上 下
135 / 139
番外編

別嬪さんは泥んこが大好きらしい

しおりを挟む
 その村は豊かな村ではなかった。ただ少し王都から近くて更にカジノが有名なアイリス領から近い村。
 川のそばにあり、氾濫すればすぐに水が押し寄せるそんな産業も何もない小さな村に豪華さを押し殺した馬車がやって来た。
 頑張っても頑張っても高級感が滲み出る馬車からこれまた普通の農民スタイルの衣服を纏っているが、素材が豪華そうな殺したはずの豪華さが殺されていない人間達が現れた。

「うわー!マジ農村って感じー!」

「村だな。しかも農耕地が少ない、水捌けが良くない土地。何でこんな所に」

「だって米だもーん!」

 呑気に話すどう見ても高貴な二人とその周りを過剰なくらい囲む護衛達。良く見れば遠巻きに村人ではない彼らの護衛だろう人々が更に囲んでいる。

「はあ、一体どんなお偉いさんが来たんだべ……」

 しかし長閑な田舎、人々最初は驚いたがのんびりと日常に戻っていく。

 例え村の土地のかなりの部分が買い取られようが、村長の家より立派な邸宅……建てた本人(の偉そうな方)からは

「こんな小さな家では馬も飼えまい」

「どっちかっていうと牛を飼うから馬は要らないよ」

 と、言われようとも最初は馬車で来てたのにいつの間にか地下の穴から出て来るようになったとか。

「魔道トロッコって意外と遠くまで来れるんだねー」

「ああ。もう少し揺れを何とかしたいな」

 なんて話をしていても、のんびりしていた。

「はあ、あの別嬪さん、泥んこが好きだなぁ」

 背が高く、農作業には全然向かない姿形の美形が腰をかがめて細い草を泥地に差している。丁寧に並んでいるので中々器用な方だと思われる。

「いんやぁ、それにしても泥んこが好きたぁ変った別嬪さんだねぇ」

「旦那さんの方はなんつうか、マイペースな方だねぇ」

 「別嬪さん」が「泥んこ遊び」をしている時、「旦那さん」は近くの木陰の下に椅子を置き、「別嬪さん」の「泥んこ遊び」を本を読みながら眺めている。

「んまぁ、どっかのお偉いさんだろう」

 のんびりしていても、本質は見抜かれていた。


 別嬪さんの泥んこ遊びが泥んこ畑で

「ごめんね、ずっと見ていられないから」

「構いませんよ、私もコメに興味がありますから……と言うかライスワインの方ですけど!」

「あはは」

 別嬪さんの泥んこ畑は管理する研究者みたいな人が常駐し始める。泥んこ畑はどんどん面積を増やして行き、あちこちに出来始める。

「はぁ、きれいなもんだねえ。なんで四角に作るんだい?」

「なんでもそれが伝統らしいですよ?」

 真四角に区切られた泥んこ畑には青々とした草が伸びている。それでも村人はのんびりのんびり。

「川が氾濫したら水浸しにならぁ」

「護岸工事をしてるので大丈夫ですよ」

「はぁ」

 そういえば治水事業とかで工事も始まっていた。

「洪水で家や田畑が水浸しになる事もなくなるでしょう」

「あんたんとこは最初っから水浸しだけど、いいんかいのう?あの別嬪さん泣いちゃわないかい?」

「別嬪……ああ、ディエス様ですか?ふふ、大丈夫ですよ。こういう種類の作物なんですって。実はこれから水を無くしていくと麦みたいに黄色く色づいてコメが採れるんです。私はそれを使って酒を造る研究をしています」

「酒!」

 どこの世界でもアルコールは大人の男性を魅了してしまうらしい。この研究員の発言から、手の空いた村の男達が「変な四角の泥んこ畑」の手伝いを始める。雑草を引き抜いたり害虫の駆除を手伝ったり。たまにしか来ることが出来ないディエスが来た時にそこにはすっかり水田が広がっていてびっくりしている。

「うわーーーすごーい!一杯採れそうだなあ!」

「あんれぇ!別嬪さん、男だったかぁ」

「あれだかのう、都会の方で流行ってる男のお嫁さんかのう?」

「と、都会の流行り??」

 田舎のお爺ちゃんコンビは顔を見合わせてうんうん頷いている。

「んだぁ、何でも一個前の王様と男の側妃様が仲が良くって、随分と街が儲かったんだと」

「それにあやかって、偉い人達は同性のお嫁さんを貰うのが流行ってるって行商人が言うておうだぞ」

「へ、へえ……一個前の王様ねぇ……」

 ディエスは分かりやすく赤くなったり青くなったりしているが、被った麦わら帽子のお陰でお爺ちゃんコンビにはバレていない様だ。

「今のアレッシュ王様は王妃様と仲良しみたいだから、まあ結局は本人同士の相性ってこった」

「んだんだ。まあ仲が良ければそれで良いんだべ」

「あはは……」

 
 ディエスの田んぼは一年目にしては豊作で、何回か食べるだけ米が採れた。

「あーーー!新米!炊き立て!犯罪的だーーーー!」

「ほう、ふむ」

 出来る執事のニコラスはどうやらコメに関するハウツー本を取り寄せて完璧な白米を炊き上げていたし、何故かディエスの家にはかまどと羽釜まで用意されていたから、ニコラスも相当やる気を見せたらしい。

「美味しいね、美味しいね!あ~生卵かけて食べたいなあ~」

「馬鹿を言うな。卵は火を通さねば腹を壊すのは常識だぞ」

「次は養鶏場か!?」

 ディエスの野望は尽きない。



 

 




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜

N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間) ハーレム要素あります。 苦手な方はご注意ください。 ※タイトルの ◎ は視点が変わります ※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます ※ご都合主義です、あしからず

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

ひとりぼっち獣人が最強貴族に拾われる話

かし子
BL
貴族が絶対的な力を持つ世界で、平民以下の「獣人」として生きていた子。友達は路地裏で拾った虎のぬいぐるみだけ。人に見つかればすぐに殺されてしまうから日々隠れながら生きる獣人はある夜、貴族に拾われる。 「やっと見つけた。」 サクッと読める王道物語です。 (今のところBL未満) よければぜひ! 【12/9まで毎日更新】→12/10まで延長

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

処理中です...