20 / 139
20 俺の上司
しおりを挟む
動けるようになってすぐに俺は「正妃の宮」を訪ねた。
「良くいらっしゃった、側妃殿」
「こんにちは、これからお世話になります」
正妃ソレイユ様は美しい女性だった。2歳の王太子は乳母らしき人が大切に抱き上げているし、ソレイユ様もお腹が大きい。次の子供を身ごもっているんだそうだ。
「我が国は、そなたの国としきたりが違う故、戸惑う事もあろうが陛下の助けとなるよう、しかと頼みますよ」
「勿体ないお言葉です」
俺は膝をついて臣下の礼を取る。それくらいはラムにちょこっと教えてもらうだけで何とか出来る。
「側妃殿……ディエス殿は、それでよろしいのか?」
はてさて、ソレイユ様が言う「それ」は「どれ」の事か。この国の正妃と側妃の在り方なのか、俺が膝を折る事なのか……ま、両方だろうな。
「良いと思います。私はここに売られた身ですが、少しの自由はあるようですから。それでいいかなと」
「中身が変わったと?」
「ええ、あまりご迷惑にならないように振る舞えるかなと思いますが」
俺について色々な報告が正妃ソレイユ様の元にも上がっているんだろうな……もしかしたらあの療養先で無邪気に俺に向って手を振ってくれていた町娘達の何人かはソレイユ様の息のかかった情報収集部隊の人だったかもしれない。
俺、アイドルじゃなかったか……ちょっとだけ、チヤホヤされるの楽しかったのにな……。
「顔と見た目だけの閨の相手以上の事が出来るなら重畳。我が家が後ろ盾となりましょう」
ラムの言う通り、ソレイユ様は俺を好意的に見てくれる。ならこの人の庇護下に入るのが正解だろう……。何せソレイユ様の一派はとても強いらしいからなあ。
「ディエス殿はわたくしに何か求めるものはおありか?」
本当に好意的に見てくれているんだ。そこまで言ってくれるとは!求める事、特にないが……あ!ある!
「お言葉に甘えていいなら一つあります」
「申してみよ」
「私の元婚約者のレーツィア・ヘッジ公爵令嬢に然るべき幸せを与えてやりたいのです」
「……どういうことか?」
「彼女は長年私を守ってくれました。しかし、私が愚かであるが故に彼女を傷物にしてしまった。元の国で彼女はきっと飼い殺される。帝国正妃のお力添えさえあれば彼女はきっと幸せに生き生きと暮らす方法が見つかるはずだと思うのです」
それがせめてものレーツィアへの心遣い。
「……側妃殿の恋人にでもするというのか?」
「まさか!そんな恐ろしい事は出来ませんよ。レーツィアを恋人にするなんて!それならまだ陛下の方が楽に扱えます!」
あのレーツィアだぞ!?5歳の頃からディエスを操りまくっていたレーツィアを?ない!絶対ない。俺が入る前のディエスはレーツィアの事を超絶甘く見ていたけれど、俺は気がついてるぞ!レーツィアは豪傑だぞ!
俺が青くなって震える寸前なのをみてソレイユ様と彼女の周りの護衛やお付きの侍女達は一瞬ぽかんと口を開けた。いやいや、あなた達、レーツィアに会った事がないからそんな顔してるんだ!
「ほ、ホホ、ホホホホ!ディエス殿は面白い事を言うわね!自分の事じゃなくて元婚約者を助けろと言うなんて!」
ソレイユ様に笑われてしまったぞ……。
「いや、しかし私に彼女を救う術はありませんから……」
「ラムシェーブルに頼むことは考えなかったの?」
「あの陛下に女性の気持ちが分かるとは思えないので……無理です」
また口を開けている。ゴミが入りますよ?
「ディエス殿……いや、ディエス様は中々慧眼でいらっしゃるわ!分かりました、わたくしが出来る範囲でレーツィア嬢が活躍できる場にお連れするとお約束します」
「ありがとうございます、ソレイユ様。ああ、頼めて良かった!」
「……自分の事より人を……報告書にあった通りの人柄」
「ん?」
「いえ。街娘達に騒がれて嬉しそうにしていたと報告書が来ておりましたよ?」
あ、やっぱり見てた人が居たんだ。
「そ、それは素敵だーカッコいいって言われて悪い気はしませんし!」
改めて言われると恥ずかしいな!皆にくすくす笑われてしまったけど、しょうがない。
俺は笑われてもクライアントの依頼に応える事が出来る社畜っったのだからな!
「良くいらっしゃった、側妃殿」
「こんにちは、これからお世話になります」
正妃ソレイユ様は美しい女性だった。2歳の王太子は乳母らしき人が大切に抱き上げているし、ソレイユ様もお腹が大きい。次の子供を身ごもっているんだそうだ。
「我が国は、そなたの国としきたりが違う故、戸惑う事もあろうが陛下の助けとなるよう、しかと頼みますよ」
「勿体ないお言葉です」
俺は膝をついて臣下の礼を取る。それくらいはラムにちょこっと教えてもらうだけで何とか出来る。
「側妃殿……ディエス殿は、それでよろしいのか?」
はてさて、ソレイユ様が言う「それ」は「どれ」の事か。この国の正妃と側妃の在り方なのか、俺が膝を折る事なのか……ま、両方だろうな。
「良いと思います。私はここに売られた身ですが、少しの自由はあるようですから。それでいいかなと」
「中身が変わったと?」
「ええ、あまりご迷惑にならないように振る舞えるかなと思いますが」
俺について色々な報告が正妃ソレイユ様の元にも上がっているんだろうな……もしかしたらあの療養先で無邪気に俺に向って手を振ってくれていた町娘達の何人かはソレイユ様の息のかかった情報収集部隊の人だったかもしれない。
俺、アイドルじゃなかったか……ちょっとだけ、チヤホヤされるの楽しかったのにな……。
「顔と見た目だけの閨の相手以上の事が出来るなら重畳。我が家が後ろ盾となりましょう」
ラムの言う通り、ソレイユ様は俺を好意的に見てくれる。ならこの人の庇護下に入るのが正解だろう……。何せソレイユ様の一派はとても強いらしいからなあ。
「ディエス殿はわたくしに何か求めるものはおありか?」
本当に好意的に見てくれているんだ。そこまで言ってくれるとは!求める事、特にないが……あ!ある!
「お言葉に甘えていいなら一つあります」
「申してみよ」
「私の元婚約者のレーツィア・ヘッジ公爵令嬢に然るべき幸せを与えてやりたいのです」
「……どういうことか?」
「彼女は長年私を守ってくれました。しかし、私が愚かであるが故に彼女を傷物にしてしまった。元の国で彼女はきっと飼い殺される。帝国正妃のお力添えさえあれば彼女はきっと幸せに生き生きと暮らす方法が見つかるはずだと思うのです」
それがせめてものレーツィアへの心遣い。
「……側妃殿の恋人にでもするというのか?」
「まさか!そんな恐ろしい事は出来ませんよ。レーツィアを恋人にするなんて!それならまだ陛下の方が楽に扱えます!」
あのレーツィアだぞ!?5歳の頃からディエスを操りまくっていたレーツィアを?ない!絶対ない。俺が入る前のディエスはレーツィアの事を超絶甘く見ていたけれど、俺は気がついてるぞ!レーツィアは豪傑だぞ!
俺が青くなって震える寸前なのをみてソレイユ様と彼女の周りの護衛やお付きの侍女達は一瞬ぽかんと口を開けた。いやいや、あなた達、レーツィアに会った事がないからそんな顔してるんだ!
「ほ、ホホ、ホホホホ!ディエス殿は面白い事を言うわね!自分の事じゃなくて元婚約者を助けろと言うなんて!」
ソレイユ様に笑われてしまったぞ……。
「いや、しかし私に彼女を救う術はありませんから……」
「ラムシェーブルに頼むことは考えなかったの?」
「あの陛下に女性の気持ちが分かるとは思えないので……無理です」
また口を開けている。ゴミが入りますよ?
「ディエス殿……いや、ディエス様は中々慧眼でいらっしゃるわ!分かりました、わたくしが出来る範囲でレーツィア嬢が活躍できる場にお連れするとお約束します」
「ありがとうございます、ソレイユ様。ああ、頼めて良かった!」
「……自分の事より人を……報告書にあった通りの人柄」
「ん?」
「いえ。街娘達に騒がれて嬉しそうにしていたと報告書が来ておりましたよ?」
あ、やっぱり見てた人が居たんだ。
「そ、それは素敵だーカッコいいって言われて悪い気はしませんし!」
改めて言われると恥ずかしいな!皆にくすくす笑われてしまったけど、しょうがない。
俺は笑われてもクライアントの依頼に応える事が出来る社畜っったのだからな!
445
お気に入りに追加
7,216
あなたにおすすめの小説
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
【BL】SNSで人気の訳あり超絶イケメン大学生、前立腺を子宮化され、堕ちる?【R18】
NichePorn
BL
スーパーダーリンに犯される超絶イケメン男子大学生
SNSを開設すれば即10万人フォロワー。
町を歩けばスカウトの嵐。
超絶イケメンなルックスながらどこか抜けた可愛らしい性格で多くの人々を魅了してきた恋司(れんじ)。
そんな人生を謳歌していそうな彼にも、児童保護施設で育った暗い過去や両親の離婚、SNS依存などといった訳ありな点があった。
愛情に飢え、性に奔放になっていく彼は、就活先で出会った世界規模の名門製薬会社の御曹司に手を出してしまい・・・。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?
み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました!
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません
柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。
父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。
あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない?
前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。
そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。
「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」
今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。
「おはようミーシャ、今日も元気だね」
あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない?
義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け
9/2以降不定期更新
無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~
紫鶴
BL
早く退職させられたい!!
俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない!
はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!!
なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。
「ベルちゃん、大好き」
「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」
でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。
ーーー
ムーンライトノベルズでも連載中。
【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜
N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間)
ハーレム要素あります。
苦手な方はご注意ください。
※タイトルの ◎ は視点が変わります
※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます
※ご都合主義です、あしからず
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる