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116 大惨事の予感

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「ディエス」

「ああ、今行くー」

 ラムが木陰から俺を呼んでいる。屋敷の広い庭の大きな木の下にテーブルと椅子が設置されていて、大きな椅子がラムの指定席だ。

「今は何が取れるんだ?」

「トマト!」

 麦わら帽子の俺は目すらサングラスで防御しながら3本だけあるトマトを世話していた。スローライフだ!とうとうやってやったぜ!

「色付いてるな。今年は食えるのか?」

「鳥次第だなぁ~」

 去年は良し!収穫だ!と決めた朝に鳥に掻っ攫われてしまったんだよ。悔しい!

「しかしその格好は」

「仕方がないだろう……レーツィアが日焼け厳禁って言うから」

 俺は日陰に入って麦わら帽子とサングラスと口元を覆い隠すスカーフとアームカバーと……まあそれぞれ太陽の光を遮る日焼け止めグッズの数々を外して行く。暑いわ!

 ニコラスが冷たいお茶を淹れてくれたので休憩時間なのだ。お茶と言っても俺にはフルーツジュース、ちょっと塩が入っている奴。俺が何か言った訳じゃないんだけど、ニコラスは経験で知ってるみたい、暑い汗をたっぷりかくような時には水だけじゃなくてミネラルもいるって事。

「さすが~~」

 本当ならここで缶ビールでもプシュっと行きたい所だけれど、流石に缶ビールはないからなぁ。誰か作ってくれないかなぁ?

「あの話、本当に受けるのか?」

「うーん。俺、レーツィアに勝てないんだよなぁ、なんか知らないけど。レーツィアに言われたら従わないといけないような気持ちが刷り込まれてる気がする」

 青空を見上げるとまだ少女だった頃のレーツィアがほーっほっほっほ!と高笑いしながらこっちを見ている気がした。

「さもありなん」

 あっ!ラムまで同意した?!でもその辺りはラムにも覚えがある事なんだろう。きっとラムが見上げる空にはソレイユ様が上品に微笑んでいらっしゃるに違いない。

「しっかし、化粧品のモデルなんて何でおっさんに頼むかな……」

 そう、俺はレーツィアの商会の高級化粧品「ミステリアス・アイリス」シリーズのイメージモデルをやらされようとしている。正直言う、きっつい。



「ここらでバーンと出してドーンと広めてがっつり行きたいのよ」

「はぁ。今でも売れてるんだろ?」

 超高級化粧品の紫の小瓶を並べてレーツィアは目を輝かせている。

「もっと行けるはずですもの!」

 なんとここにある小指くらいの小瓶が一つ5万ゴールドするらしい。所謂5万円よ?!こんなちっさいのに!ありえねぇって思うけど普通に売れているらしいから女性の美への探究心って凄い。

「ディエスがいい具合の歳になったからね。ミステリアス・アイリスは少し歳上の女性を狙ったラインにしたの。その辺りのご夫人はお金持ちなのよ?」

「へ、へぇ……」

 嫌な予感がして、逃げ出したかったのだが、蛇に睨まれたカエルって言うの?レーツィアから逃げられないんだよね……。三つ子の魂百までって奴かも。レーツィアと初めて会ったのは5歳だけど、そこからずーっと勝てない……いや、勝負にすらなっていない気がするんだ。


「と、言うわけで頼むわよ!ドレスはこっちで用意しておくから」

「嫌だけど」

「日焼け厳禁よーーー!」

「聞いてくれ!レーツィア!」

「ラム様もお願いしますねー」

「……何をだ?」

 言いたい事だけ言って、企画書を置いてレーツィアは帰って行く。俺達なんかよりバリバリ働いていて、行動力が物凄い。

「ド、ドレスとか言ってなかったか?」

「女性用化粧品のモデルならやはり着るのではないか?」

「絶対やだけど?!」

 おっさんに女装なんてどんだけ大惨事が起こると思ってんだよ!レーツィアの馬鹿ぁ!

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