所とか!オレンジの皮を向いててブラッドオレンジ作っちゃう所とか!」

 こいつぁ重症だ。

「じゃ、じゃあパパ…リュリュはティーと離れなくて良いのかな?」

「ティーフェを殺したいなら今すぐお別れした方がいいですよ」

「やだー!ティーは死なないーー!」

「リュリュの気持ち一つです」

 リュリュはテーブルにあったチョコケーキにブスリとフォークを突き刺した。そして一口にむっしゃぁ!と口に入れ、お茶で飲み下す。

「私、ティーの所に行ってきます!」

「はい、それが良いでしょう」

 聖女超特急は発進した。リュリュが幸せで良かった。彼女は押しかけでも私の娘なのだから。
 娘婿に思う所もあるが、好きなんだから、しょうがないってやつでしょう。

 さあ、食器を返しに行かなくては。







 

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