43 / 121
43 ヤヴァイものらしい
しおりを挟む
早く帰りたい一心で私はオルフェ団長に目配せをする。団長もこくりと頷いてくれた。ここに来るのにリュキとマシェから預かってきたものがあるのだ。
「なんか言われた時のために袖の下を用意しておきました……というかなんか拙者達、ヤヴァイものを作ってしまったようでござって……」
「ヤヴァイものってなんですか?」
二人が顔を見合わせながらござるござる言っていたので、相当ヤヴァかったらしい。ヤヴァイとは多分とても素晴らしい効果があることなんだろうな。
「これなんでござるが」
手渡されたのは両手の中にすっぽり入って隠れてしまうほど小さな小瓶だった。とても可愛らしく若い女性が好みそうな布で封をされ、小花までついている本当に可愛らしくて小さな瓶。中身は紫のとろりとした物が入っている。
「何か面倒があったら王妃様にこっそりお渡しくだされ、きっとなんとかなりまする」
「マジでどうしましょうぞ……兄者ぁ」
「うーん……本当にどうしようでござるなあ」
とにかくこれを渡してさっさと帰りたいのだ。駄々をこねるしかしない王とその王に文句を言う王妃をもう見ていたくない。
「王妃殿下。双子王子よりお預かりしてきたものがあります。お渡ししても宜しいでしょうか?」
「まあっなにかしら!?新しい美容クリームかしら??」
王妃は美容のことになるととてもうるさく敏感だから……きっとこれもそういう類のものなのだろう。
「一応確認しても?」
「もちろんでございます、宰相様」
宰相様を含め、我々男性が持つには少し可愛らしすぎる小瓶を恭しく差し出した。
「失礼して開けてみますね」
当然だ。中身を確認するのは当たり前だ。宰相様が可愛い蓋を外す……ふわりと花の香りと甘い香りが辺りに広がった。これは嗅いだことがある……ああ、ライルとリックの結婚式の花の匂いだ。これは……あの時の花びらを煮て作ったジャムか。そういえば花びらを大量に集めてジャムを作ると厨房でワイワイやっていたなあと思い出した。
「なんて……いい香り……!」
「空間が清浄化されたような……?」
そう言われてみればなんだか空気が澄んでいる気がする。かび臭い城の部屋がとても快適な空間に変わった。
「危険ではなさそうですね。これは何でしょう」
「花びらのジャムだと思います」
何の花かはあえて伝える必要はないだろう。花びらのジャムと聞いて宰相様は納得されたようだ。ジャムならば甘い匂いもするし、花びらが材料ならば花の匂いがして当然だ。
「なるほど、これは女性が好みそうですね。双子王子は女性の心を掴むのがお上手だ……あんなに苦手なのに」
「苦手だから克服しようと頑張っているようなのです」
克服しなくてもいいのにな、なんて少しだけ思ったことは内緒にしておこうと思う。
「まあ!素敵な香りね。ほんの少ししか入ってないけれど素敵だわ。ジャムね、パンに一塗りしたらもうなくなってしまいそうよ?本当にこれだけ?」
「ええ、それだけです」
「そう……」
ケチね、そう呟いたように聞こえたけれど聞かなかった事にした。
「……本当にうっとりするくらい良い匂い。ジャム、ね?ちょっと失礼」
王妃様は侍女を伴ってそそくさと消えて行った。どんな味がするか試してみたくて仕方がないと言ったところだろうか。
「王妃殿下も戻られましたし、双子王子もお元気だと言うことで今日の報告会はこれまでに致しましょう」
「はっ!」
私と団長は勢いよく頭を下げる。
「して、スカーレットはいつ帰国するのだ?宰相よ」
「さあ?まだではないでしょうか?帰りたいとの書状も来ておりませんし」
私は知っている。実は毎日スカーレット王女から手紙が届いている事を。そしてそれは宰相府のみならず全ての場所で丁重に炎の中に破り捨てられ始末されていることを。
「きっと自由を満喫されておるのでしょう」
「そうかのう、わしは寂しい。早く帰って来て欲しいのう」
宰相様すらそれに返事をしなかった。我々も失礼にならない程度の速度で部屋から出て、大股で廊下を歩き抜ける。
「嫌な予感がします。早く城を出ましょう」
「ええ、それが良いでしょうね」
私達は全速力で厩へゆき、愛馬に飛び乗り尻に鞭を入れる。
「エボニー、マシェの所に帰るぞ」
「ゴルディもリュキが待ってますよ」
2頭は待ってました!と言わんばかりに嘶き、急足で王城から脱出した。間一髪、我々が城を出るとともに王妃殿下の叫び声が上がったらしい。
「な、な、な、にこれっ!美味しい!美味しすぎる!しかも、つるつる、艶々?!あーー!うそっ!もうないなんて!もっと、もっとちょうだい!!」
女神がご下賜くださった花を煮詰めたジャムなど食したらそうならざるを得ない、といった所なのだろうか?
「なんか言われた時のために袖の下を用意しておきました……というかなんか拙者達、ヤヴァイものを作ってしまったようでござって……」
「ヤヴァイものってなんですか?」
二人が顔を見合わせながらござるござる言っていたので、相当ヤヴァかったらしい。ヤヴァイとは多分とても素晴らしい効果があることなんだろうな。
「これなんでござるが」
手渡されたのは両手の中にすっぽり入って隠れてしまうほど小さな小瓶だった。とても可愛らしく若い女性が好みそうな布で封をされ、小花までついている本当に可愛らしくて小さな瓶。中身は紫のとろりとした物が入っている。
「何か面倒があったら王妃様にこっそりお渡しくだされ、きっとなんとかなりまする」
「マジでどうしましょうぞ……兄者ぁ」
「うーん……本当にどうしようでござるなあ」
とにかくこれを渡してさっさと帰りたいのだ。駄々をこねるしかしない王とその王に文句を言う王妃をもう見ていたくない。
「王妃殿下。双子王子よりお預かりしてきたものがあります。お渡ししても宜しいでしょうか?」
「まあっなにかしら!?新しい美容クリームかしら??」
王妃は美容のことになるととてもうるさく敏感だから……きっとこれもそういう類のものなのだろう。
「一応確認しても?」
「もちろんでございます、宰相様」
宰相様を含め、我々男性が持つには少し可愛らしすぎる小瓶を恭しく差し出した。
「失礼して開けてみますね」
当然だ。中身を確認するのは当たり前だ。宰相様が可愛い蓋を外す……ふわりと花の香りと甘い香りが辺りに広がった。これは嗅いだことがある……ああ、ライルとリックの結婚式の花の匂いだ。これは……あの時の花びらを煮て作ったジャムか。そういえば花びらを大量に集めてジャムを作ると厨房でワイワイやっていたなあと思い出した。
「なんて……いい香り……!」
「空間が清浄化されたような……?」
そう言われてみればなんだか空気が澄んでいる気がする。かび臭い城の部屋がとても快適な空間に変わった。
「危険ではなさそうですね。これは何でしょう」
「花びらのジャムだと思います」
何の花かはあえて伝える必要はないだろう。花びらのジャムと聞いて宰相様は納得されたようだ。ジャムならば甘い匂いもするし、花びらが材料ならば花の匂いがして当然だ。
「なるほど、これは女性が好みそうですね。双子王子は女性の心を掴むのがお上手だ……あんなに苦手なのに」
「苦手だから克服しようと頑張っているようなのです」
克服しなくてもいいのにな、なんて少しだけ思ったことは内緒にしておこうと思う。
「まあ!素敵な香りね。ほんの少ししか入ってないけれど素敵だわ。ジャムね、パンに一塗りしたらもうなくなってしまいそうよ?本当にこれだけ?」
「ええ、それだけです」
「そう……」
ケチね、そう呟いたように聞こえたけれど聞かなかった事にした。
「……本当にうっとりするくらい良い匂い。ジャム、ね?ちょっと失礼」
王妃様は侍女を伴ってそそくさと消えて行った。どんな味がするか試してみたくて仕方がないと言ったところだろうか。
「王妃殿下も戻られましたし、双子王子もお元気だと言うことで今日の報告会はこれまでに致しましょう」
「はっ!」
私と団長は勢いよく頭を下げる。
「して、スカーレットはいつ帰国するのだ?宰相よ」
「さあ?まだではないでしょうか?帰りたいとの書状も来ておりませんし」
私は知っている。実は毎日スカーレット王女から手紙が届いている事を。そしてそれは宰相府のみならず全ての場所で丁重に炎の中に破り捨てられ始末されていることを。
「きっと自由を満喫されておるのでしょう」
「そうかのう、わしは寂しい。早く帰って来て欲しいのう」
宰相様すらそれに返事をしなかった。我々も失礼にならない程度の速度で部屋から出て、大股で廊下を歩き抜ける。
「嫌な予感がします。早く城を出ましょう」
「ええ、それが良いでしょうね」
私達は全速力で厩へゆき、愛馬に飛び乗り尻に鞭を入れる。
「エボニー、マシェの所に帰るぞ」
「ゴルディもリュキが待ってますよ」
2頭は待ってました!と言わんばかりに嘶き、急足で王城から脱出した。間一髪、我々が城を出るとともに王妃殿下の叫び声が上がったらしい。
「な、な、な、にこれっ!美味しい!美味しすぎる!しかも、つるつる、艶々?!あーー!うそっ!もうないなんて!もっと、もっとちょうだい!!」
女神がご下賜くださった花を煮詰めたジャムなど食したらそうならざるを得ない、といった所なのだろうか?
16
お気に入りに追加
1,023
あなたにおすすめの小説
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
専属【ガイド】になりませんか?!〜異世界で溺愛されました
sora
BL
会社員の佐久間 秋都(さくま あきと)は、気がつくと異世界憑依転生していた。名前はアルフィ。その世界には【エスパー】という能力を持った者たちが魔物と戦い、世界を守っていた。エスパーを癒し助けるのが【ガイド】。アルフィにもガイド能力が…!?
【完結】魔力至上主義の異世界に転生した魔力なしの俺は、依存系最強魔法使いに溺愛される
秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)
BL
【概要】
哀れな魔力なし転生少年が可愛くて手中に収めたい、魔法階級社会の頂点に君臨する霊体最強魔法使い(ズレてるが良識持ち) VS 加虐本能を持つ魔法使いに飼われるのが怖いので、さっさと自立したい人間不信魔力なし転生少年
\ファイ!/
■作品傾向:両片思い&ハピエン確約のすれ違い(たまにイチャイチャ)
■性癖:異世界ファンタジー×身分差×魔法契約
力の差に怯えながらも、不器用ながらも優しい攻めに受けが絆されていく異世界BLです。
【詳しいあらすじ】
魔法至上主義の世界で、魔法が使えない転生少年オルディールに価値はない。
優秀な魔法使いである弟に売られかけたオルディールは逃げ出すも、そこは魔法の為に人の姿を捨てた者が徘徊する王国だった。
オルディールは偶然出会った最強魔法使いスヴィーレネスに救われるが、今度は彼に攫われた上に監禁されてしまう。
しかし彼は諦めておらず、スヴィーレネスの元で魔法を覚えて逃走することを決意していた。
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる