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20 俺の上司

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 動けるようになってすぐに俺は「正妃の宮」を訪ねた。

「良くいらっしゃった、側妃殿」

「こんにちは、これからお世話になります」

 正妃ソレイユ様は美しい女性だった。2歳の王太子は乳母らしき人が大切に抱き上げているし、ソレイユ様もお腹が大きい。次の子供を身ごもっているんだそうだ。

「我が国は、そなたの国としきたりが違う故、戸惑う事もあろうが陛下の助けとなるよう、しかと頼みますよ」

「勿体ないお言葉です」

 俺は膝をついて臣下の礼を取る。それくらいはラムにちょこっと教えてもらうだけで何とか出来る。

「側妃殿……ディエス殿は、それでよろしいのか?」

 はてさて、ソレイユ様が言う「それ」は「どれ」の事か。この国の正妃と側妃の在り方なのか、俺が膝を折る事なのか……ま、両方だろうな。

「良いと思います。私はここに売られた身ですが、少しの自由はあるようですから。それでいいかなと」

「中身が変わったと?」

「ええ、あまりご迷惑にならないように振る舞えるかなと思いますが」

 俺について色々な報告が正妃ソレイユ様の元にも上がっているんだろうな……もしかしたらあの療養先で無邪気に俺に向って手を振ってくれていた町娘達の何人かはソレイユ様の息のかかった情報収集部隊の人だったかもしれない。

 俺、アイドルじゃなかったか……ちょっとだけ、チヤホヤされるの楽しかったのにな……。

「顔と見た目だけの閨の相手以上の事が出来るなら重畳。我が家が後ろ盾となりましょう」

 ラムの言う通り、ソレイユ様は俺を好意的に見てくれる。ならこの人の庇護下に入るのが正解だろう……。何せソレイユ様の一派はとても強いらしいからなあ。

「ディエス殿はわたくしに何か求めるものはおありか?」

 本当に好意的に見てくれているんだ。そこまで言ってくれるとは!求める事、特にないが……あ!ある!

「お言葉に甘えていいなら一つあります」

「申してみよ」

「私の元婚約者のレーツィア・ヘッジ公爵令嬢に然るべき幸せを与えてやりたいのです」

「……どういうことか?」

「彼女は長年私を守ってくれました。しかし、私が愚かであるが故に彼女を傷物にしてしまった。元の国で彼女はきっと飼い殺される。帝国正妃のお力添えさえあれば彼女はきっと幸せに生き生きと暮らす方法が見つかるはずだと思うのです」

 それがせめてものレーツィアへの心遣い。

「……側妃殿の恋人にでもするというのか?」

「まさか!そんな恐ろしい事は出来ませんよ。レーツィアを恋人にするなんて!それならまだ陛下の方が楽に扱えます!」

 レーツィアだぞ!?5歳の頃からディエスを操りまくっていたレーツィアを?ない!絶対ない。俺が入る前のディエスはレーツィアの事を超絶甘く見ていたけれど、俺は気がついてるぞ!レーツィアは豪傑だぞ!
 俺が青くなって震える寸前なのをみてソレイユ様と彼女の周りの護衛やお付きの侍女達は一瞬ぽかんと口を開けた。いやいや、あなた達、レーツィアに会った事がないからそんな顔してるんだ!

「ほ、ホホ、ホホホホ!ディエス殿は面白い事を言うわね!自分の事じゃなくて元婚約者を助けろと言うなんて!」

 ソレイユ様に笑われてしまったぞ……。

「いや、しかし私に彼女を救う術はありませんから……」

「ラムシェーブルに頼むことは考えなかったの?」

「あの陛下に女性の気持ちが分かるとは思えないので……無理です」

 また口を開けている。ゴミが入りますよ?

「ディエス殿……いや、ディエス様は中々慧眼でいらっしゃるわ!分かりました、わたくしが出来る範囲でレーツィア嬢が活躍できる場にお連れするとお約束します」

「ありがとうございます、ソレイユ様。ああ、頼めて良かった!」

「……自分の事より人を……報告書にあった通りの人柄」

「ん?」

「いえ。街娘達に騒がれて嬉しそうにしていたと報告書が来ておりましたよ?」

 あ、やっぱり見てた人が居たんだ。

「そ、それは素敵だーカッコいいって言われて悪い気はしませんし!」

 改めて言われると恥ずかしいな!皆にくすくす笑われてしまったけど、しょうがない。
 俺は笑われてもクライアントの依頼に応える事が出来る社畜っったのだからな!

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