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37 タングストンの悪魔へから始まる手紙
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旦那様と執事のロバートは大いに頭を悩ませ、お義父様も呼び出し、メイド長も、料理長も呼んで……そこからやっと私に教えてくれた。
「こんなものが届いてな」
神妙な顔つきで旦那様と皆さんが待ち受けていた執務室へ入ると汚い紙切れを渡された。さっと目を通すと心当たりは一つしかない。
「……アメシス、でしょうか?」
タングストンの悪魔へ。お前の可愛い可愛いお月様は預からせて貰った……から始まる脅迫状だった。
「間違いないだろう。向こうの国に問い合わせたがアメシスは高速馬車でこちらへ向かったまま、帰っていない」
旦那様が感情のない声でしゃべる。そうか、旦那様にとっては「どうでもいい話」か。
「アラン様のお耳には入れておりませんでしたが、そのアメシスらしき人物が数日前より我が家へなんの先触れもなしに現れて、衛兵に追い返されております」
執事のロバートも静かに頭を下げる。ロバートにとっても「どうでもいい話」なんだね?
「昨日と一昨日ですが、クレスト家の元メイド達がアメシスらしき人物と遭遇し、追い出したと報告を貰っております」
メイド長はちょっと怒ってる。「どうでもいい」どころか憤慨する事なんだね。
「料理人達も裏口をうろうろする銀髪の男を見ております」
料理長も不機嫌顔だ。何かあったのかもしれない。
「ごめんなさい、面倒事だとは分かっています。でも10年一応兄弟として育ったんです……見捨てる事は出来ません」
あんな横暴なアメシスだったけれど、子供の頃は一緒にベッドで寝たりした事もあった。
「それにアメシスはオメガです……もし、意に染まぬ相手に噛まれたら……」
お金を要求して来てるんだから、傷物にするつもりは無いのかもしれないけれど、そんなのあんまりだと思う。
「そう言うと思っていた」
旦那様は私を抱き寄せる。
「アランならそう言うと全員思っていたのだが、確認しなくてはと思って。あんな小僧でも死んではアランの心の棘になってしまうものな?」
「旦那様、ごめんなさい。私のわがままです……皆にも迷惑をかけます」
旦那様の腕をやんわり解いて、皆に頭を下げる。意外な事に、全員小さく溜息をついてから、笑顔になった。
「ある意味安心したぞ」
今まで口を開かなかったお義父様が優しく声をかけてくれた。
「アランなら助けたいと私達に頭を下げて下げるだろうと思っておったが、予想通りで嬉しく思う」
「これで見捨てろと言うのも公爵夫人としての貫禄もついたと考える所ですが、私達は優しいアラン様の方がまだまだ気に入っているようですな」
静かにロバートは続けてくれた。
「アラン様は可愛くて優しくてそれで良いんですよ」
「貫禄は旦那様にお任せしておけば良いのです!」
「あ、ありがとう……ございます」
クレスト家から来てくれた使用人達もメイド長やロバートが説得してくれた。でもあまり関わりになりたくないとの事なので留守番などを任せる事にする。
「大丈夫だ、タングストン家に仕える者は皆優秀なのだから」
「はい、分かっております」
長らくクレスト公爵家で過ごして来た私はタングストン家のレベルの高さにいつも驚かされる。こんなに広い屋敷なのにどこを触っても埃はない。家の中も完璧なら庭も完璧だし、厨房、使用人達の住む館でさえとてもきれいにしている。
私が少し喉が渇いたなぁと思えばいつの間にかお茶が差し出されるし、一人になりたいな、と思ったら誰も居なくなっている。
そんな合間にちょっと寂しいな?と思えば遠くに誰かの足音が聞こえたり、メイドのたわいないお喋りが聞こえたりと人の気配が途端にしてくる。
「そろそろ小腹が空きませんか?クッキーとお茶をお持ちしました。今後の計画などはお茶でも飲みながら」
私のお腹事情まで本当に良く把握していてどうしたら良いのか分からなくなる。
「頂こうか、アラン」
「はい」
旦那様は広いソファに移動して私に隣に座るように促す。遠慮して少し離れて座るとすぐにピッタリ隙間を詰められてしまう……。
「ロバート、そろそろミト婆さんを常駐させろ」
「手配しておきます」
何だろうアメシスを助け出すのに必要な人なんだろうか?とにかく無事でいて欲しい……私は天に祈る。
「こんなものが届いてな」
神妙な顔つきで旦那様と皆さんが待ち受けていた執務室へ入ると汚い紙切れを渡された。さっと目を通すと心当たりは一つしかない。
「……アメシス、でしょうか?」
タングストンの悪魔へ。お前の可愛い可愛いお月様は預からせて貰った……から始まる脅迫状だった。
「間違いないだろう。向こうの国に問い合わせたがアメシスは高速馬車でこちらへ向かったまま、帰っていない」
旦那様が感情のない声でしゃべる。そうか、旦那様にとっては「どうでもいい話」か。
「アラン様のお耳には入れておりませんでしたが、そのアメシスらしき人物が数日前より我が家へなんの先触れもなしに現れて、衛兵に追い返されております」
執事のロバートも静かに頭を下げる。ロバートにとっても「どうでもいい話」なんだね?
「昨日と一昨日ですが、クレスト家の元メイド達がアメシスらしき人物と遭遇し、追い出したと報告を貰っております」
メイド長はちょっと怒ってる。「どうでもいい」どころか憤慨する事なんだね。
「料理人達も裏口をうろうろする銀髪の男を見ております」
料理長も不機嫌顔だ。何かあったのかもしれない。
「ごめんなさい、面倒事だとは分かっています。でも10年一応兄弟として育ったんです……見捨てる事は出来ません」
あんな横暴なアメシスだったけれど、子供の頃は一緒にベッドで寝たりした事もあった。
「それにアメシスはオメガです……もし、意に染まぬ相手に噛まれたら……」
お金を要求して来てるんだから、傷物にするつもりは無いのかもしれないけれど、そんなのあんまりだと思う。
「そう言うと思っていた」
旦那様は私を抱き寄せる。
「アランならそう言うと全員思っていたのだが、確認しなくてはと思って。あんな小僧でも死んではアランの心の棘になってしまうものな?」
「旦那様、ごめんなさい。私のわがままです……皆にも迷惑をかけます」
旦那様の腕をやんわり解いて、皆に頭を下げる。意外な事に、全員小さく溜息をついてから、笑顔になった。
「ある意味安心したぞ」
今まで口を開かなかったお義父様が優しく声をかけてくれた。
「アランなら助けたいと私達に頭を下げて下げるだろうと思っておったが、予想通りで嬉しく思う」
「これで見捨てろと言うのも公爵夫人としての貫禄もついたと考える所ですが、私達は優しいアラン様の方がまだまだ気に入っているようですな」
静かにロバートは続けてくれた。
「アラン様は可愛くて優しくてそれで良いんですよ」
「貫禄は旦那様にお任せしておけば良いのです!」
「あ、ありがとう……ございます」
クレスト家から来てくれた使用人達もメイド長やロバートが説得してくれた。でもあまり関わりになりたくないとの事なので留守番などを任せる事にする。
「大丈夫だ、タングストン家に仕える者は皆優秀なのだから」
「はい、分かっております」
長らくクレスト公爵家で過ごして来た私はタングストン家のレベルの高さにいつも驚かされる。こんなに広い屋敷なのにどこを触っても埃はない。家の中も完璧なら庭も完璧だし、厨房、使用人達の住む館でさえとてもきれいにしている。
私が少し喉が渇いたなぁと思えばいつの間にかお茶が差し出されるし、一人になりたいな、と思ったら誰も居なくなっている。
そんな合間にちょっと寂しいな?と思えば遠くに誰かの足音が聞こえたり、メイドのたわいないお喋りが聞こえたりと人の気配が途端にしてくる。
「そろそろ小腹が空きませんか?クッキーとお茶をお持ちしました。今後の計画などはお茶でも飲みながら」
私のお腹事情まで本当に良く把握していてどうしたら良いのか分からなくなる。
「頂こうか、アラン」
「はい」
旦那様は広いソファに移動して私に隣に座るように促す。遠慮して少し離れて座るとすぐにピッタリ隙間を詰められてしまう……。
「ロバート、そろそろミト婆さんを常駐させろ」
「手配しておきます」
何だろうアメシスを助け出すのに必要な人なんだろうか?とにかく無事でいて欲しい……私は天に祈る。
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