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番外編

それに名前をつけたなら

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 この話はラムがまだ皇帝で、ディエスと王宮に住んでいる頃になります( ´ ▽ ` )

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 俺が王宮の中に作って貰った物がある。所謂コンビニとカフェだ。高貴な人が多い区画にはちょっとお高いケーキと軽食が食べられて会話なんかも出来るカフェ。使用人も使えてお弁当なんかも売ってて因みに低価格帯の「アイリス・ドーナツ」もここで買える。「プレミアム・ドーナツ」はカフェでどうぞ。

 偉い人と言うのは気軽に買い物が出来ない。そりゃ言えば何でも持ってきて貰えるんだけれど、自分で選ぶ楽しみを奪われた俺がごねた結果だ。

 両方の店舗を経営しているのは勿論レーツィアの商会で、新商品の試食や人材の育成などにも使っているらしい。
 当然、身元のしっかりした低位貴族の三男や四女などが店員になっていて、とても人気職らしく、ここで知り合って結婚に至る場合もあり大人気だと言う。
 たまに高位貴族の職業体験に使われたり、貨幣を使って買い物をする、と言う事を知らないお嬢様方はドキドキしながら来るそうだ。
 後、クーポンとかの実験をしたり、スタンプカードを作ってみたりと悪くないらしい。

「それで、どう思います?」

「そうねぇ、良いと思うわ」

 店名も俺がごねてつけたカフェ・エリオントでプレミアム・ドーナツの「ディア・ソレイユ(なんか良く分からないけれど向日葵の花になっているやつ)」を優雅にフォークでつつきながらお茶を楽しむ年若い令嬢二人の会話が耳に入ってしまってつい立ち止まったのだ。

「陛下と側妃様に子供が産まれたら、きっと素敵な王子様になるでしょうねぇ」

「ちょっとお優しすぎる側妃様とちょっと怖い陛下を足したら、ほんとちょうど良さそう」

「色んな殿方に求婚されそうね」

「絶対そうなるわよね」

 王子様なのに殿方に求婚される、そこはうっかりスルーしてしまったがそんな話を聞いてしまったからだろう。



 あ、これは夢だ。はっきり分かっている。だってまだアレッシュ様が8歳程なのに、イーライ様とウィルフィルド様が6歳程なんだ。
 そしてそこに男の子が3人を追いかけて走っている。

「にーに待ってぇ!」

「うー!」

 髪の色も背格好も顔も同じだから双子なんだろう。ラムのような黒い髪に何処かで見たような黄色の目。

 ラムそっくり……いや、口の感じが違うな。いつもムスッとしてるラムよりもっと笑ってる感じがする……あれ、俺に似て……?

 片方がこけた。じわぁっと涙が滲んで俺を振り返る。

「ママぁ……」

 ああ、そうだ。この子達は俺とラムの子供だ。

「……、走るからだぞ」

 名前はわからない。だって付けた事もないもんな。

「だって、にーに達、ううぅ……」

 子供達は何だかんだでめちゃくちゃ甘えん坊だ。段々気がついてきたんだがラム自体、めちゃくちゃ甘えん坊だと思う。いつも無表情なのはそれを隠してるからだ。
 こけて膝が痛いはずなのに走ってきて飛び付く。抱っこしてくれと言う事だな。

「あーっ!僕もー!」

 こけなかった方も走ってきて抱き付くから右と左に抱えてあげた。

「……、大丈夫?」「撫でて上げる!」

 心配そうにイーライ様とウィルフィルド様がやって来て、黒い艶々の髪を一生懸命撫でてくれるのが微笑ましい。

「えへへ、にーに、ありがと!」

「うん!……大好き!大きくなったら結婚しよ!」

「良いよ!」

 いや、良くないよ?言っとくが君達は異母兄弟と言う奴ですよ?

「いや待て!……は僕と結婚するんだ!」

「アレッシュ兄様には渡さないぞ!」

 いや、全員ダメです。

「ディエス様ぁ、アレッシュ兄様がわがまま言うんですぅ~もう一人くらい産んでくれないと困ります~」
 
 そう言う問題じゃないからね!?



「だから、それは駄目ですってば!!」

「斬新な寝言だが何が駄目なのだ?」

 やはり目を覚ますと朝日の差すベッドの上で、早起きのラムが隣で本を読んでいた。ほらやっぱりね、夢だったよ。

「夢で……俺とラムの子供がアレッシュ様とイーライ様に求婚されてた」

 酷い荒唐無稽だった。夢だから仕方がないのだけれど。でも子供達はとても可愛かった。
 俺は子供が嫌いじゃない。いつか自分の子供を、なんて思った事もあったけれど最近はそんな事考えた事も無かったのにな。

「そうか。でも子供はもうなくて良い」

「立派な方が3人もいるからな」

 ラムには跡継ぎがいるから、これ以上は要らない。

「これ以上お前を取られてなる物か。絶対に私を放置して子供につきっきりになるだろう、許さん」

「……ラム、何言ってんの?」

 うわ、出たー!甘えん坊だよ。カッコいい皇帝のお顔を何処かに置いてきたな?!

「俺は子供は産めない……でもさ、いたらなんて名前つける?3人分ね!」

「……そうだな、セロ、ウノー、ドゥスってとこか?」

 ふーん、そんな感じなんだ。まあ夢でしかなかったけれど、それはそれで楽しそうな生活だったかもしれないな。

「だが、本当に必要ないからな!」

「あはは、当たり前だろう?俺は子供は産めないよ!」

 俺とラムはきっとこのまま二人でジジィになって死んで行く、そう言う事なんだからな。


「君が、セロ。こっちがウノー。そして一番小さい紫の髪がドゥス。うん、どれもいい子だねぇ!優しさと狂気を秘めていて、とても楽しい歴史を作ってくれそうだ」

「あなたは、だぁれ?」

 たった今名付けられ、セロと言う存在になった空想は目の前のタオルを首にかけた男に問いかける。

「私は「神様」さ。君達はアイリスの頭から生まれた愛しき存在。この世界には下ろして上げられないけれど、違う世界で楽しく生きて欲しい。それが君達の母親の想いだからね」

「分かった!」

「うん!聡い!良いねぇ!」

 きっとこの子達も自分が想像するより楽しい事をしてくれるはず、だって和志の子供達だから。
 神様はニンマリ笑って子供達を優しく別の世界へ下ろす。

「和志さん、元気にラムシェーブルと長生きしてくださいね。あと早くサウナ作って下さいね」

 こうして世界は回り続ける。ひとひらの幸せを中心に。



 終わり
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