上 下
109 / 121

110 わかりみだよ、分かりみ

しおりを挟む
「やあ!私の名前はリキュシュ。みんなリュキって呼ぶよ」
「私はマシェッツ。マシェだ。君のことはヴィシュで良いかな?」
「ひい!」

 拙者達はヴィシュル王の私室に乗り込んでいた。これには訳がある。

「せっかく暗雲が去ったのに新王がアレでは」
「全王も愚王であったが、その上がいたとは」
「何をするにもなにも決まらぬ!早くアレを何とかしてくれ! 」

「と、父上に泣きつかれまして」
「私もです」

 ヴィシュル王の決断力のなさに仕方がなく王都に残ったオル団長の父上とレイ殿の父上はほとほと困り果てているのだそうだ。
 まず、なにをするにもびくびく、おどおど。人と話をするにもボソボソと声が小さく何を言っているのか聞き取れない。気がつくと、その場から消えていて、部屋に閉じこもっている。
 部屋から会議へ引き摺り出して来るのも一苦労。急いで復興策を練らねばならないのに、何も決まらないんだそう。

 なのでマシェと二人で鼻息を荒くしたのだ。

「旦那様が困ってるならば助けてあげるのがイケてる伴侶の勤めだろう、な!マシェ」
「ござるござる!そうでござるよ!兄者ぁ!」

 と、いう訳で我らは両手いっぱいに荷物を持って凸したのだ!!

 それもあるんだが……ヴィシュル王の噂は、死んでこの世界に来る前の我らそっくりで放っておけなかった。

「我らは二人だった。だから焦りや苛立ちはあっても孤独はそれなりに軽減されていた。しかしヴィシュル王は一人だ」
「一人は辛い。兄者に知り合う前は辛かった……」
「分かりみが深い」

 だから、我らはお節介を焼きに来たのだ。


「では絨毯を引きます!」
「応!」
「靴を脱いで上がってくだされ!さあ、ピザとコーラでござる!やはり自宅に集まった時はこれでござろう!」
「ござるござる!この為にピザ窯を作ったでござる!伸びるチーズも作ったでござるよーーー!」
「ひ」

 「ひ」と「ひい」しか言わないヴィシュル王だったけれど、絨毯の上に座らせて、コーラの入ったコップと熱々のピザを目の前に置くと興味は示した。

「チーズが伸びるうちに食べるでござる」
「冷めたらガッカリでござるよー」

 マシェと二人で手掴みで食べるところを見せると、恐る恐る手を伸ばし口に運んだ。

「熱い」
「冷めると不味いでござる」
「……おいしぃ」
「やけどする前にコーラでござる。これが技でござるよ」
「……わざ」
「うむ」

 そうしてだらだらと食べながら、お話を始めた。

「ヴィシュ殿の趣味はなんでござるか?」
「実は、錠前を……」

 消え入りそうな声。自分の趣味を披露して失望される瞬間、恐ろしくて恐ろしくて泣きたくなるあれだ。

「あっ!わかるー!やはりガチャっていう瞬間で?」
「それとも形状でござろうか?!」
「あ、あの……ピッタリはまる瞬間が」

「「わかりみぃ~~~!」」 

 話の腰を折らぬよう、話を奪わぬよう、ヴィシュ殿の語りを傾聴する。

「そして、その時!無くしていたと思っていた鍵が合って開いたんですござるよ!」
「アツいー!激アツでござるーー! 」
「それはテンション上がるでごさるな!!」
「そうでござろう!そうでござろう!!」

 ヴィシュ殿の話は中々に面白く、我々は酒もないのに明け方まで盛り上がり、そのまま絨毯の上でごろ寝してしまった。

「うにゃ……」
「リュキ、迎えにきましたよ」
「わぁい~レイどのぉ、抱っこ~」
「もちろんですよ」

「マシェ、私です」
「オル殿ぉ、何だか寒いですぅあっためてぇ」
「では一緒に寝ましょうね」
「わぁい」

 ヴィシュ殿はお付きの侍従殿がベッドに入れてくれた。

 我々はとても仲良くなれたと思う。



 




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

専属【ガイド】になりませんか?!〜異世界で溺愛されました

sora
BL
会社員の佐久間 秋都(さくま あきと)は、気がつくと異世界憑依転生していた。名前はアルフィ。その世界には【エスパー】という能力を持った者たちが魔物と戦い、世界を守っていた。エスパーを癒し助けるのが【ガイド】。アルフィにもガイド能力が…!?

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

【完結】魔力至上主義の異世界に転生した魔力なしの俺は、依存系最強魔法使いに溺愛される

秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)
BL
【概要】 哀れな魔力なし転生少年が可愛くて手中に収めたい、魔法階級社会の頂点に君臨する霊体最強魔法使い(ズレてるが良識持ち) VS 加虐本能を持つ魔法使いに飼われるのが怖いので、さっさと自立したい人間不信魔力なし転生少年 \ファイ!/ ■作品傾向:両片思い&ハピエン確約のすれ違い(たまにイチャイチャ) ■性癖:異世界ファンタジー×身分差×魔法契約 力の差に怯えながらも、不器用ながらも優しい攻めに受けが絆されていく異世界BLです。 【詳しいあらすじ】 魔法至上主義の世界で、魔法が使えない転生少年オルディールに価値はない。 優秀な魔法使いである弟に売られかけたオルディールは逃げ出すも、そこは魔法の為に人の姿を捨てた者が徘徊する王国だった。 オルディールは偶然出会った最強魔法使いスヴィーレネスに救われるが、今度は彼に攫われた上に監禁されてしまう。 しかし彼は諦めておらず、スヴィーレネスの元で魔法を覚えて逃走することを決意していた。

処理中です...