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番外編
別嬪さんは泥んこが大好きらしい
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その村は豊かな村ではなかった。ただ少し王都から近くて更にカジノが有名なアイリス領から近い村。
川のそばにあり、氾濫すればすぐに水が押し寄せるそんな産業も何もない小さな村に豪華さを押し殺した馬車がやって来た。
頑張っても頑張っても高級感が滲み出る馬車からこれまた普通の農民スタイルの衣服を纏っているが、素材が豪華そうな殺したはずの豪華さが殺されていない人間達が現れた。
「うわー!マジ農村って感じー!」
「村だな。しかも農耕地が少ない、水捌けが良くない土地。何でこんな所に」
「だって米だもーん!」
呑気に話すどう見ても高貴な二人とその周りを過剰なくらい囲む護衛達。良く見れば遠巻きに村人ではない彼らの護衛だろう人々が更に囲んでいる。
「はあ、一体どんなお偉いさんが来たんだべ……」
しかし長閑な田舎、人々最初は驚いたがのんびりと日常に戻っていく。
例え村の土地のかなりの部分が買い取られようが、村長の家より立派な邸宅……建てた本人(の偉そうな方)からは
「こんな小さな家では馬も飼えまい」
「どっちかっていうと牛を飼うから馬は要らないよ」
と、言われようとも最初は馬車で来てたのにいつの間にか地下の穴から出て来るようになったとか。
「魔道トロッコって意外と遠くまで来れるんだねー」
「ああ。もう少し揺れを何とかしたいな」
なんて話をしていても、のんびりしていた。
「はあ、あの別嬪さん、泥んこが好きだなぁ」
背が高く、農作業には全然向かない姿形の美形が腰をかがめて細い草を泥地に差している。丁寧に並んでいるので中々器用な方だと思われる。
「いんやぁ、それにしても泥んこが好きたぁ変った別嬪さんだねぇ」
「旦那さんの方はなんつうか、マイペースな方だねぇ」
「別嬪さん」が「泥んこ遊び」をしている時、「旦那さん」は近くの木陰の下に椅子を置き、「別嬪さん」の「泥んこ遊び」を本を読みながら眺めている。
「んまぁ、どっかのお偉いさんだろう」
のんびりしていても、本質は見抜かれていた。
別嬪さんの泥んこ遊びが泥んこ畑で
「ごめんね、ずっと見ていられないから」
「構いませんよ、私もコメに興味がありますから……と言うかライスワインの方ですけど!」
「あはは」
別嬪さんの泥んこ畑は管理する研究者みたいな人が常駐し始める。泥んこ畑はどんどん面積を増やして行き、あちこちに出来始める。
「はぁ、きれいなもんだねえ。なんで四角に作るんだい?」
「なんでもそれが伝統らしいですよ?」
真四角に区切られた泥んこ畑には青々とした草が伸びている。それでも村人はのんびりのんびり。
「川が氾濫したら水浸しにならぁ」
「護岸工事をしてるので大丈夫ですよ」
「はぁ」
そういえば治水事業とかで工事も始まっていた。
「洪水で家や田畑が水浸しになる事もなくなるでしょう」
「あんたんとこは最初っから水浸しだけど、いいんかいのう?あの別嬪さん泣いちゃわないかい?」
「別嬪……ああ、ディエス様ですか?ふふ、大丈夫ですよ。こういう種類の作物なんですって。実はこれから水を無くしていくと麦みたいに黄色く色づいてコメが採れるんです。私はそれを使って酒を造る研究をしています」
「酒!」
どこの世界でもアルコールは大人の男性を魅了してしまうらしい。この研究員の発言から、手の空いた村の男達が「変な四角の泥んこ畑」の手伝いを始める。雑草を引き抜いたり害虫の駆除を手伝ったり。たまにしか来ることが出来ないディエスが来た時にそこにはすっかり水田が広がっていてびっくりしている。
「うわーーーすごーい!一杯採れそうだなあ!」
「あんれぇ!別嬪さん、男だったかぁ」
「あれだかのう、都会の方で流行ってる男のお嫁さんかのう?」
「と、都会の流行り??」
田舎のお爺ちゃんコンビは顔を見合わせてうんうん頷いている。
「んだぁ、何でも一個前の王様と男の側妃様が仲が良くって、随分と街が儲かったんだと」
「それにあやかって、偉い人達は同性のお嫁さんを貰うのが流行ってるって行商人が言うておうだぞ」
「へ、へえ……一個前の王様ねぇ……」
ディエスは分かりやすく赤くなったり青くなったりしているが、被った麦わら帽子のお陰でお爺ちゃんコンビにはバレていない様だ。
「今のアレッシュ王様は王妃様と仲良しみたいだから、まあ結局は本人同士の相性ってこった」
「んだんだ。まあ仲が良ければそれで良いんだべ」
「あはは……」
ディエスの田んぼは一年目にしては豊作で、何回か食べるだけ米が採れた。
「あーーー!新米!炊き立て!犯罪的だーーーー!」
「ほう、ふむ」
出来る執事のニコラスはどうやらコメに関するハウツー本を取り寄せて完璧な白米を炊き上げていたし、何故かディエスの家にはかまどと羽釜まで用意されていたから、ニコラスも相当やる気を見せたらしい。
「美味しいね、美味しいね!あ~生卵かけて食べたいなあ~」
「馬鹿を言うな。卵は火を通さねば腹を壊すのは常識だぞ」
「次は養鶏場か!?」
ディエスの野望は尽きない。
川のそばにあり、氾濫すればすぐに水が押し寄せるそんな産業も何もない小さな村に豪華さを押し殺した馬車がやって来た。
頑張っても頑張っても高級感が滲み出る馬車からこれまた普通の農民スタイルの衣服を纏っているが、素材が豪華そうな殺したはずの豪華さが殺されていない人間達が現れた。
「うわー!マジ農村って感じー!」
「村だな。しかも農耕地が少ない、水捌けが良くない土地。何でこんな所に」
「だって米だもーん!」
呑気に話すどう見ても高貴な二人とその周りを過剰なくらい囲む護衛達。良く見れば遠巻きに村人ではない彼らの護衛だろう人々が更に囲んでいる。
「はあ、一体どんなお偉いさんが来たんだべ……」
しかし長閑な田舎、人々最初は驚いたがのんびりと日常に戻っていく。
例え村の土地のかなりの部分が買い取られようが、村長の家より立派な邸宅……建てた本人(の偉そうな方)からは
「こんな小さな家では馬も飼えまい」
「どっちかっていうと牛を飼うから馬は要らないよ」
と、言われようとも最初は馬車で来てたのにいつの間にか地下の穴から出て来るようになったとか。
「魔道トロッコって意外と遠くまで来れるんだねー」
「ああ。もう少し揺れを何とかしたいな」
なんて話をしていても、のんびりしていた。
「はあ、あの別嬪さん、泥んこが好きだなぁ」
背が高く、農作業には全然向かない姿形の美形が腰をかがめて細い草を泥地に差している。丁寧に並んでいるので中々器用な方だと思われる。
「いんやぁ、それにしても泥んこが好きたぁ変った別嬪さんだねぇ」
「旦那さんの方はなんつうか、マイペースな方だねぇ」
「別嬪さん」が「泥んこ遊び」をしている時、「旦那さん」は近くの木陰の下に椅子を置き、「別嬪さん」の「泥んこ遊び」を本を読みながら眺めている。
「んまぁ、どっかのお偉いさんだろう」
のんびりしていても、本質は見抜かれていた。
別嬪さんの泥んこ遊びが泥んこ畑で
「ごめんね、ずっと見ていられないから」
「構いませんよ、私もコメに興味がありますから……と言うかライスワインの方ですけど!」
「あはは」
別嬪さんの泥んこ畑は管理する研究者みたいな人が常駐し始める。泥んこ畑はどんどん面積を増やして行き、あちこちに出来始める。
「はぁ、きれいなもんだねえ。なんで四角に作るんだい?」
「なんでもそれが伝統らしいですよ?」
真四角に区切られた泥んこ畑には青々とした草が伸びている。それでも村人はのんびりのんびり。
「川が氾濫したら水浸しにならぁ」
「護岸工事をしてるので大丈夫ですよ」
「はぁ」
そういえば治水事業とかで工事も始まっていた。
「洪水で家や田畑が水浸しになる事もなくなるでしょう」
「あんたんとこは最初っから水浸しだけど、いいんかいのう?あの別嬪さん泣いちゃわないかい?」
「別嬪……ああ、ディエス様ですか?ふふ、大丈夫ですよ。こういう種類の作物なんですって。実はこれから水を無くしていくと麦みたいに黄色く色づいてコメが採れるんです。私はそれを使って酒を造る研究をしています」
「酒!」
どこの世界でもアルコールは大人の男性を魅了してしまうらしい。この研究員の発言から、手の空いた村の男達が「変な四角の泥んこ畑」の手伝いを始める。雑草を引き抜いたり害虫の駆除を手伝ったり。たまにしか来ることが出来ないディエスが来た時にそこにはすっかり水田が広がっていてびっくりしている。
「うわーーーすごーい!一杯採れそうだなあ!」
「あんれぇ!別嬪さん、男だったかぁ」
「あれだかのう、都会の方で流行ってる男のお嫁さんかのう?」
「と、都会の流行り??」
田舎のお爺ちゃんコンビは顔を見合わせてうんうん頷いている。
「んだぁ、何でも一個前の王様と男の側妃様が仲が良くって、随分と街が儲かったんだと」
「それにあやかって、偉い人達は同性のお嫁さんを貰うのが流行ってるって行商人が言うておうだぞ」
「へ、へえ……一個前の王様ねぇ……」
ディエスは分かりやすく赤くなったり青くなったりしているが、被った麦わら帽子のお陰でお爺ちゃんコンビにはバレていない様だ。
「今のアレッシュ王様は王妃様と仲良しみたいだから、まあ結局は本人同士の相性ってこった」
「んだんだ。まあ仲が良ければそれで良いんだべ」
「あはは……」
ディエスの田んぼは一年目にしては豊作で、何回か食べるだけ米が採れた。
「あーーー!新米!炊き立て!犯罪的だーーーー!」
「ほう、ふむ」
出来る執事のニコラスはどうやらコメに関するハウツー本を取り寄せて完璧な白米を炊き上げていたし、何故かディエスの家にはかまどと羽釜まで用意されていたから、ニコラスも相当やる気を見せたらしい。
「美味しいね、美味しいね!あ~生卵かけて食べたいなあ~」
「馬鹿を言うな。卵は火を通さねば腹を壊すのは常識だぞ」
「次は養鶏場か!?」
ディエスの野望は尽きない。
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