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12 ある晴れた昼下がり

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「……側妃として南の大帝国へ行け……?」

「宰相閣下からのご命令だ。命拾いしたな」

「……側妃……」

 ひ、ひ、妃。つまりは、帝国っつー所の王様の嫁。しかも側妃って事は正妃と言う人がいるんだ。

「俺、男……」

「子は望まれて居ないから問題ない」

「……はぁ……」

「使えないお荷物が国の役に立つんだ。帝国皇帝に感謝するが良い」

 これが酷い案件か。だがこの感じ、断るという選択肢がない奴だろうな。届いたのは手紙ではなくて命令書だもん。一度王都に戻りそこから出荷されるというらしい……。

「すぐに出発する。荷物をまとめろ」

 首都からやってきた騎士達に追い立てられ、俺は馬車に詰め込まれる。

「挨拶……」

「いらん」

 気の毒そうに執事やメイド達は頭を下げて見送ってくれたし、ケビン爺ちゃんも泣きそうな顔で麦わら帽子を脱いで頭を下げた。たった半年だったけれど、ここでの生活は楽しかった。

「貴様ら!ディエス様にあまりにも失礼だろう!」

「マーキス、いい」

「しかし!」

「良いんだ」

 俺は死にたくないし、マーキスとクリスも死んで欲しくない。なら大人しく従った方がいいだろう。馬車での移動は億劫だが仕方がない。来るときは一ヵ月くらいかけてきたけれど、帰りは2週間の強行軍だった。来るとき、マーキスは結構気を使ってくれたんだなあと優しさに感謝した。


「見栄えを整えて」

「……」

 首都につくとほぼ監禁生活と、「花嫁」になる準備に明け暮れた。肌を磨き上げられ、爪を光らせ髪を整えられ……

「ぐえええええええ!」

「黙って!」

 コルセットで胴を締め上げられる。まて、男にそんなもん必要ないだろう!?食事を制限され、強制ダイエットだ。腹が減って夜も眠れない……。美容士が女性なのでその間だけ腕輪を外され、終わるとまた付けられる。

「……死にたくないがここまでする必要があるのか……?」

 男って分かってる奴をご所望なんだろう?ならそんな事しなくても良いじゃないか……。



「レーツィア様がお見えでございます」

「……お通ししてくれ」

 あと数日で出荷されるという時になり、噂の元婚約者が面会を求めてきた。向こうから会いたいと言ったんだ、何か文句を言われるんだろうな。でもディエスは言われても仕方がない最低男だからいっぱい言われることにしよう。

「……ごめんなさい、ディエス。あなたを守れなかったわ」

「へ?どういう事?」

 キラキラと輝く美女のレーツィアは何故か俺に謝った。なんでだ??浮気したし、婚約破棄したのは俺の方なのに???

「この婚約は私の方から望んだものだった。私が5歳の貴方に一目惚れした……。その時は私の家でも大賛成だったのに……エイダン様がお生まれになって貴方は……名ばかりの王太子になってしまった」

 やっぱりそうなんだ。ディエスは邪魔な子として扱われていたんだな。

「私が貴方をしっかり教育して傀儡でもいいから王にしてあげたかった……そうしたらこんな貢ぎ物のように帝国へ贈られる事もなかったのに……ごめんなさい。あの男爵令嬢の事も早めに処分してしまえば良かったのに……私には出来たのに……」

 ポロポロとレーツィアは泣き出してしまった。うわぁーー!美女を泣かせた!?俺はなんとなくしかレーツィアの事を覚えていない。体に残ったディエスの記憶だけ、そんな感じだ。金色の綺麗な髪に青い目の美少女と美女の中間くらいの美しい貴族のご令嬢。そんな子がぽろぽろと涙を零している。綺麗で、でも可哀想で……ディエスの記憶がレーツィアを慰めなくちゃと焦っている。

 ディエスは……レーツィアの事が好きだったんだな、でもミリアーヌと浮気をした。厳しい事を言うレーツィアよりなんでもかんでも認めて褒めてくれるミリアーヌにふらふらとついて行った。でもレーツィアが正しいって思ってた……馬鹿なディエス。10年以上面倒を見てくれたレーツィア、そして今でも泣いてくれるレーツィア。

「レーツィア、君は……幸せになれそう?」

「……分からない。お兄様はあなたを売ってそれなりの利益を得た。でも、私は……」

 傷物令嬢……この歳ではまともな貴族は残っていないだろう……。

「ありがとう、レーツィア。馬鹿なディエスを許してくれて」

「良いのよ、ディエスはいつでもおバカで頭が悪かったんだから……私がついてなきゃ何にもできない子だったもの」

「そんな馬鹿なディエスで良かったの?」

「おバカだから可愛かったのよ……好きだったわ、ディエス」

 レーツィアはディエスの良き理解者でいてくれた。



 
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