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番外編

1 可愛いあの子はすっとこどっこい(レーツィア視点

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「あのすっとこどっこーーいっ!!」

 バシィーン!とても殴り易そうなウサギのぬいぐるみを殴って最後には壁にぶつける。
 レーツィアはちょっと冷や汗を掻いた。

 しまった、この方に下町のお上品では無い言葉とストレス発散殴打用「ボコスカうさたん、クーロちゃん」を差し上げたのは間違いだったとお茶を啜りながら遠い目をする。

「何よっ何よっあの子っ!聞いた!ねぇ、ツィアちゃんっ!」

「あ、はい。それはもう……」

 目の前で真っ黒なうさたんを拾い上げて、まるで少女のように頬を膨らませる方はこの国で一番高貴な女性だ。

「何が、何が……「最近、シミが」よっ!!あんなツルツルですべすべのお肌の癖に!!確かに私より太陽に当たることが少ないかも知れないけどっ!私より少し若いだけなのにーーー!」

「でも確かにディエスの劣化しない外見は不思議ですよね。本人は前に死にかけた時のせいだって言ってますけど」

 私、レーツィアがこの国に来てからもうだいぶ経ち、夫と結婚し、子供が産まれ……まあ所謂おばさんになった。
 その時間の流れは誰にでも訪れるはずなのに、そこから置いてきぼりを食らっている人物が一人いる。

「レーツィア、あのな。俺が使っても良さそうな、その、け、化粧品、とかある……?いや、俺が使うなんておかしいってわかってんだけどさ!で、でも……」

 たまに呼び出される王宮の皇帝の執務室でモジモジとディエスに相談される。何言ってんの?こいつ。ツルッツルのぴっちぴちの皮膚してんのに手入れしたいってほざいたかしら?

「……あー、ほら。貴方をイメージした「ミステリアス・アイリス」シリーズあるでしょ?あれで良いんじゃ?」

 しかもラムシェーブル様の目が痛い。ラムシェーブル様がいない所で話をすれば、それはそれで睨まれるし、いる所で話をすればそれはそれで睨まれる。
 でも、もう慣れた。

「ソ、ソレイユ様みたいに俺、キラキラしてないから、あの人みたいにきれいな感じのが良い」

「それ、ソレイユ様に絶対言っちゃ駄目よ」

「なんで?」
 
 きょとんとする顔。ふん、そのきれいなお顔で皇帝と仲良くやってるんでしょう?なんて思ったが口には出さないわ。ふんっ!

「怒られるわよ」

「怒られなかったよ?」

 もうやらかしてた。きょとんとするディエスを置いてソレイユ様にご挨拶に伺ったら、コレだ。

「ツィア!聞いた?!あの子、おしろいを知らないのよ!私達が一生懸命隠してるのに!隠して隠して保っているのに、「どうしてソレイユ様はそんなに美しいんですか?」ですって!作ってるのよ!私達は!なぁんにもしてないのに!手の甲に1つだけシミが出来ただけで!めそめそしてるのっ!!」

 クーロちゃんをソファにバシバシ打ち付けてソレイユ様は憤慨している。そうよね、あいつは碌なお手入れしてないのにシワ一つないのよ。ムカつくことこの上ないわ。しかももっとムカつくのが

「なぁにが「俺、きれいじゃないから……汚いおっさんなんてゴミ屑以下だろ……その、嫌われたくないし……」ですって?!最早惚気よ、惚気!!別にもうラムの事何とも思ってないけど、私より乙女ってどういう事なのっ!」

 クーロちゃんが限界まで引き伸ばされる。大丈夫、クーロちゃんはとっても丈夫なんですからね。

「シワってそれ、笑ったら出る奴よっ!皆出るの!それをシワなんての言ったら皆しわくちゃよぉーーー!」

 まあ、こうやってソレイユ様もストレス発散しているのよね。私はまだまだ暫く愚痴に付き合う事にする。

「そうそう、ソレイユ様。ディエスをギャフンと言わせる企画を立てているのですが、乗りませんか?」

「乗るわ!絶対乗る!」

 こうしてディエスの2回目の結婚式に強力な助っ人も用意できた。あー楽しみだわー!がっちりきっちりやって儲けて見せるんだからね!




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