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51 アイリスと共に生きる為に

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 肝が冷えたお茶会から間を開けずに側妃ディエスから届いた菓子折りにシルビオ侯爵令嬢サファイアとリスター侯爵令嬢プリネラはそれぞれの家で

「ひいっ!」

 と、小さく叫び声を上げた。今度は何を試されるのかと、父親と共に恐々としながら菓子の包み紙を開く。

「手紙、となんだこれは小さ過ぎるがハンカチ、か?」

「あ、ああああ……お、お父様、私達はソレで試されたのです!」

「!?正妃ソレイユのドレスの裾か!!」

 サファイアは思い出して身震いする。一瞬でサファイアは失敗したのだ。あそこであのハンカチを受け取れば……皇帝の覚えも良かったのに!

「小さい……でも私に贈ってくださったのね……お父様、私はディエス様を敵にしたくありません。我が家でも「アイリス」を愛でるべきです。これはお目溢しです、この機会を逃せば我が家は沈みます」

「誰だ……「アイリス」を「無能」などと揶揄した者は……空恐ろしいではないか……」

 そしてシルビオ侯爵は挟んであった手紙を手に取り、目を手で覆って愕然としながらそれを静かにサファイアに渡した。

「あ、あああ……」

 見て、サファイアも泣き崩れてしまう。そこにはただ一言

結婚、しないの?

 そう書かれていた。

 そうなのだ、サファイアは側妃候補だった。しかも望みの薄い。側妃候補だから婚約者はいない。そう、側妃として召し上げられなかった場合、嫁ぎ先はもう残っていない。

 サファイアはこの不安に目を背けて来た。

「わたくしが正妃!サファイア様と   
プリネラ様が側妃で陛下をお支えしましょう!」

 約束よ、とリリシアに言われ続けて信じていたのだ。何を根拠に信じたのかは今になっては分からない。しかし、絶対的な自信に満ち溢れたリリシアの言葉のろいをいつの間にか間に受けていたのだった。

「そうよ、側妃も正妃も……私達がなれるわけ無いのだわ。正妃ソレイユとの関係も良好な陛下が女性の側妃を娶るはずもない……バカだわ、私……馬鹿だったわお父様」

「サファイア……私の可愛い娘……レジム公爵との繋がりのため、お前には辛い役を押しつけていた。もう良い、我らは「アイリス」に降ろう。かの方の慈悲に縋ろうではないか」

「お父様ー……ううっ……」

 リスター侯爵家でも同じ選択をし、二人の令嬢はソレイユも美味しいと気に入った焼き菓子を食べ、小さなハンカチを常に持つようになった。



「最近私達は刺繍に凝っていまして」

「まあ!素敵な「アイリス」の刺繍ね」

 招かれた令嬢達のお茶会で、紫の花弁が美しい刺繍を披露する。そのお茶会に参加した令嬢達は自分の親に報告するだろう。シルビオ侯爵家とリスター侯爵家は側妃ディエスについた、と。

「私も「アイリス」を覚えたいですわ!是非御指南下さいませ!」

「ええ、皆様も一緒に愛ましょう?「アイリス」はとても素敵ですからね」

 彼女達は積極的にディエス派を構築していく。自分達の生き残る道はこれしかないと覚悟を決めたのだから。



「ねーラム、良い男どっかに余ってない?」

「ディエス、堂々と浮気宣言か?二晩くらい眠れると思うなよ」

「ち、ちげーーよ!こないだの令嬢二人の旦那だよ!!探してやらないと可哀想だろ!!」

「では勘違いさせた罰として一晩で許してやろう」

「理不尽!!」



 



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