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40 俺は調子に乗ってた?

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「ディエス様、甘えすぎですよ」

「……分かってる」

「嘘よ、貴方は自分の立場を分かっていないわ。貴方は皇帝陛下の機嫌一つで首を飛ばされ、全てを失う立ち位置なのよ?それなのに陛下に対してあんな無礼な態度ばかり取って!」

「分かって……いる」


 レーツィアが新作ケーキを持って王宮を訪れた。俺がソレイユ様に持っていくケーキの試作を頼んだからだ。

「レーツィア嬢ならば」

 ちょうどラムに報告したいとリゼロからの連絡も入り、俺は騎士のリンダを伴ってレーツィアと執務室の隣の部屋で会談をしている。ラムは隣の部屋でリゼロと仕事の話だ。

「貴方はソレイユ様からの覚えも良いから……殺される事はないかもしれないけれど、今はまだ王宮には反ソレイユ様派もたくさんいるのよ?そんなときに陛下の機嫌を損ねて側妃の座を追い出されたら、行く場所もなく平民になって街を彷徨うしかないのよ?分かっていて?」

「……分かってるって……俺はレーツィアみたいに商売の才能もなさそうだし、平民になっても何一つ出来る事もないことくらい」

「そうよ。まあ見た目はいいから……娼婦の様な事をすれば暫くは食べていけるかもしれないけれど、そんなの一生できるわけがないし……。だから陛下を怒らせるような事や、盾突くようなことを言っちゃ駄目よ」

 分かってる、分かってるんだけど……。確かに俺はラムに甘えているのかもしれない。ラムは俺の事が好きだろう……好きでもない奴を毎晩毎晩抱く訳がないものな。それにラムは俺が傍にいることを常に望んでいる。しかも手の届く範囲にいて、暇があれば俺の体のどこかを触っている。昼間は指だったり髪だったりするが、夜は……まあいろんな所……。

「ディエス」

 俺の名前しか呼ばない癖にその少ない文字数の中に、たくさんの思いが詰まって聞こえる。どこにも行くな、傍にいろ、お前は私の物だと必死で哀願するようなそんな思いが詰まって聞こえるんだ。

 俺はその声を振り払えないし、引き離せない。性格なのかなんなのか……求め、認めるラムの目が嬉しいのかなんなのか、あいつの手を取って望みの全てを叶えてやりたいと思ってしまうんだ。

「でもなあ……」

 でも、心のどこかでそんなに甘やかすのはどうだろうか!?と反対する自分もいる。俺は俺の望むスローライフがまだまだ遠いのにラムばっかり望みが叶うのは何か悔しい。悔しくて……意地悪をしたくなるんだよ。

「でもじゃないのよ……私は幼馴染として貴方に忠告しているの」

「それも分かってる」

 レーツィアの言う事はどこまでも正しい。俺はラムに一言「消えろ」と言われれば平民落ち所の話じゃない事も。

「その心配は不必要かと思いますが。陛下はディエス様の事が好きで好きで仕方がないみたいですよ」

 呆れ顔でリンダに言われてしまった。

「……そうだとは思うんだけれど、ディエスってすぐ調子に乗って痛い目を見るから心配で」

「はは……ははは……」

 レーツィアはまるで俺の姉のようだな。痛い目か……毎晩みてるよ。あれ?もしかして俺が生意気な事を言わなきゃ毎晩あんなことされないのか!?

「あ、あれ?レーツィア、やっぱり俺は調子に乗らない方が良いな?」

「……何を言ってるのかよくわからないけれど、当たり前じゃない。ディエスはいつまでたってもお馬鹿さんね」

 どうしよう、レーツィアは天才か!?


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