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93 しょうがないから良い事を教えてやる
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「痛く無い、痛く無いからーーー!」
「ええい!見せろと言っている!」
「きゃーっ!」
俺は下っ腹にどでかい刺し傷が残ったけれど、傷はふさがり完治していると言ってもいい感じだ。
「まさか、こんなにすぐ治るはずが!?」
医者や治癒術師は目を白黒させているけれど、きっと神様がサービスで治してくれたんだろう。心配してなのかラムが腹の傷を見たがって困る。そして俺はこの傷をラムに見せたくないというか触らせたくない。
「や、やめろってっ……や、っあんっ!んっ!」
「ふさがって……いる?まさかそんな……」
「や、やめろ、触んな!!」
ペロンと胸の辺りまで服をめくられて舐めるようにじっと見たり、サワサワと撫でたりされると……困るっ!!
「だから、さ、触んなあぁああっ、あぁんっ……ひいぃんっ!」
ぞわぞわっと這い上がるのは気持ち良さ。や、こ、これは……これはぁ、やばいっ!
「……ディエス……顔が、赤い。熱が……?」
「ち、ちが、違うぅ!から、触んなぁぁ……っあんっ」
ま、間違いない、この傷痕……感じるっ……っ!優しくラムに触られると、まるで腹の奥を刺激された時みたいに……ひっ……!
「だ、駄目だぁ……んっ!ラ、ラムだめえぇっ!ソコ、だめぇ……」
イ、イきそ……なんで、なんでこんなことに……っ。
「全員下がれ、私はディエスと話がある。すぐに!」
「は、はいっ!!」
よ、良かった……侍従達やメイド達がいる前で恥ずかしい声を上げてしまう所だった。しかしなんだ、この傷。ふさがった後の敏感だとかそんなのを通り越してゾクゾクする……。あの神様なんかやらかしたのか!?勘弁してくれ!
「ディエス」
「ん……?」
俺の傷を撫で回し飽きたのか、ラムは手を止めていた。
「……恐ろしかった」
「へ?」
主語がない、一体何が……ああ、赤いドレスかな。トラウマの塊が害意を持って突っ込んできたんだ、それは恐ろしかっただろう。
「お前が、死ぬのかと思うと……恐怖で全てが黒く塗りつぶされていくようだった」
静かにラムが口を開いた。俺に目を合わさず淡々と小さな声で呟くラム。ラムは静かな時が一番怖い。奥底の昏い心の深い所に沈めたモノが微かに震える。
「ラム……?」
「お前がいない世界の事を考えると、絶望しかなかった。全て壊すしかないと思った……」
神様が軽く言ってたアレは本当に起こる事だったんだな。
「そんな事言うなよ……ラム。例え俺がいなくても……ソレイユ様やアレッシュ様、イーライ様にウィルフィルド様……お前の家族がいるんだから……」
「駄目だ、私はお前でなければ駄目なんだ。お前でなければ」
ラムは皇帝だ。多分歴代の中でも相当出来る皇帝であり、生まれた時から帝国の頂点に立つことを義務付けられた男だ。弱音を吐く事を禁止されたラムシェーブルがきっとその生涯の中で数えるほどしか口に出さない弱い心。
それを俺に預けるのか?ラム。そんなお前の中のお前を形作る数少ない物を、俺に守れと差し出すのか?
仕方がない。受け取って、俺が大事に隠し持ってやろう。お前がかっこいい皇帝でいられるように。
俺は俯いているラムの両頬を両手で挟んで上を向かせた。端正な顔がちょっと歪んで面白い。深い濃紺の瞳が少しだけ揺れている。じっくり見ないと分からないくらい、上手に不安を隠した目が俺を見て揺れている。
「笑え、ラム。いつものように、不敵で意地悪で自信過剰な皇帝陛下の顔で笑え。そしたらいい事教えてやるよ」
「ディエス……こうか?」
にやり、いつものようにちょっと底が見えない、悪い笑顔を作り出す。
「ふはっ、それだそれ。ラムはそうでなくちゃな!……ラム、俺な?どうもスローライフよりお前の事が好きみたいだ。神様にスローライフ断っちゃったよ!」
ラムの目が見開く。何に驚いたんだろう?神様に会った事かな?スローライフを断った事かな?それとも……?
「私もお前の事が大好きだ……いや、愛している。一生どこにもいかないで私の傍にいて欲しい。お願いだ、私を置いていかないで」
「俺もお前を愛してる。絶対に置いて行かないから安心しろ。ラムを一人にすると暴走しそうで怖いから、俺がずっと見張ってやるよ」
ああ、瞳の揺れが止まって強い光を放つ。そうだ、それでいい。お前は強くて不敵で意地悪な皇帝陛下。俺はそんな皇帝陛下を好きになってしまったんだから。
「これは心強い」
最高に「皇帝の顔」を作ってから大声で笑った。俺も一緒に笑う、だって俺達は生涯を共にする伴侶なんだからな。分かち合っていかなくっちゃ!
こうして俺はスローライフを捨てて、側妃として生きていく覚悟を決めた。ま、スローライフより楽しいかもしれないしな!
「ええい!見せろと言っている!」
「きゃーっ!」
俺は下っ腹にどでかい刺し傷が残ったけれど、傷はふさがり完治していると言ってもいい感じだ。
「まさか、こんなにすぐ治るはずが!?」
医者や治癒術師は目を白黒させているけれど、きっと神様がサービスで治してくれたんだろう。心配してなのかラムが腹の傷を見たがって困る。そして俺はこの傷をラムに見せたくないというか触らせたくない。
「や、やめろってっ……や、っあんっ!んっ!」
「ふさがって……いる?まさかそんな……」
「や、やめろ、触んな!!」
ペロンと胸の辺りまで服をめくられて舐めるようにじっと見たり、サワサワと撫でたりされると……困るっ!!
「だから、さ、触んなあぁああっ、あぁんっ……ひいぃんっ!」
ぞわぞわっと這い上がるのは気持ち良さ。や、こ、これは……これはぁ、やばいっ!
「……ディエス……顔が、赤い。熱が……?」
「ち、ちが、違うぅ!から、触んなぁぁ……っあんっ」
ま、間違いない、この傷痕……感じるっ……っ!優しくラムに触られると、まるで腹の奥を刺激された時みたいに……ひっ……!
「だ、駄目だぁ……んっ!ラ、ラムだめえぇっ!ソコ、だめぇ……」
イ、イきそ……なんで、なんでこんなことに……っ。
「全員下がれ、私はディエスと話がある。すぐに!」
「は、はいっ!!」
よ、良かった……侍従達やメイド達がいる前で恥ずかしい声を上げてしまう所だった。しかしなんだ、この傷。ふさがった後の敏感だとかそんなのを通り越してゾクゾクする……。あの神様なんかやらかしたのか!?勘弁してくれ!
「ディエス」
「ん……?」
俺の傷を撫で回し飽きたのか、ラムは手を止めていた。
「……恐ろしかった」
「へ?」
主語がない、一体何が……ああ、赤いドレスかな。トラウマの塊が害意を持って突っ込んできたんだ、それは恐ろしかっただろう。
「お前が、死ぬのかと思うと……恐怖で全てが黒く塗りつぶされていくようだった」
静かにラムが口を開いた。俺に目を合わさず淡々と小さな声で呟くラム。ラムは静かな時が一番怖い。奥底の昏い心の深い所に沈めたモノが微かに震える。
「ラム……?」
「お前がいない世界の事を考えると、絶望しかなかった。全て壊すしかないと思った……」
神様が軽く言ってたアレは本当に起こる事だったんだな。
「そんな事言うなよ……ラム。例え俺がいなくても……ソレイユ様やアレッシュ様、イーライ様にウィルフィルド様……お前の家族がいるんだから……」
「駄目だ、私はお前でなければ駄目なんだ。お前でなければ」
ラムは皇帝だ。多分歴代の中でも相当出来る皇帝であり、生まれた時から帝国の頂点に立つことを義務付けられた男だ。弱音を吐く事を禁止されたラムシェーブルがきっとその生涯の中で数えるほどしか口に出さない弱い心。
それを俺に預けるのか?ラム。そんなお前の中のお前を形作る数少ない物を、俺に守れと差し出すのか?
仕方がない。受け取って、俺が大事に隠し持ってやろう。お前がかっこいい皇帝でいられるように。
俺は俯いているラムの両頬を両手で挟んで上を向かせた。端正な顔がちょっと歪んで面白い。深い濃紺の瞳が少しだけ揺れている。じっくり見ないと分からないくらい、上手に不安を隠した目が俺を見て揺れている。
「笑え、ラム。いつものように、不敵で意地悪で自信過剰な皇帝陛下の顔で笑え。そしたらいい事教えてやるよ」
「ディエス……こうか?」
にやり、いつものようにちょっと底が見えない、悪い笑顔を作り出す。
「ふはっ、それだそれ。ラムはそうでなくちゃな!……ラム、俺な?どうもスローライフよりお前の事が好きみたいだ。神様にスローライフ断っちゃったよ!」
ラムの目が見開く。何に驚いたんだろう?神様に会った事かな?スローライフを断った事かな?それとも……?
「私もお前の事が大好きだ……いや、愛している。一生どこにもいかないで私の傍にいて欲しい。お願いだ、私を置いていかないで」
「俺もお前を愛してる。絶対に置いて行かないから安心しろ。ラムを一人にすると暴走しそうで怖いから、俺がずっと見張ってやるよ」
ああ、瞳の揺れが止まって強い光を放つ。そうだ、それでいい。お前は強くて不敵で意地悪な皇帝陛下。俺はそんな皇帝陛下を好きになってしまったんだから。
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最高に「皇帝の顔」を作ってから大声で笑った。俺も一緒に笑う、だって俺達は生涯を共にする伴侶なんだからな。分かち合っていかなくっちゃ!
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