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80 荒れる国内

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「おと、さま……」

「リリシア……」

 栄華を誇っていたレジム家は今や見る影もなかった。使用人はどこからともなく最近現れた男が一人だけ。後は全員逃げた。屋敷の手入れなど出来るわけもなく、人が住めるのはレジム公爵の執務室とリリシアの部屋、そして厨房くらいであった。

「本日も督促状が多数届いておりますが?」

「……無理だ……払えぬ……」

「ご領地より民の暴動が起こり、お屋敷が占拠されたと報告が来ております」

「恐ろしいわ……」

 レジム家で売れるものはもう売りさばいてしまった。リリシアのドレスも宝石も全て売った。土地ももうほとんど残っていない。他の貴族に助けを求めても誰も取り合ってくれなかった。

「レジム公よ、私とて自らの領民を守るのに精いっぱいなのだ。今年の冷夏はそれほど酷い。公も知っておろう?何せ早くより陛下と側妃殿から通達が来ておったものな。あれのお陰でなんとか食つなぐことが出来る」

 どの家もどの家もそうだった。これから冷えがどれくらい続くか分からない今、誰も余裕などない。民の不満は高まって、王都ですら暴動が起こり、騎士団が出動し鎮圧されたりしている。どこの領地でも暴動は起こっているが、対策が甘かった地域は本当に酷い有様だという。

 当然一番酷いのはレジム領だった。王都のすぐそばに拝領しているのに、餓死者が路上に放置されているという話まで伝わってきているし、毎日レジム領からガリガリに痩せた人達が王都の貧民街に流れ着いている。

「何か……なにか、食べさせて……」

「俺達も裕福じゃねえが、ここまでじゃねえぜ……」

「芋を少し分けてやるから……貧民街から炭鉱夫募集まだやってるから、そっち行ってみたらどうだ?飯と寝る所はあるってよ」

「ありがとう、ありがとうございます!!」

 人が流れ込み、そして連れていかれる。毎日繰り返されていた。


「王都での死者はそうでもないな……レジム領がやばいな。あと対策をしてなかった伯爵領も……後、侯爵領はゼオラルド家とメルビオ家はかなり苦しそうだ」

「ゼオラルドはレジムと懇意にしていたな。メルビオは」

「うん、暇がなくて後回しにしていた」

 本当は4公爵家、6侯爵家全員と話をしておきたかったんだけど、無理だったんだなぁ~。向こうから会いたいと言っても来なかったし、忙しかったんだもん。

「小麦の植え替えが遅れたからな。あれだけ通達したのに信じなかった者も悪かろう」

「そだね……」

 俺達は目を伏せてじっと耐えるしかない。春はまだ遠い。

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