上 下
66 / 139

66 密偵メイド、暗躍する!

しおりを挟む
 私は密偵メイド、クリスチーネ!ちょっぴり殿方同士の恋愛を観察するのが大好きな18歳の女子よ!今日は朝から陛下と私の観察対象愛するのアイリスの君ことディエス様のイチャイチャを見れてやる気がぐんと補充された上に嫉妬に打ち震えて血涙さえ流しそうなクロード騎士団長を見れて私の気力所謂腐力ゲージは満タンだわ!

「あ、あーん……だと?!」

 小さな声も聞き逃さない、それが私!私達!!

 そして出来るメイドはその上を行くっ!!

「クリスチーネ、コレよ。料理長から貰って来たわ!」

「ありがとう、ケイトリーゼ。流石よ」

 そして私はしらっとした顔で騎士団長に近づくの。

「あの、騎士団長様。側妃様より言伝なのですが」

「……なんだ」

 私は料理長から貰ってきて可愛くパッケージされたクッキーを騎士団長様に差し出す。騎士団長様から全てを爆殺するほどの殺気が漏れ出ているけれど、私は、負けない!

「ディエス様の……いえ、陛下からのご指示なのですが、この「例の夏の件に関する」このクッキーを試食し、感想を述べよと言う事です。気心の知れた騎士団員ではなく、文官の方に必ず!手ずから食べて頂き!どうであったか感想を貰うようにと!厳命でございます!」

 ちょっとだけウソを言った。でもディエス様なら許してくださる。

「何故私が、文官共に?しかも食わせろと?貴様、私は暇人ではない……「陛下の厳命でございます」……うっ」

 叶わぬ想いに身を焦がし、色々問題を起こしているクロード騎士団長ですが、彼はとても根はまじめで優秀な方であり、王家の、特に陛下に忠誠を誓っている方です。

「陛下の、厳命でございます」

「……あい分かった」

 私の勝利の瞬間である。そして可愛らしくラッピングされたクッキーを無理やり持たせて……騎士団長は第二資料室へ消えた。

 私達は知っている。第二資料室は陛下の執務室へ行く途中にこじんまりとした細い通路の先にある、とっても目立たない特に重要な書類など一つも置いていない資料室だという事を!更に最近私達で埃一つなくきれいに掃除もしている事を!

「あーあーこちらクリスチーヌ。第一ミッションコンプリート、どうぞ」

「了解、クリスチーヌ。次は私がやります」

「オーケーケイトリーゼ。健闘を祈る」

 廊下の端と端で双眼鏡を覗きながら読唇術で会話する私達。

「ほどほどにしておくんだぞ」

「大丈夫です、ヘマはしませんって」

 扉の前を守る衛兵さんに苦笑いをされてしまいました……へへへ。



 さて、私は密偵メイドのケイトリーゼでございます。こちらも料理長から預かったクッキーの包みを片手に執務室から出てくる宰相のセイリオス様を待っております。あっと出てきました!今日も圧倒的イケメン!イケメンでございますが、私達はアイリスの君の方が好きなので、無様なマネはしませんわ。
 ディエス様の良い所は意外と言葉遣いが荒く庶民的な上に自分では隠しているつもりなので甘やかすのが上手な所で……おっと、可愛い上司の語りは後にしましょう。

 すっと進みでて、セイリオス様の横に近づきます。正面は不敬ですからね。

「アイリスの君より言付かっております」

「……聞こう」

 あ、疑いましたね?そりゃそうです。扉の中で散々話し合ったのに、出てきた途端言伝っておかしい物ね。でも、頭のいい人って勘違いしてくれるの、私知っているわ。

「「例の夏の対策」用のクッキーを試食していただきたいとのことです。文官ではなく武官の意見を聞くようにと」

「……ふむ。気心の知れた部下だと私に慮って本音を言えないという事ですか……。まあこの件は公にしていませんしね、秘密裡でもあるという事ですね」

 私は何も言わずに深々とお辞儀をする。そんな感じだと頭のいい人は更に勝手に誤解してくれる。

「分かりました」

 と、答えてくれる。やっぱり頭のいい人は違うなあ。そして頭をあげてから、ちらりと第二資料室へ続く廊下を見て、またぱっと頭を下げる。頭のいい人は……。

「どうかしましたか?」

 やっぱり頭のいい人は違うなあ!

「あ、あの……あの通路の向こうにが入って行ったように見えまして……私、怖くて」

 大きな犬でぴくりと眉が動くから、アタリなのだわ。はっきり言うけど王城の中に大きな犬なんて入り込む訳ないのにね!

「分かりました、それも確認しておきましょう」

「私、犬が苦手なので……さ、下がらせていただきますね……」

「ええ、そうなさってください」

 もう一度ペコリとお辞儀をして、第二資料室へ向かうセイリオス様の背中を見送った。心なしか足取りが軽くて速いわよねうふふー!

「君達ねえ……」

 衛兵さんに窘められちゃった。

「でもきっとディエス様の為になるわ」

「なるかなあ?」

「なりますとも!是非ともあの第二資料室に誰も近づかないようにしててくださいね!」

「……分かったよ……全く!」

 私はクリスチーヌと合流して計画が上手く行ったとハイタッチをしたわ。勿論いつもより長めの時間がたってから暗黒オーラが消えてキラキラのイケメンになった騎士団長様とお疲れでもぽわぽわの優しい感じになった宰相様が微妙な距離感で二人並んで出て来たから大成功だった訳よ。




「なあラム。第二資料室にベッドの設置を求める書類が来たんだけどどうしてかなあ?」

「資料を寝転がって読みたい奴がいるんだろう」

「あーなるほど!それちょっとわかるけど、第二資料室って読まなきゃいけない資料あったっけ?」

「何が必要になるか分からないからな。それよりそこのクッキーを取ってくれ」

「ん?これ気に入ったのかあ?まあ美味いよなあ」

「ん」

「あ、はいはい。ホレ食え」

「ん」




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜

N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間) ハーレム要素あります。 苦手な方はご注意ください。 ※タイトルの ◎ は視点が変わります ※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます ※ご都合主義です、あしからず

ひとりぼっち獣人が最強貴族に拾われる話

かし子
BL
貴族が絶対的な力を持つ世界で、平民以下の「獣人」として生きていた子。友達は路地裏で拾った虎のぬいぐるみだけ。人に見つかればすぐに殺されてしまうから日々隠れながら生きる獣人はある夜、貴族に拾われる。 「やっと見つけた。」 サクッと読める王道物語です。 (今のところBL未満) よければぜひ! 【12/9まで毎日更新】→12/10まで延長

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

処理中です...