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88 終わってるよ
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「はあ、意味わからん」
俺は新年早々、クソどでかいため息をついた。形式だけと王宮近くに住む貴族が来るだけだろうと小さな広間で新年の挨拶を受けている所謂「新年祭改め新年会」。皆予想通り手紙だけで済ませて、それにこちらも手紙を出し……で済ませているのにわざわざ大人数で足を運んだ馬鹿がいる。
「クッソ恥ずかしい……馬鹿じゃねえの?」
「まあまあ……側妃様。ご準備を」
今年は略式もいい所だからラムもソレイユ様の代わりに隣に立っている俺も衣装は略式だけれど、帝国の王族の服ともなれば略式でも豪華だし動きにくい。しかも俺の場合スカートっぽく見えてそうじゃないなんかわけわからん服を着るから更に動きにくい。
「なんでソルリアは国を上げて来てんの?ばっかじゃねえの?」
「食料支援を願い出るんだろうが、アレでは国民も納得すまい」
何台も馬車を連ね……宰相と王太子とその婚約者が来ているんだと。護衛もかなりの数を連れてきているらしく困ったもんだ。でも来たんだから会わない訳にはいかないから、こうして待っている。全く意味が分からん。いつもの新年祭ならたくさんの代表がやって来て、2日くらいかけて交流パーティもあったりするから、そこで協定を結んだり取引を締結させたりするけれど、今年はどこもきていないし。
「一応、国の代表出来ておりますから、会わぬわけにも参りません。まあ、さっさと済ませましょう」
「悪いね、セイリオスも」
「仕事ですから。それに側妃様のせいではございません」
最近、セイリオスの顔つきは厳しい。クロードがまだ戻ってきていないからだ。新年前には戻る予定だったが、騎士団の到着が遅れている……俺も心配だが、セイリオスの内心はもっと荒れているんだろうな。まあそれでも良い報告もあって、多分冷夏は終わる。
「気候変動が過去のものと見比べても回復傾向にあります。まだ確証はありませんが、この冬を乗り切れば夏は期待できます!」
と報告が来ている。まだ油断はできないが、少しだけ安心した。
「ソルリア王太子エイダン様おつきでございます」
面倒ごとはさっさと終わらすに限る。侍従の声が響いたので俺達は雑談をやめて、口を閉じた。
「帝国皇帝ラムシェーブル陛下には初めてお目にかかります。ソルリア王太子エイダンでございます」
ディエスの中の俺が知らない記憶の奥底にある異母兄弟のエイダン。はっきり言って凄く似ていない。髪の色も俺がファンタジーな紫色なのにエイダンは茶色だし、俺は黄色い目で弟は茶色だ。まあちょっと似てる?かな??ってくらい。割と埋没しそうな色だななんて思ってない。ついでに言えば体格も似てない。俺はスッとした母親に似ているけれど、エイダンは父親……ソルリア国王に似てる。ていうかそっくり!骨格が横に広いというか、がっしりとした……ああ、ゼルトラン君系のシルエットだ。
まあ俺がソルリア国王の息子ですって言うより、エイダン君が息子ですって言う方がしっくりくるそんな姿形だ。
そんでなんか知らんがエイダン君の後ろに控えている令嬢が俺を睨んでくる。誰だっけあれ……と考えるけど、宰相そっくりの目だわ。あー娘ね、娘。宰相は娘を婚約者に据えてたんだね。
そんでドレスは濃いピンク。とっても濃い。ラムの機嫌が急降下するくらい赤に近いピンク。はあ、どうしてこうもまぁラムの地雷を踏んでくるのか。
俺はそっとセイリオスを見るとセイリオスも小さくため息ををついたから、ダメな奴でした。あーあ、早く帰ってくんないかな?
エイダン君が形式通りの挨拶をすると、横から宰相のおっさんが首を突っ込んで来た。必死さが伝わるけど、ラムの眉毛が5ミリくらい不快で上がったからもうダメだー!早く帰れ。まだ取り返しがつくぞ!
「この度は第2皇子が御生まれになったとかで、おめでとうございます。ご尊顔を拝見したく……」
馬鹿かな?この場にいないちっちゃい赤ちゃんを連れてこいって言ってんのかな??何でこの場にいないのか考えれば分かるだろ!そうでなくても寒いんだ。不特定多数が出入りするこんな所に連れて来て赤ちゃんが風邪を引いたらどうすんだ!
ついでに言うと帝国皇帝の皇子様だぞ?なんで同盟国でもない他国の人間に会わせるんだよ、ねーよ!
「正妃はまだ体調が万全ではない」
あったりまえだっつーの!
「では皇子のお姿だけでも……」
ビキッと空気が凍った。因みに俺も空気を凍らせ隊の一員だ。皇帝陛下がダメだって言ってんのに食い下がるとか!このおっさんマジで宰相なの?!嘘だろ??ソルリア終わったな。
因みに怒りて空気を凍らせたのはラム、俺、セイリオスと、クロードの代わりに警備を指揮している副団長のマキシマと騎士達、近衛……まあ、この城の全員だと思ってくれれば良い。
見る分にはにこやかで美しいと言われた花の顔のセイリオスが半歩だけ前へ出る。完全に後ろ姿には
「うざい、帰れ!この無能。時間の無駄」
と書いてある気がする。
「遠い中、わざわざ我が帝国までご足労誠に有難うございます。しかしながら、本日はここらでお開きと致しましょう。民思う故とご容赦願いたい。互いの国の繁栄の為に」
トゲがいっぱい生えたセイリオスがもはや解散宣言を出した!やるぅ!まだ開始から1時間も経ってない午前中だぞ!
メイドや侍従がびっくりしているけど、誰も異論なんて唱えないし、ラムも眉ひとつ動かさず黙っている。これは同意したって事だ。
メイド達は静かに厨房へ走って行って調理の中止を料理長に言うだろう。まぁあの料理長の事だ。きっと想定済みで、作ってしまった料理は箱か何かに詰めてお弁当みたいなお土産にして来てくれた人に持たせたりすると思う。
ラムが立ち上がり俺の腰に手を回す。帰るぞ、と言う合図だ。ま、当然だよな。俺たちが歩き出そうとする瞬間、宰相は口を開く。
「ま、待ってください!我が国に、支援を!その側妃の故国ですぞ!!」
野球で言う所のスリーアウトチェンジと言う言葉がポンと俺の頭に浮かんだ。
俺は新年早々、クソどでかいため息をついた。形式だけと王宮近くに住む貴族が来るだけだろうと小さな広間で新年の挨拶を受けている所謂「新年祭改め新年会」。皆予想通り手紙だけで済ませて、それにこちらも手紙を出し……で済ませているのにわざわざ大人数で足を運んだ馬鹿がいる。
「クッソ恥ずかしい……馬鹿じゃねえの?」
「まあまあ……側妃様。ご準備を」
今年は略式もいい所だからラムもソレイユ様の代わりに隣に立っている俺も衣装は略式だけれど、帝国の王族の服ともなれば略式でも豪華だし動きにくい。しかも俺の場合スカートっぽく見えてそうじゃないなんかわけわからん服を着るから更に動きにくい。
「なんでソルリアは国を上げて来てんの?ばっかじゃねえの?」
「食料支援を願い出るんだろうが、アレでは国民も納得すまい」
何台も馬車を連ね……宰相と王太子とその婚約者が来ているんだと。護衛もかなりの数を連れてきているらしく困ったもんだ。でも来たんだから会わない訳にはいかないから、こうして待っている。全く意味が分からん。いつもの新年祭ならたくさんの代表がやって来て、2日くらいかけて交流パーティもあったりするから、そこで協定を結んだり取引を締結させたりするけれど、今年はどこもきていないし。
「一応、国の代表出来ておりますから、会わぬわけにも参りません。まあ、さっさと済ませましょう」
「悪いね、セイリオスも」
「仕事ですから。それに側妃様のせいではございません」
最近、セイリオスの顔つきは厳しい。クロードがまだ戻ってきていないからだ。新年前には戻る予定だったが、騎士団の到着が遅れている……俺も心配だが、セイリオスの内心はもっと荒れているんだろうな。まあそれでも良い報告もあって、多分冷夏は終わる。
「気候変動が過去のものと見比べても回復傾向にあります。まだ確証はありませんが、この冬を乗り切れば夏は期待できます!」
と報告が来ている。まだ油断はできないが、少しだけ安心した。
「ソルリア王太子エイダン様おつきでございます」
面倒ごとはさっさと終わらすに限る。侍従の声が響いたので俺達は雑談をやめて、口を閉じた。
「帝国皇帝ラムシェーブル陛下には初めてお目にかかります。ソルリア王太子エイダンでございます」
ディエスの中の俺が知らない記憶の奥底にある異母兄弟のエイダン。はっきり言って凄く似ていない。髪の色も俺がファンタジーな紫色なのにエイダンは茶色だし、俺は黄色い目で弟は茶色だ。まあちょっと似てる?かな??ってくらい。割と埋没しそうな色だななんて思ってない。ついでに言えば体格も似てない。俺はスッとした母親に似ているけれど、エイダンは父親……ソルリア国王に似てる。ていうかそっくり!骨格が横に広いというか、がっしりとした……ああ、ゼルトラン君系のシルエットだ。
まあ俺がソルリア国王の息子ですって言うより、エイダン君が息子ですって言う方がしっくりくるそんな姿形だ。
そんでなんか知らんがエイダン君の後ろに控えている令嬢が俺を睨んでくる。誰だっけあれ……と考えるけど、宰相そっくりの目だわ。あー娘ね、娘。宰相は娘を婚約者に据えてたんだね。
そんでドレスは濃いピンク。とっても濃い。ラムの機嫌が急降下するくらい赤に近いピンク。はあ、どうしてこうもまぁラムの地雷を踏んでくるのか。
俺はそっとセイリオスを見るとセイリオスも小さくため息ををついたから、ダメな奴でした。あーあ、早く帰ってくんないかな?
エイダン君が形式通りの挨拶をすると、横から宰相のおっさんが首を突っ込んで来た。必死さが伝わるけど、ラムの眉毛が5ミリくらい不快で上がったからもうダメだー!早く帰れ。まだ取り返しがつくぞ!
「この度は第2皇子が御生まれになったとかで、おめでとうございます。ご尊顔を拝見したく……」
馬鹿かな?この場にいないちっちゃい赤ちゃんを連れてこいって言ってんのかな??何でこの場にいないのか考えれば分かるだろ!そうでなくても寒いんだ。不特定多数が出入りするこんな所に連れて来て赤ちゃんが風邪を引いたらどうすんだ!
ついでに言うと帝国皇帝の皇子様だぞ?なんで同盟国でもない他国の人間に会わせるんだよ、ねーよ!
「正妃はまだ体調が万全ではない」
あったりまえだっつーの!
「では皇子のお姿だけでも……」
ビキッと空気が凍った。因みに俺も空気を凍らせ隊の一員だ。皇帝陛下がダメだって言ってんのに食い下がるとか!このおっさんマジで宰相なの?!嘘だろ??ソルリア終わったな。
因みに怒りて空気を凍らせたのはラム、俺、セイリオスと、クロードの代わりに警備を指揮している副団長のマキシマと騎士達、近衛……まあ、この城の全員だと思ってくれれば良い。
見る分にはにこやかで美しいと言われた花の顔のセイリオスが半歩だけ前へ出る。完全に後ろ姿には
「うざい、帰れ!この無能。時間の無駄」
と書いてある気がする。
「遠い中、わざわざ我が帝国までご足労誠に有難うございます。しかしながら、本日はここらでお開きと致しましょう。民思う故とご容赦願いたい。互いの国の繁栄の為に」
トゲがいっぱい生えたセイリオスがもはや解散宣言を出した!やるぅ!まだ開始から1時間も経ってない午前中だぞ!
メイドや侍従がびっくりしているけど、誰も異論なんて唱えないし、ラムも眉ひとつ動かさず黙っている。これは同意したって事だ。
メイド達は静かに厨房へ走って行って調理の中止を料理長に言うだろう。まぁあの料理長の事だ。きっと想定済みで、作ってしまった料理は箱か何かに詰めてお弁当みたいなお土産にして来てくれた人に持たせたりすると思う。
ラムが立ち上がり俺の腰に手を回す。帰るぞ、と言う合図だ。ま、当然だよな。俺たちが歩き出そうとする瞬間、宰相は口を開く。
「ま、待ってください!我が国に、支援を!その側妃の故国ですぞ!!」
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