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召しませ★ダーリン

11 病の行方

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 私に朝はない。ついでに言うと靴もない。

 目が覚めたら、カティスがいる時もあるし、居ない時もある。
 あの日から、歩いた歩数は片手で足りる気がする。

 朝でなくても起きた時、側にいなければすぐに呼ぶことを約束させられている。

「そうでなければ始終人をつける」

「始終とは?」

「起きている時はもちろん、寝ている時も」

「寝ている時も」

「ヤってる時も」

「勘弁してください」

 深々と頭を下げて、全面降伏した。

 その日、目を覚ますとカティスは居なかった。仕方なく、手を伸ばせば届く位置にある鈴をチリンと鳴らした。

「おはようございます」

 部屋付きの鉄壁能面メイドが現れる。もう1人いるメイドは、カティスに伝えに行ったのだろう。扉が開いて、閉じる音が聞こえた。

「何かある?」

「ございません」

「服はある?」 

「ごさいません」

「そう」

 会話はいつも短い。そうしないと、腹ぺこライオンがやってきて、頭からバリバリ食べられてしまうのだ。

 この能面メイド係は3人目だ。余りに暇だったので、ベッドから降りて歩こうとしたら、1人目はクビになった。
 では動かずに話だけならと思ったら、2人目もクビになった。

 誠心誠意ご奉仕して、命ばかりはお助け願った。発情ライオンめ、ばーかばーか。

「リィン」

 もう来た。

「おはよう、私のクソ陛下」

「塞いで欲しい口はこれだったか?」

「…ん…っ!」

 後頭部を押さえつけられ、逃げ場を無くされてから、深い口づけを落とされる。入ってくる舌を丁寧に迎えて、鼻にかかった息を漏らす。

 どこもここも、すっかりこいつ好みに調教されてるのが悔しい。そしてキスの1つでスイッチが入るのも恨めしい。
 カティスの首に腕を絡ませる。私を抱き上げて風呂に行くのが日課になっている。

 こいつがそうしたいなら付き合うしかない。

 風呂場でサカってからやっと服が貰えた。今日はファディアン軍軍服風だな。ちなみに靴はない。
 軍服風なのにブーツがないのはしまらないでないか。

 信じられないが片腕で私を抱き上げて、カティスは執務室へ向かう。私だって普通の成人男子ほどの体重はあるが、カティスは軽いと言う。バカ筋肉め。

 膝の上に座らされて、ぼんやりと過ごす。カティスが処理している書類はあまり見ないようにする。他国者に見られるのは都合が悪いものもあるだろう。

 本当に重要なものは回っては来ていないようだが、私も知りたくない。知ってしまって面倒になることに首は突っ込みたくないからね。

 周りの部下たちの疲労は濃い。カティスが私との時間を取るから、その分のしわ寄せが来ているのだろう。

 でも私にはどうしようも無い。私の意見は何も聞いて貰えないからね。ついでに哀れみの視線を投げるのも極力禁止だ。

「何をみている?」

「…壁かな…」

 酷い話だ。

「開戦が決まった」

「そう…」

 色々聞きたいことはあるが、どこで地雷を踏むか分からないので、言葉は選ぼう。

「アルトとは組む事になったぞ」

「そう…」

「良く、あの狂犬が飲んだなと感心したぞ」

「そう…か…?」

 あの時来たのはやっぱりアルトとコーディだったんだ。1番効率の良いやり方だったかもしれない。
 私はそれを最善と判断した。でもそれはファディアンにとって最善ではなかったはずだ。

 あの時、アルトとコーディが本気でカティスを殺しに来たら?

 私はカティスを危険に晒した。許されない罪人になる。

「どうだ、俺は最高の夫だろう?」

 心の内を読むような、底意地の悪い顔で笑う。さあ、褒めろ!俺を褒め称えろと。

「ああ、そうだな」

 金茶の瞳は美しい。なぜその瞳に私を写そうとするのか。こんなに後ろ暗くて、国に毒と病しかもたらさない面倒な存在を、愛しいと言って抱きしめるのか。

本当に馬鹿だな…。


 帝国との戦のために、出陣する日の前日にリィン・ファランはカティスの腕の中から消えた。





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