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82 お前の空を知りたい(皇帝ラムシェーブル視点
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「タクノミはしばらく無しか……」
残念だ、とても非常に残念だが騎士達に酒を振る舞ったのは非常に好評だった。しかもこの何でも高値の時にやったのは更に効果的だったらしい。
「セントバーナードはいねぇからな!」
良くわからんが寒さで死にかけた時は酒精の強い酒で体を温める物らしい。犬が助けてくれるそうだ。賢いな。
「ラムの大好きな酒が無くなっちまった……ごめんな」
ディエスが何度も何度も謝って来るが別に私は酒が好きな訳ではない。好んで飲む物ではなかったから、あんなに溜まっていたのにディエスは私が無類の酒好きだと勘違いしている。
「お前と飲むから楽しいのだが……」
「えー?何?呼んだー?」
「いや、呼んでないぞ」
夜もふけもう寝るかと言う所で、ディエスは何故か厨房に走って行って……帰って来た。
両手に大きなジョッキを持っている。
「ありがとー」
扉も衛兵に開けてもらったようで、おっとっと!と言いながら近くまで寄ってきた。
「ごめんな?皇帝陛下に安酒持ってきちまった」
見ればほかほかと湯気を上げているホットワインだった。
「飲まねぇ?あったかいぜ」
「貰おう」
安い赤ワインだと言う。ディエスは何かの伝手で手に入れたのだろう。スパイスと柑橘の香りがする。
「はー高級酒を兵士に振る舞って頂き誠にありがとうございます」
「うむ、私は出来た皇帝陛下だからな」
「あはは!全くだ!部下には気前よくくれてやって本人は安酒だ!」
ディエスはもう「ごめんな」とは言わなかったが、すまなそうに眉を下げている。
あんな高級酒より、お前と飲む安酒の方がとても美味いよ。
「バルコニー、出てみよう」
今夜も凍えるような寒さなのに酔狂にもそんな事を言う。だが、手に持ったワインの暖かさがそれを可能にする。
「寒いとさ、星がきれいなんだってよ。空気が凍って良く見える」
言われてみれば、満天の星空だ。明かりの節約で王宮も火を落としているし、街も暗い。教育の一環で習った標の星が良く見える。
「しらねぇ星ばっかだ。当然か」
「お前のいた所はどうだったんだ?」
ディエスは私にあまりカズシの世界の話をしたがらなかった。話してくれないだろうと思って聞いてみたが
「星は見えなかったな。薄ぼんやりとあるかないか分からない程度。こんなにきれいに見えるなんて割と感動モンだ」
「そうか」
ごく自然に話し始める。
「俺に田舎なんてないから、あの何も見えない空が普通だった。こっちの空もしっかり見たのは初めてかもしんないなぁ……」
伸ばせと言ったから長くなり始めた紫の髪が揺れている。あー寒い!と鼻の先や耳を赤くしながら空を見上げてたまにワインを啜る。ここではない場所の事を考えているディエスはとても遠い。壁があり、いつでもその向こうに行ってしまう…‥手を伸ばしても届かずこちらに戻ってこない気がして、とても恐ろしくて……。
「寒い」
お前のぬくもりに触れられぬ日が来るのかと思うと、とても心が冷えてゆく。
「あーーーだよなあ!芯まで冷える前に入ろうぜ!」
中に行こうと手を握ったその暖かさに安堵する。この手を永遠に離さず、ずっと繋いでいれたなら私の心は暖かいままでいられるのだろうか。
残念だ、とても非常に残念だが騎士達に酒を振る舞ったのは非常に好評だった。しかもこの何でも高値の時にやったのは更に効果的だったらしい。
「セントバーナードはいねぇからな!」
良くわからんが寒さで死にかけた時は酒精の強い酒で体を温める物らしい。犬が助けてくれるそうだ。賢いな。
「ラムの大好きな酒が無くなっちまった……ごめんな」
ディエスが何度も何度も謝って来るが別に私は酒が好きな訳ではない。好んで飲む物ではなかったから、あんなに溜まっていたのにディエスは私が無類の酒好きだと勘違いしている。
「お前と飲むから楽しいのだが……」
「えー?何?呼んだー?」
「いや、呼んでないぞ」
夜もふけもう寝るかと言う所で、ディエスは何故か厨房に走って行って……帰って来た。
両手に大きなジョッキを持っている。
「ありがとー」
扉も衛兵に開けてもらったようで、おっとっと!と言いながら近くまで寄ってきた。
「ごめんな?皇帝陛下に安酒持ってきちまった」
見ればほかほかと湯気を上げているホットワインだった。
「飲まねぇ?あったかいぜ」
「貰おう」
安い赤ワインだと言う。ディエスは何かの伝手で手に入れたのだろう。スパイスと柑橘の香りがする。
「はー高級酒を兵士に振る舞って頂き誠にありがとうございます」
「うむ、私は出来た皇帝陛下だからな」
「あはは!全くだ!部下には気前よくくれてやって本人は安酒だ!」
ディエスはもう「ごめんな」とは言わなかったが、すまなそうに眉を下げている。
あんな高級酒より、お前と飲む安酒の方がとても美味いよ。
「バルコニー、出てみよう」
今夜も凍えるような寒さなのに酔狂にもそんな事を言う。だが、手に持ったワインの暖かさがそれを可能にする。
「寒いとさ、星がきれいなんだってよ。空気が凍って良く見える」
言われてみれば、満天の星空だ。明かりの節約で王宮も火を落としているし、街も暗い。教育の一環で習った標の星が良く見える。
「しらねぇ星ばっかだ。当然か」
「お前のいた所はどうだったんだ?」
ディエスは私にあまりカズシの世界の話をしたがらなかった。話してくれないだろうと思って聞いてみたが
「星は見えなかったな。薄ぼんやりとあるかないか分からない程度。こんなにきれいに見えるなんて割と感動モンだ」
「そうか」
ごく自然に話し始める。
「俺に田舎なんてないから、あの何も見えない空が普通だった。こっちの空もしっかり見たのは初めてかもしんないなぁ……」
伸ばせと言ったから長くなり始めた紫の髪が揺れている。あー寒い!と鼻の先や耳を赤くしながら空を見上げてたまにワインを啜る。ここではない場所の事を考えているディエスはとても遠い。壁があり、いつでもその向こうに行ってしまう…‥手を伸ばしても届かずこちらに戻ってこない気がして、とても恐ろしくて……。
「寒い」
お前のぬくもりに触れられぬ日が来るのかと思うと、とても心が冷えてゆく。
「あーーーだよなあ!芯まで冷える前に入ろうぜ!」
中に行こうと手を握ったその暖かさに安堵する。この手を永遠に離さず、ずっと繋いでいれたなら私の心は暖かいままでいられるのだろうか。
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