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17 男の側妃という物
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「ほら、食え」
「……ん」
目を開くとやっぱり元のベッドの上だったが、隣にランスなのか皇帝なのか分からない男がいて、朝食を食べていた。ぐちゃぐちゃのどろどろになったはずのベッドは整えられていて、誰かがやって来て片付け、さらに飯を置いて行った、そんな感じがする。
少し冷めたスープと色々なパンとそれにつけるジャム。たくさんの果物が山盛りになったテーブル。まだ暖かいナッツの入ったパンを手渡され、もふりとかみついた。
「……美味い……」
「それ以上痩せなくていいからな、食え」
「うん……」
自国にいた時より美味しいパンを食べている……。
「私の名前はラムシェーブル・ウル・ルドラス。南の帝国と呼ばれるルドラス帝国の270代目の皇帝だ。そしてお前の知るランスは私の部下で変装が得意な情報収集の手の者だ。ディエスが送り出される時に本物のランスと入れ替わった。そして時々その入れ替わったランスと私が入れ替わって……お前をからかって遊んでいた」
「趣味悪いな」
「高尚とは言わんよ」
一歩も動けない……いや、腕すら動かすのが億劫な俺の為に果物を取ってくれたり飲み物を取ってくれたりする優しさがラムシェーブル……ラムにはある。
「さて、この帝国のつまらんしきたりを教えてやろう。ここでの正妃の仕事は……子を産むことだけだ。ディエスが側妃として召し上げられたという事は正妃がいるという事だ、分かるとは思うが」
「ああ」
体のだるさも手伝って俺はおざなりに返事をする。
「産まれた時から正妃となる女は決められていて、成人と共に結婚し子を成す事のみを行う……。正妃は正妃の宮に住み、皇帝と言えど夜の渡り以外近づくことは嫌がられる。正妃とまともに会話することもほぼない」
「そう……なんだ……」
何と言うかそれはそれでどうなんだ?と思うんだが、それがこの帝国のしきたりならしょうがないのか?
「そして、その他の事は側妃が執り行うのだが……正妃との間に子がある場合、男の側妃を。ない場合女の側妃を置く。正妃との間に子があっても女の側妃を召す事もある」
「……正妃に不満があれば、女性の側妃を迎えるという事か?」
「そうだ」
ラムはつまらなさそうにため息をつく。
「正妃が気に入らない場合、女の側妃を置いて、それが子を産み、使える子ならば正妃を交代させる……過去にはあったことだ。私は今の正妃……名前をソレイユというのだが……彼女に何の不満もない。そして彼女の産んだ王太子にも不満はないし、今次の子を妊娠中だ。だから男の側妃を迎えた、そういう事だ」
「男であれば……子を成せない。正妃の地位は揺るがない?」
「そうだ。正妃の交代は国の根幹を揺るがす事もある。男の側妃は国がしっかりと機能していると内外に知らしめることでもある。そして帝国皇帝の妃たるもの、適当な人間では困る……廃嫡されたとはいえ元王太子はちょうどいい人材であった訳だ」
そんなしきたりがあったんだ……国が変われば何とやらというけれど、男を妻に迎える事がこの国では普通にあることだったなんて。
「まあ……側妃の数に制限はないから、色々な不都合も過去にはあったらしいがな」
「そうなんだ」
俺は何人目の側妃なんだろうな……?聞いてみたいような聞きたくないような。
「そういう兼ね合いもあって、ディエスには色々頑張ってもらわなければならない事がある。中の人が入れ替わっているんだろう?無能じゃないならできるよな」
「ランスなら知ってると思うが、俺はスローライフをしたいんだけど……?」
「いずれ出来る様になったらすると良い」
なんだかはぐらかされた気分だが、男の俺を所望した意味が分かってその辺りはすっきりした。
「……ん」
目を開くとやっぱり元のベッドの上だったが、隣にランスなのか皇帝なのか分からない男がいて、朝食を食べていた。ぐちゃぐちゃのどろどろになったはずのベッドは整えられていて、誰かがやって来て片付け、さらに飯を置いて行った、そんな感じがする。
少し冷めたスープと色々なパンとそれにつけるジャム。たくさんの果物が山盛りになったテーブル。まだ暖かいナッツの入ったパンを手渡され、もふりとかみついた。
「……美味い……」
「それ以上痩せなくていいからな、食え」
「うん……」
自国にいた時より美味しいパンを食べている……。
「私の名前はラムシェーブル・ウル・ルドラス。南の帝国と呼ばれるルドラス帝国の270代目の皇帝だ。そしてお前の知るランスは私の部下で変装が得意な情報収集の手の者だ。ディエスが送り出される時に本物のランスと入れ替わった。そして時々その入れ替わったランスと私が入れ替わって……お前をからかって遊んでいた」
「趣味悪いな」
「高尚とは言わんよ」
一歩も動けない……いや、腕すら動かすのが億劫な俺の為に果物を取ってくれたり飲み物を取ってくれたりする優しさがラムシェーブル……ラムにはある。
「さて、この帝国のつまらんしきたりを教えてやろう。ここでの正妃の仕事は……子を産むことだけだ。ディエスが側妃として召し上げられたという事は正妃がいるという事だ、分かるとは思うが」
「ああ」
体のだるさも手伝って俺はおざなりに返事をする。
「産まれた時から正妃となる女は決められていて、成人と共に結婚し子を成す事のみを行う……。正妃は正妃の宮に住み、皇帝と言えど夜の渡り以外近づくことは嫌がられる。正妃とまともに会話することもほぼない」
「そう……なんだ……」
何と言うかそれはそれでどうなんだ?と思うんだが、それがこの帝国のしきたりならしょうがないのか?
「そして、その他の事は側妃が執り行うのだが……正妃との間に子がある場合、男の側妃を。ない場合女の側妃を置く。正妃との間に子があっても女の側妃を召す事もある」
「……正妃に不満があれば、女性の側妃を迎えるという事か?」
「そうだ」
ラムはつまらなさそうにため息をつく。
「正妃が気に入らない場合、女の側妃を置いて、それが子を産み、使える子ならば正妃を交代させる……過去にはあったことだ。私は今の正妃……名前をソレイユというのだが……彼女に何の不満もない。そして彼女の産んだ王太子にも不満はないし、今次の子を妊娠中だ。だから男の側妃を迎えた、そういう事だ」
「男であれば……子を成せない。正妃の地位は揺るがない?」
「そうだ。正妃の交代は国の根幹を揺るがす事もある。男の側妃は国がしっかりと機能していると内外に知らしめることでもある。そして帝国皇帝の妃たるもの、適当な人間では困る……廃嫡されたとはいえ元王太子はちょうどいい人材であった訳だ」
そんなしきたりがあったんだ……国が変われば何とやらというけれど、男を妻に迎える事がこの国では普通にあることだったなんて。
「まあ……側妃の数に制限はないから、色々な不都合も過去にはあったらしいがな」
「そうなんだ」
俺は何人目の側妃なんだろうな……?聞いてみたいような聞きたくないような。
「そういう兼ね合いもあって、ディエスには色々頑張ってもらわなければならない事がある。中の人が入れ替わっているんだろう?無能じゃないならできるよな」
「ランスなら知ってると思うが、俺はスローライフをしたいんだけど……?」
「いずれ出来る様になったらすると良い」
なんだかはぐらかされた気分だが、男の俺を所望した意味が分かってその辺りはすっきりした。
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