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43 優しい嵐
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「うっ……」
「駄目か、アラン……」
「ごめんなさい……」
「謝る事は何もない。しかし、こうも何も食べられないとなると……」
まだお腹が大きくなる前から、私の悪阻は酷い物だった。何も食べる事が出来ない。水を飲んでも吐きそうで、りんごジュースが少し飲めるだけだった。
「流石に何かお口に出来るものがありませんと……婆も心配です」
口当たりの良さそうな物は全部試してみたけど駄目だった。食べてみては気持ちが悪くなって吐き戻す。
私はみるみるうちに痩せて行ってしまう。旦那様がいつも心配そうな目で手を握り締めてくれるけれど……申し訳なくて、何か食べようとしてまた気持ちが悪くなるの繰り返しだった。
「ごめんなさい、ごめんなさい……旦那様」
「アランが謝る事なんて何もない。大丈夫、大丈夫だ」
そう言って下さるけれど、旦那様まで顔色が悪くどんどん痩せて行く。無理矢理聞き出せば私を心配し過ぎて何も喉が通らないらしい。
「ごめんなさい、旦那様……うう、ううっ……」
私のせいで旦那様に辛い思いをさせている……泣き出した私を抱きしめてくれるけれど、私は旦那様の為に何も出来ない。悲しくて情け無くて……消えてなくなりたかった。
「アクアーーー!」
「帰れ、玉ねぎ小僧」
そんな限界を迎えそうな時に何故かアメシスが私の寝室の扉を開けた。
「これでもくらえーーー!」
「きゃっ?!」
旦那様が止める間もなくアメシスにポテトフライを口に突っ込まれた。
「さっぱりした物が駄目ならこってりするしかない!て言うか前世のボクの姉ちゃんは悪阻の時にマックのポテト馬鹿喰いしてたんだ!」
私は思わず口に突っ込まれたポテトをゆっくり咀嚼する……あれ?気持ち悪くない……?
「あ、平気だ……食べられます……」
アメシスは物凄く得意そうな顔をして
「ボクが持ってきた奴だから冷めてるけど、揚げたての方が良いかもね!」
扉から中を覗き込んでいた料理長が物凄い勢いで厨房へ走って消えた。そしてすぐに揚げたてのポテトを持って来てくれた。
「美味しい……食べられます、旦那様」
「そうか!良かった。国中の芋を揚げよう」
「止めてくださいませ、うふふ、ふふ、ふふふ……ふぇえ……食べられたぁ……」
これで旦那様に心配かけなくて済むと思うと思わず泣き出してしまった。
「アクアだからなぁ~ま、ボクはアクアのイケてる弟だからね!じゃあ!ボク、こう見えても忙しいんだぞ!」
お礼を言う間も無く、アメシスは帰って行ってしまった。信じられないけれど、物凄い時間をかけてこっちの国まで来たのに、私と顔を合わせたのはほんの少しでまたとんぼ返り。移動時間ばかりなのに……もしかしたらこれはアメシス流の優しさなのかもしれない。
「……箒で追い払う暇も無かったわ……」
メイド達がちょっとだけ残念そうにしていたから、思わず苦笑してしまう。
私はアメシスのポテトフライで何とか辛い悪阻期間を乗り切る事が出来たのだった。
「駄目か、アラン……」
「ごめんなさい……」
「謝る事は何もない。しかし、こうも何も食べられないとなると……」
まだお腹が大きくなる前から、私の悪阻は酷い物だった。何も食べる事が出来ない。水を飲んでも吐きそうで、りんごジュースが少し飲めるだけだった。
「流石に何かお口に出来るものがありませんと……婆も心配です」
口当たりの良さそうな物は全部試してみたけど駄目だった。食べてみては気持ちが悪くなって吐き戻す。
私はみるみるうちに痩せて行ってしまう。旦那様がいつも心配そうな目で手を握り締めてくれるけれど……申し訳なくて、何か食べようとしてまた気持ちが悪くなるの繰り返しだった。
「ごめんなさい、ごめんなさい……旦那様」
「アランが謝る事なんて何もない。大丈夫、大丈夫だ」
そう言って下さるけれど、旦那様まで顔色が悪くどんどん痩せて行く。無理矢理聞き出せば私を心配し過ぎて何も喉が通らないらしい。
「ごめんなさい、旦那様……うう、ううっ……」
私のせいで旦那様に辛い思いをさせている……泣き出した私を抱きしめてくれるけれど、私は旦那様の為に何も出来ない。悲しくて情け無くて……消えてなくなりたかった。
「アクアーーー!」
「帰れ、玉ねぎ小僧」
そんな限界を迎えそうな時に何故かアメシスが私の寝室の扉を開けた。
「これでもくらえーーー!」
「きゃっ?!」
旦那様が止める間もなくアメシスにポテトフライを口に突っ込まれた。
「さっぱりした物が駄目ならこってりするしかない!て言うか前世のボクの姉ちゃんは悪阻の時にマックのポテト馬鹿喰いしてたんだ!」
私は思わず口に突っ込まれたポテトをゆっくり咀嚼する……あれ?気持ち悪くない……?
「あ、平気だ……食べられます……」
アメシスは物凄く得意そうな顔をして
「ボクが持ってきた奴だから冷めてるけど、揚げたての方が良いかもね!」
扉から中を覗き込んでいた料理長が物凄い勢いで厨房へ走って消えた。そしてすぐに揚げたてのポテトを持って来てくれた。
「美味しい……食べられます、旦那様」
「そうか!良かった。国中の芋を揚げよう」
「止めてくださいませ、うふふ、ふふ、ふふふ……ふぇえ……食べられたぁ……」
これで旦那様に心配かけなくて済むと思うと思わず泣き出してしまった。
「アクアだからなぁ~ま、ボクはアクアのイケてる弟だからね!じゃあ!ボク、こう見えても忙しいんだぞ!」
お礼を言う間も無く、アメシスは帰って行ってしまった。信じられないけれど、物凄い時間をかけてこっちの国まで来たのに、私と顔を合わせたのはほんの少しでまたとんぼ返り。移動時間ばかりなのに……もしかしたらこれはアメシス流の優しさなのかもしれない。
「……箒で追い払う暇も無かったわ……」
メイド達がちょっとだけ残念そうにしていたから、思わず苦笑してしまう。
私はアメシスのポテトフライで何とか辛い悪阻期間を乗り切る事が出来たのだった。
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